第23話 その少女、本心は
【23】
この二年で社会と花の勉強と並行して調べていたのがこれらのことだった。もちろん初めはただ、ずっと酷い仕打ちを受けて死んでいった者たちのことを知ろうと思い、始めたことだったのだ。しかし、その中にはそうではない者たちがここ数年でいることが判明し、驚いたことを覚えている。
全員何かしら城に対して不利益なことをし、処分される前日に姿を消していると文書に書き残されていた。もちろん、俺の出会った六人以外にもそう言う者はいた。
また、俺が勉強しているこの二年の間にも急に姿を消した者の報告を受けていた。おそらく、ミズキが何かしら外から仕掛けていたのだろう、と推測し、その事には深く触れなかった。
必死に頭の中のワトソニアについての記憶を呼び起こす。
え~っと、確かワトは……
「そうだ! そうだよ、お前!」
ようやく、記憶の中の該当するものを思い出し、ポンッ、と手を叩きワトソニアにビシリと指を指す。
「参謀的役職についていた時に、両軍大人の兵士がたくさん死ぬような作戦を実行したって!」
『よくご存じで』
あまりにも平然としたワトソニアの様子に顔が引きつる。
「おっ、おまっ……ここにいたら殺されるぞ!」
焦る俺の様子とは反対にワトソニアは小馬鹿にしたように、フン、と鼻を鳴らして笑う。
『問題ない
その時の奴は皆戦争で死んだ』
「……へぇ、そうかい。戦争でね……」
……恐ろしい。
着々と奴らの腹黒さが感染しているような気がして、俺は、ブルブルッ、と肩を震わせた。
「まあ良い。んで、何でここにいる?」
気を取り直し、再度尋ねる。
『おめでと 言いに来た』
「へっ?」
シリアスな話をしたため、予想外の返しについてゆけず抜けた反応をした俺にワトソニアはやれやれと首を振る。
『一日早いけど 十八歳&成人
それと国王就任のお祝い 』
「あ、ああ……ありがと」
そう、明日で俺は成人となる。そして国王に……
なんか実感沸かないな……
そんなことを思っていると、サラサラ、と更にワトソニアは書き綴っていく。
『あと 結婚 おめ!』
「うっ……」
ワトソニアの言葉に思わず喉がつまる。
叶えたい夢のためとはいえ、早期国王就任は幼なじみルピナス姫との結婚が条件と言うのが大きな要因だった。たとえ俺が誰に心惹かれていようと――
今までの取り組み方に限界を感じた俺は早く国王になり奴隷・少年兵制度を完全廃止したかったのだが、現国王に早期国王就任のために出された条件がルピナス姫との結婚だった。初めから無理を承知で頼み込んでいるため、渋々受けざるを終えなかった。
だんだんと自分の気持ちが沈んでいることが分かる。
その隣で何故かワトソニアの表情も暗くなっていた。
「どうした、ワト?」
急に動きを止めたワトソニアが心配になり、自身の感情を無理やり押し込め、そっと声を掛けた。
『レインは』
「ん?」
弱々しい字がメモ帳に綴られていく。
『レインはヒメが好きなんだと思っていた』
「!」
いきなり核心をついた言葉に自分の心臓が、ドクドク、鳴っているのを感じた。
『ヒメはレインが好きって言っていた』
「‼」
ワトソニアが更に追い打ちを掛ける。
たっ、確かに俺はミズキのことが……でもまさかミズキが俺を⁉
色々と誤解が混ざっていることを感じながらも、冷静を保つ事が出来ず完全にパニックに陥ってしまった。
『ワトはヒメが好き
ヒメはワトもレインも皆も好きって言ってくれる』
ああ、そういう好きね……
ワトソニアのその言葉ようやく冷静になる事が出来だが、予想していたとはいえ落胆の色は隠せず肩を落とした。
しかし、そんな俺の様子にワトソニアは気付く素振りも見せず、一生懸命文字を綴っていく。
『だからワト ヒメにレイン
プレゼントしようと思った』
ん⁉ 問・題・発・言‼
不審に思いメモ帳から顔上げてワトソニアの様子を確認しようとして、ギョッ、とした。
ワトソニアは顔をくしゃくしゃに歪め、大きくクリクリとした金色の瞳に大粒の涙を浮かべていた。
『最近ヒメ元気ない
だからワト レインを』
何となく状況を察した。
おそらく、最近元気のないミズキを元気付けようと皆で頑張ったが苦労は実らなかった。仕方なく俺のことも好きだと言っていたので、俺をミズキの所に連れて行こうとしたが、俺は結婚するから連れていけなくなった、と……
ひっく、ひっく、とワトソニアの息の詰まる音が二人しかいない庭に響く。
面倒なことになったな……俺としては今すぐにでもミズキの元に行きたい。でも、そうすると俺は国王になれず目的が達成できない。
しかし、俺の中ではもう答えが決まっているため、どうしようもできないのが現状だ。
どう答えようかと、ガシガシ、と頭を掻きむしり悩んでいると、いつの間にか文字を書いていたワトソニアが袖をクイクイと引っ張り、メモ帳を見せる。
『ワトは何でヒメが元気ないか分からない
でも レインの所に通っていた頃
ヒメはすごく楽しそうだった 』
ワトソニアが大きな瞳を更に開き一生懸命に訴え掛ける。
『だから レイン
ヒメを元気にして』
自分の表情が曇るのがわかった。
多分、こっちが本当の目的だったんだな。お祝いはただの名目上の理由……
さっきまでは、どうやって断ろう、どうすれば最良の答えだろうか、と悩んでいた。
しかし俺は、ワトソニアをキズ付けるのを承知で、自身の決意をはっきりと告げた。
「ごめん、ワト」
バッ、とワトソニアが勢いよく涙に濡れた顔を上げる。
「俺、行けない……」
まさか断られるとは思ってなかったのだろう。ワトソニアは大きく目を見開いて俺から目を離すことなく、フルフル、と首を横に振った。
「俺には助けなきゃならない人達がたくさんいるんだ」
その言葉にワトソニアは歯を噛み締め、さらに首を大きく振り、メモ帳に文字を書き殴っていく。
『じゃあ
何でワト達の時にしてくれなかった』
その言葉に今度は俺の顔が歪む。




