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第27話 少女の真実

【27】

 漆黒のドレスがふわりと広がり、にこりと笑う少女の美しさを更に引き立てる。

 そして、その少女の顔はまさしく――

 ……ミズキ……

 二年の月日が経ち、あの頃とは声も姿も、そして身分も違う。

 そこに現れたのは俺を外の世界に連れ出した想い人。花言葉“華やぐ心”から“ミズキ”と名付けた少女だった。

「――――っ」

 予想外の状況に話したいことは山ほどある。しかし、言葉は声にならず、大きく目を見開き、無意識に椅子から立ち上がっていた。

「ずいぶんとお変わりになられましたね? あの頃よりもだいぶ賢そう」

 フフフっ、とあの頃と変わらない笑顔を浮かべていた。

 その声はルピナス姫のそれとは違い、心地よく俺の耳へと届く。

 一歩、また一歩とミズキに近づき震える手を伸ばす。もしかしたらそれは俺の夢が見せている幻かもしれない。

「サニー?」

 夢見心地のまま手を伸ばしていた俺の耳に、ルピナス姫の不審そうな声が響く。

 ハッ、と空を彷徨っていた手を下すも、夢から目を覚ますような感覚にとらわれ再度ミズキを確認した。

 髪の色も服装も話し方も雰囲気も全く違うが紛れもなくミズキだった。

 ミズキは温かい微笑みを浮かべると、俺の斜め後ろで脂汗を浮かべながら顔を真っ青にして震えている父様に向き直った。

「前王もお久しぶりです。あなたは、何のお変わりもなく……」

 先ほどまで美しく響いていたミズキの声が急に険を帯びる。

「あなたは懲りもせず、まだあのような事をしておられるのですね……」

 ちらりと俺に視線を移して、ため息をつく。

「そこにおられるサニー国王陛下が一生懸命働き掛けているというのに……」

 ミズキの冷たい目と不可解な言葉が父様へと注がれる。

 一体何の話をしているのか、当事者以外その場にいる誰もが理解できなかった。

 ただ、その異様な空気に皆が父様へと視線を注ぐ。ルピナス姫も母様も高官たちも、そして俺も。

 ミズキは不敵に笑いさらに続ける。

「覚えておいでですか? 十二年前、私は賊どもに攫われ一億という値であなたへと売り飛ばされたことを」

 皆の顔に驚きの色が表れる。

 え⁉ サン姫が誘拐された話は知っているが、その姫を父様が……買った⁉

驚きのあまりミズキと父様の顔を交互に見ていると、その表情を見たミズキは楽しそうに笑った。

「あら? ご存じなかったのかしら?」

 コトン、と可愛らしく首を傾げるミズキの瞳は全く光を移さないビー玉の様だった。

 父様は体中の穴という穴から汗を噴き出し、ガチガチと歯を震わせている。

「何度かお姿をお見かけしたことがございましたので、助けてくれたのかと思えば……」

 ミズキは右手を頬に添え、左手で右ひじを支えると、ふう、吐息をついて遠くを見るように目を細めた。

「叩かれ、殴られ、服を剝かれ、多くの兵士たちの前で晒し者にされ、その兵士たちに体中をなめ回され……」

 当時のことを思い出して嫌悪したのか、ミズキの表情が険しくなっていく。

「あなた方の慰めものにされた……」

 その言葉に俺の記憶の中のある言葉が思い浮かんだ。そう、ミズキが俺に対していったのだ【兵達の慰み者として扱われてたんだろ?】と。

 誰もが父様を見る目つきが変わる。

 母様は信じられない、というように口をパクパクと動かし、ルピナス姫は呆れ返ったようにため息をつき、高官たちは何か身に覚えがあるのか父様と同じように脂汗を流し、俺はただひたすらにミズキを想った。

 あれは、ただ単にかわいそうな俺に同情して慰めるために言ったんじゃなかったんだ――

 ミズキの発した言葉には全くの現実味が無い。しかし、父様の様子はミズキの言葉の全てを肯定していた。

「当時六歳だった私には何が起きたのかすぐには理解できず、長い間苦痛を感じていましたわ……」

 過去を語るたびにミズキのただでさえ白い肌が更に色を失っていく。

「やっとの思いでこの城を抜け出し、自分の城に帰ろうとした私の耳に届いた知らせはあまりにも惨いものでしたわ……」

 ミズキは俯く。その表情は伺えない。震えるその体は泣いているようでもあり、怒っているようでもあった。

 そして、発せられた言葉は低く深みを帯びていた。

「『サン・フォルテーゼ姫は誘拐された後にその者たちの手で殺された。更にその者たちは姫の死体を焼き払い、残った遺骨を城へと送り返した』と…」

 思わず息を吸い込んだまま、体が固まってしまった。背中に冷たい汗が流れ落ちる。

 他の者たちも同じ心境だったのだろう。ある者は両腕を体に巻き付け、ある者は両手で顔を覆い、そしてある者は床にへたり込んでいた。

「この気持ち、理解できます? 自分は死んだことにされ、両親が自分のものではない骨を抱いて泣いている姿を想像するのって……自我が崩壊されかねないんですよ?」

 誰も声を上げない。ミズキの声だけが広い室内に響き渡る。

「しかも、まだそんなことを続けているって言うじゃないですか? これはお仕置きせにゃならんと思って、ここまで来ちゃいました」

 ミズキが顔を上げる。そこには悲しみの色も怒りの色もなかった。ただ、俺もよく知る悪巧みをする時の不敵な笑みが広がっていた。

「なあ前王、知っちょーか? 数年前からアルフォード国以外の国全てが奴隷・少年兵制度を廃止したって」

 ガタン、と大きな音が鳴り、父様が立ち上がる拍子に座っていた椅子が勢いよく倒れる。

「しかも、実はアルフォード国王が賊からいたいけな少年少女を買っていたって、他国の王様たちにばれてたの」

 何かの病気ではないかと思えるほど、父様の体は震えに震えていた。

 その様子を見てミズキが、クスクス、と笑う。

どこからか別の誰かの笑い声も重なっているように聞こえた。

 俺は父様が行っていたえげつない行為に頭が真っ白になるとともに、冷静に納得もしていた。

 道理で交易がなかなかうまくいかなかったはずだ……それに、こんな事実を息子の俺に伝える勇気のある者はいなかったのだろう。

「ウチ、ね。人を社会的に殺すのって、すっごく好きなんだ」

 ミズキが本当に楽しそうに笑う。

「大変だったんだよ、この二年? いろんな所に根回ししてさ」

 まずは、と言いながらミズキは指折り例を挙げようとして遮られる。

「どっ、どうやって……」

「あ?」

 口をパクパクさせながら父様が声を上げた。

「どうやって、フォルテーゼ城に戻った!」

 父様がミズキに指を突きつける。

 ミズキは挙げていた手を、だらん、と力なく降ろし首を真横に傾けた。

 その姿は奇妙で恐ろしいはずなのに、どこか魅惑的だった。

「ああ……知らないんだっけ?」

 ミズキが静かに告げる。

「我がフォルテーゼ家の直系は代々花の名前をミドルネームに入れるんだよ」

「なっ!」

 父様の声が詰まる。

 それを見たミズキは顔を横に向けたまま笑みを浮かべる。

「ウチの本当の名前は“サン=ハナミズキ・フォルテーゼ”」

 その名前がミズキをフォルテーゼ家直系の者だと証明する。

 フォルテーゼ直系とごく一部の者しか知らない真実。

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