表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

第22話 皆、そう思っている

【22】

「ワト~」

 久々に再開できたあまりの嬉しさに、そのままワトソニアを抱きしめた。

 ワトソニアは抵抗する素振りも見せず、されるがままになっていた。

 しばらくしてようやく落ち着き、ワトソニアから体を離し大きな木の根本まで連れてきて一緒に座らせた。もちろんワトソニアはウサギを胸に抱いたままである。

 さっきは嬉しさのあまり抱き付いてしまったが、冷静になってみると、いったい何を話したらよいのかわからなかった。

 取り敢えず、当たり障りのないことを聞いてみる。

「……その、皆は元気か?」

 今さらながらに思い出すと、俺という存在の印象が悪すぎて、ミズキ以外の六人とまともに会話をしたことがない。更に言えば、ワトソニアは会話をすることすら出来ない。

幸い俺の言葉は理解することが出来るらしく、ワトソニアは小さく、コクン、と頷いた。

言葉が通じるということに安堵し、ミズキたちと別れてからずっと考えていたことを聞いてみることにした。

「あっ、あのさ……聞いても良いか?」

 緊張しているのか声が震えていたが、ワトソニアは再度小さく頷いた。

「俺のこと……恨んでいるか?」

「……」

 座っていても身長差があるため、大きくクリクリとした金色の瞳が下から俺を覗き込むように見上げる。

「だって……ミズキはああ言ってくれたけど、俺は結果的にあいつを騙したってことになる訳だし……君たちもすごく怒っていたし……」

 だんだんと言葉が尻すぼみになっていく。それをワトソニアが珍しいものでも見るかのように覗き込む。

「ごめん。こんな事言われても困るよな……忘れてくれ」

 一呼吸置いて無理やり笑顔を作り、ワトソニアに笑いかける。

 それでもワトソニアの表情に変化はなく何を考えているのか俺には理解できなかった。

 ミズキなら……わかるのかな?

 取り敢えず、拒否はされていないようなので、そんなワトソニアの頭をミズキと同じように微笑みを浮かべながら撫でた。

 するとワトソニアは何を思ったのか肩から掛けていたポシェットを膝の上に置くと戸惑う俺に構わず中身を探り始めた。

「?」

 そしてようやく目当てものを見つけたのかポシェットの中に突っ込んでいた小さな手を引き上げた。そこには可愛らしいペンとメモ帳が握られていた。

「?」

 ますます行動に意味が分からず困惑していると、ワトソニアはペンでメモ帳に何かを書き込み始めた。少しして書き終わると、ワトソニアは何かを書き込んだページを俺の見やすいように傾けた。

「?」

訳が分からないまま、示されたそのページを覗き込んだ。そこには、

『皆 恨んでない』

 と、子供らしい可愛い字でそう書き込まれていた。

「!」

 バッ、と顔を上げワトソニアの顔を見るが、驚きのあまりなかなか声にならない。ようやく、声が出ても心なしかかすれている。

「えっ……恨んでない? と言うよりワト、君……筆談できるの?」

 どちらの問いに対してだったのか、それとも両方の問いに対してだったのか真実は分からなかったが、ワトソニアはまた小さく頷いた。そしてまた自分の意志を伝えるためにメモ帳に文字を書き綴っていく。

『ヒメ 笑っていた 

 だから皆 レイン恨まない』

 ワトソニアはメモ帳から顔を上げると不器用そうにニコリと笑った。

 二年経ってもワトソニアは感情を表情に出すのは苦手らしい。

 それでも十分だった。あの日、あの時。俺が『サニー・アルフォード』であると名乗ったとき、ずっと大事そうに持っていたウサギの人形を俺の顔めがけて投げつけてきた時と比べれば、雲泥の差だ。ワトソニアが不器用なりにも自分に笑い掛けてきたことがこの上なく嬉しい。

 そしてワトソニアの綴った言葉で自分はまだミズキ達にとって“レイン”であると分かり、涙がこみ上げてきた。

 ずっ、ずっ、と鼻を鳴らし、乱暴に目元を拭うと今自分にできる精いっぱいの笑顔でワトソニアに笑い掛けた。

「そっか、それは良かった」

 うん、と頷き、ワトソニアが続きを書き始める。

『それに 皆言っている』

「え、なにを?」

 何のことを言っているのか分からず真っ直ぐに聞き返すと、

王子様クズは王子様(よく頑張りました)になったって』

「……それ、言ったのってポピーだよね?」

 相変わらずの腹黒さに顔を引きつった。気が弱そうで常にやさしい笑顔を顔に浮かべている悪魔の姿が容易に思い浮かんだ。

 ああ、言っている姿が目に浮かぶ……

 そんな遠い目をする俺の姿にまたワトソニアがニコリと笑う。

『でも 皆 そう思っている』

「……皆?」

『うん 皆』

「……その、ミズキも?」

 ワトソニアは、クスリ、と笑い、大きく頷いた。

『ヒメ 分かっていた 

 レインは城で頑張るって

 行動してくれるって  』

 その言葉を見て俺は少し照れくさくなり、右手で顔を覆う。しかし、にやけた顔がそうそう隠せるものでもなく、ハハハッ、と笑いが漏れる。

「そっか、そっか、分かっていたのか……やっぱりミズキには敵わないな」

 ひとしきり笑うと俺はようやくある疑問に気が付いた。

「そう言えばワト、どうしてここにいる?」

 今さら? と言うようにワトソニアは呆れ顔を見せるとメモ帳に向かった。

『元々ここの少年兵』

「いや、知っている。でも、お前……」

 ワトソニアだけじゃない。アビスもポピーもアスターもカライもソウも元々アルフォード城の少年兵だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ