第6話 待ち人はここに
【6】
どのくらい眠っていたかは分からないが夜は明けていないと思う。と言うより真っ暗だ。
俺は自分の周りに人の気配を感じ、ゆっくりと瞼を開けた。そして目の前にあったのは、金色に光る二つの大きな瞳。
「‼」
あまりにも驚きが大きく、思わず声を上げそうになる寸前、何者かの手によって口を塞がれた。
二つの金色の瞳がゆっくりと遠ざかり、幼い少女の顔が視認できた。少女は左腕にウサギのぬいぐるみを抱き、右手の人差し指を立てて口元に当てていた。どうやら、黙れ、と言っているらしい。
瞼を閉じ、了解の意を伝えると、それを見た少女は俺の背後に視線を移し、コクリ、と一つ頷いた。すると俺の口を塞いでいた手が、すっ、と離れた。
自分の口を塞いでいた者を確認しようと思い、ゆっくりと後ろを振り向く。黒いマントを頭から被っているので表情は読めないが、百八十は越えていそうな巨漢の男がそこにいた。周りを見ると他にも黒いマントを被った者が二人いる。
何なんだ、こいつらは?
警戒を怠らず、黙って様子をうかがっていると、俺の側にいた巨漢の男が俺からは死角となっている後ろのコンテナに向かって小さく頷いた。すると、コンテナの上から急に黒い陰が飛び降りて音もなく俺の前に着地した。そして、俺に合わせるように中腰になると被っていたフードを脱いだ。
「‼」
俺は驚きを隠せず目を見張った。
黒いフードから出て来た顔はあろう事かミズキだった。
「ミ……ミズキ?」
は自分の声が掠れているのを感じながらも、確かめずにはいられなかった。
ミズキはニコリと笑い掛けると小声で周りに指示を出し始めた。
「ウチが囮になって奴らの気―引くから、速やかにここから脱出し」
「……こいつは?」
巨漢の男が俺を指さし対応を尋ねる。ミズキは俺を見て確認することもなく淡々と指示を出す。
「アビスが担いで、逃走ルートはワトが指示を出すこと。カライとソウは二人の援護。合図を出したら即行動」
それだけ言うとミズキは足音も立てずに軽やかに倉庫から出て行ってしまった。
しばらくすると遠くから銃声や誰かの怒号が聞こえてきた。倉庫の中にも多くの人間が走り回る音が響いてくる。そしてその中に混じって高い笛のような音が響いた。
その音が合図だったのだろう。四人が一斉に動き出す。
まず、巨漢の男が乱暴に俺を肩に担ぎ上げ、金色の瞳を持つ少女がフードを被り巨漢の男のもう片方の肩にちょこんと座る。その間約三秒。巨漢の男が走り出すと残りの二人がその両脇にぴったりと張り付くようにして走っている。
俺は未だ縛られた状態で担がれているので、自由に動く事も出来ず、周りの状況を確認することも出来ず、だんだん頭に血が上っていった。
地面しか見えん。クラクラする。
全員一言も話すことなく、走り続けている。きっと“ワト”とか言う奴が無言で指示を出しているのだろう。
外の新鮮な空気を感じて顔を上げるとそこはどこかの廃工場街だった。遠くで争う音やちかちか火薬が燃えて光っているところがある。きっとそこにミズキがいるのだろう。
あー……頭痛くなってきた。
頭を上げていると今度は首が痛くなるので完全に脱力し大人しく巨漢の男の肩の上で揺られる。途中途中で地面が遠く離れてまるで屋根の上を走っているような景色になったり、まるでどこかから飛び降りたかのような浮遊間を感じたりした。
気のせいだと思いたい。
それからしばらく経った。だんだんと周りが明るみ始めている。朝の到来だ。もう、かなりの距離をスピードも落とすことなく彼らは走り続けている。
疲れないのだろうか……
周りの景色を見ようと重たい頭を持ち上げると、
「!」
絶句した。そこはもう廃工場街でもなく街でもなく何もない小高い丘の上だった。遠くに小さく外壁に囲まれた街が見える。




