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第7話 彼女の仲間

【7】

 おいおいおいおい、ここは一体何処なんだよ……

 そんなことを思っていると急に巨漢の男が立ち止まった。そして、勢い良く投げ捨てられた。

「つっ……」

 刹那の浮遊感の後、尻を思いっきり強打して、痛みに耐えつつ周りを見るとそこには粗末な一軒家があった。その隣には小さいながらも畑がある。

 思わず見入っていると、家の中でドタドタと誰かが走ってくる足音がした。そして、バンッ、と大きな音を立てて扉が開くと中から誰かが飛び出してきた。

「おっかえり~、アビス、ワト、カライ、ソウ!」

 それは真っ赤な髪を無造作に一つにまとめた少女だった。少女はひとしきり四人と抱き合うと俺に向き直った。

「これが“ドクダミ”に捕まったって言う間抜けな王子様?」

 すごく失礼で頭に来る奴だ。

静かに怒りを燃やしていると、俺をここまで担いできた巨漢の男がゆっくりと口を開いた。

「……おそらく……だが、ヒメを知っていたって事は……」

 そこに巨漢の男の言葉を遮るようにして家から気の弱そうな少年が顔を出した。

「皆何をしているの? 早く入りなよ」

 少年は扉を大きく開けて、閉まらないように押さえていた。皆はその言葉に、コクリ、と頷くと素直に家の中に入っていった。

巨漢の男ももう一度俺を担ぎ上げると皆に続いて家の中に入っていった。

 家の中はとてもさっぱりとした作りになっていた。大きな机があり、それを囲うようにして何個か椅子が置いてある。部屋の奥の窓際にはソファが置いてあり、いくつか植木鉢も確認できた。

 巨漢の男は俺を担いだまま、ズカズカと部屋を横切ると窓際のソファにまたしても俺を投げ捨てた。今度はソファの上に投げられたのでどこかを強く打ち付けるということはなかった。

「皆、怪我はなさそうだね」

 少年が全員を見渡し嬉しそうに呟く。

「そうだね、王子様のひ弱なお手手が少し赤くなっているくらい」

 真っ赤な髪をした失礼な少女がサニーの縄を強引に解きながら笑って答える。

「……それで、城の様子は?」

 巨漢の男がマントを壁のホックに引っ掛けながら聞いてくる。他の三人も巨漢の男に習ってマントを掛けている。

 俺の縄を解き終えた少女は縄を部屋の端に投げ捨てて席に着いた。

「あんまり変わりがないよ~。王子様が別の場所に移されたことにまだ気付いてないみたい。バカだよね~」

 少女が、クスクス、と笑う。俺をここまで運んできた四人も席について、クスクス、と笑っていた。

 唯一気の弱そうな少年だけが静かに微笑み、入れたお茶を一人一人に配って回る。

「王子様もどうぞ」

「あっ、ありがとう」

 ここに来て初めて親切に触れ目が潤む。

 受け取ったお茶で冷え切った手を温め、次いでゆっくりと湯呑に口を付ける。お茶は程良い温度でとても不思議な味と香りがした。

 俺が静かに不思議な味と香りのするお茶を味わっていると、椅子に座って楽しそうに笑っていた全員が一斉に振り向いた。

 その動きがあまりに不気味で、俺は思わず、ビクリ、と肩を震わせた。

「こいつ、さっきからかなり静かだけど大丈夫か?」

「変な薬でも飲まされたんじゃないんですの?」

 目の前ではとっても不思議な光景が広がっていた。髪の長さは違えど、全く同じ顔をした二人が全く同じ動作をし、全く同じ声で話しているのである。

ドッペルゲンガー?

 そこで、俺に向かって真っ赤な髪をした失礼な少女が話し掛けてくる。

「ねぇ、間抜けな王子様。なんか質問無いの?」

 質問と言われても、もう既に色々な意味で許容の範囲を超えていた俺の頭の中は真っ白だった。

「え~っと、このお茶何茶?」

 俺の質問に全員が哀れみの視線を送る。ただ一人を除いて。

「それはドクダミ茶ですよ、王子様」

 にこやかな微笑みを浮かべ、気の弱そうな少年が俺の質問に答えてくれた。

「そうか……」

 ……ドクダミ、さっきまでいたところもドクダミ……

 沈黙が流れた。

俺はそのままお茶を味わい続け、気の弱そうな少年がそれを微笑ましそうに見つめる。残りの五人は開いた口が塞がらないと言うように、ポカン、とその様子を見ていた。

 そしてようやく沈黙を破ったのは真っ赤な髪をした少女だった。

「イヤイヤイヤイヤ、『そうか』じゃないでしょ! もっと他に何かあるでしょ。お前達は誰だ! とか、ここは何処だ! とか……」

 そんな少女の言葉に俺は小さく首を傾げる。

「だって……お前らはミズキの仲間だろ? それにここは町はずれの丘の上だ」

 俺の答えに誰もが黙る。所々で「うん、そうだよね」などと聞こえる。

 こいつらは一体何を求めてるんだ? と言うか俺は今一体……

 顔や言葉にこそ出てはいないが自分で思っている以上に頭の中はかなりのパニック状態だった。

 あまりに反応を示さない俺に不審を覚えたのか同じ顔をした二人の内の髪の長い方(おそらく女)が声を上げた。

「本当にこれ王子ですの?」

「間違いないよ。あたい、こいつを前に見たことあるもん」

「……俺もだ」

 真っ赤な髪をした失礼な少女がげらげら笑いながら俺を指さし、巨漢の男もそれに続く。

「でもそいつ見たのって一年くらい前でしょ? 顔つきだって変わるし、影武者かもよ」

「……」

 同じ顔をした二人の内の今度は髪の短い方(おそらく男)が俺を指さし、ウサギの人形を片手に幼女が無言で頷く。

 それからも口論は続く中、次代国王候補である俺に敬意を示すものはおらず、あれやこれやと失礼極まりない呼び方で呼び続け、誰一人として名前を呼ぼうとはしなかった。

 数分が経ち、それらの会話をニコニコしながら聞いていた、気の弱そうな少年がようやく口を挟んだ。

「皆、王子様(仮)に失礼だよ」

「……ポピーが一番失礼だよ」

 真っ赤な髪をした失礼な少女が嘆息しながら少年の言葉を否定する。いや、真っ赤な髪をした少女だけではなく今ここにいる全員が失礼であると俺は心の中で思った。

 それから更に何分か経ち、ようやく考えがまとまって―― 

「とりあえず全てはヒメに委ねよう! あたい等はヒメの考えに従うのみ!」

 いないみたいだ。と言うより思考放棄。

 ……ヒメ?

 そんな真っ赤な髪をした失礼な少女の意見に誰一人として難色を示す者はおらず、全員一致で可決した。

 ……本当にこんなんで良いのかよ。

 半ば呆れつつ思考放棄した六人を見渡した。

 一人めちゃくちゃ幼いのがいるけど、大体は俺と同じくらいの年だ。一体何を基準に集まっているんだ? と言うかこいつ等のあの動き、まるで訓練を受けた兵士のような……

 そんなことを悶々と考えていると、ふと六人の会話が耳に入った。

「そう言えばさ、アビス。さっき扉の所で何か言いかけてなかった?」

「……ああ……気になることが……あって」

「気になる事って何なんですの?」

「……ヒメを『ミズキ』と呼んでいた」

「何かおかしなとこあるか? ヒメは三日置きに城に行っていたんだぞ?」

 顔を上げると六人はお茶をしながら机を囲っていた。

「……それがおかしい」

「だ~か~ら~、何がおかしいのさ」

 巨漢の男の回りくどく、ゆったりした言い方に痺れを切らしたのか真っ赤な髪をした失礼な少女が、バン、と机を叩く。巨漢の男はゆっくりと全員の顔を見渡し口を開く。

「……ヒメはまだ王子に会ってはいない……と言っていた」

 その言葉に全員が目を見開く。

「……ヒメはレインと名付けた少年とずっと話していた……と言っていた」

 巨漢の男以外の五人はまるで開いた口が塞がらないと言うように間抜けな顔をしていた。

「えっ、えっ、それってどういう……」

 真っ赤な髪をした失礼な少女は半ば信じられない、と言うように巨漢の男に続きを促す。

「……王子がヒメの名前を呼ぶことはできない……それ以前に、ヒメの存在を知っていること自体……あり得ない」

「「「「……あっ」」」」

 衝撃的な一言だったらしく五人は目を見開き、固まってしまった。

「でっ、でもさ、そのレインって奴が王子にヒメのことを報告していたとかあるんじゃない?」

 真っ赤な髪をした失礼な少女が慌てたように顔を引きつらせながら意見する。

「……そうだとしても、レインという少年がヒメの名前を知ることは出来ない。死人は名乗れない……それに王子にバレていたというなら、とっくに城への不法侵入で捕まって……死刑。また、王子が見逃していたというならヒメの顔を知らないはず……ヒメがそんなヘマをするはずが……ない」

 巨漢の男の言葉に五人が絶句する。

 それから少し経ちずっとニコニコしていた少年がようやく口を開く。

「とりあえず、名前のことは置いておいて……アビスはここにいる王子様(仮)がヒメの言っていたレインかもしれないと言いたいのかな?」

「……その可能性が……高い」

 巨漢の男は微動だにせず、真顔のまま答えた。

「そんな……」

 同じ顔をした二人の内、少女の方が思わずそう呟くと、ガタンッ、と勢いよく椅子の倒れる音がした。

 驚いて音のした方に顔を向けると、真っ赤な髪をした失礼な少女が立ち上がり、俺を睨み付けていた。

 ツカツカと靴を鳴らし真っ赤な髪をした失礼な少女が近づいてくる。少女は俺の目の前まで来ると、ズイッ、と顔を覗き込んでくる。

「で、真相はどうなの……」

「へっ?」

 少女のあまりの気迫に思わず間抜けな声が出る。

「あんたは王子なの? レインなの? それとも……その両方なの?」

 六人全員が俺を睨み、その答えを待つ。

 一秒、また一秒と時が経つ。

 誰も動かない。誰も話さない。静かに俺の返答を待っている。得体の知れない圧力が俺を襲う。

 背中に変な汗が流れるのを感じた。

「おっ、俺は……」

 答えてはならない。俺の中で何かがそう言った。

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