第20話 少年の目指すもの
【20】
あれから数日経った。
ミズキ達によるアルフォード城への帰還作戦はとても楽しく、また呆気にとられるほど簡単に終わった。ミズキが有名なのは街を歩いていて感じたが、まさかそれが衛兵にまで及んでいるとは思わなかった。お蔭で城の中へ何の障害や騒ぎもなく帰る事が出来た。
それ故に、いきなり城内に姿を現した俺に、父様や母様、高官たちはたいそう驚き、どうやって帰って来たのかと詰め寄った。そうして俺は気が付く事も出来た。
俺が城に帰って来てから誰一人として「無事で良かった」という言葉を口にしなかったことに……ここにいる人たちにとって、俺は王族の血を残す道具でしかないことに……
俺はここで何の不自由もなく、生かされていただけだった。
以前の俺ならば、ここで「それならそれでいい」と全てを放棄し、敷かれたレールの上を何も感じることなく歩いていただろう。しかし、俺にはやらなければならない事が出来た。いや、やりたい事が出来たと言った方がよい。
城について早々に書庫に閉じこもり、この国成り立ちから始まり、法律、人口、商業内容や方法、農作物を現在に至るまで調べた。それらの知識を本から得るとともに、外交方法、外交問題、他国と自国との関係なども勉強した。特に隣国であるフォルテーゼ国との問題はより重点的に調べた。
書物を片手に隣で俺の勉強を見ている高官に声をかける。
「現フォルテーゼ国王の長姫のことについては、ここに書かれている通りなのか?」
「さようです」
よどみない答えが返ってきた。
俺と同じ年に生まれた、この国ではあまり見かけることのない漆黒の髪を持つ少女。幼いながらも聡明で、王宮内の誰にも愛されていたというその少女。
一度お会いしてみたいが、それも今では叶わない。
知識は王宮内の書庫に閉じこもればいくらでも得る事が出来たが、やはり外に出てみなければ見えるものも見えなくなる。
俺はお忍びで何度も何度も外の世界に触れた。外へと出かける理由などかけらもなかった。ただ、自身の足で外に出て、自身の目でその実態を見る。
街に出かけるたびにサンドラおばさんが開いている屋台へと足を運んだ。その度にサンドラおばさんは楽しそうにしていたが、やはり直に触れなければわからないものがたくさんあった。
「サンドラおばさん、調子はどうですか?」
出かける度に少しサイズの大きいマントを羽織り、顔を隠す。それだけで、サンドラおばさんにはあの日ミズキによって連れてこられた者だと分かるらしく、気軽に返してくれた。
「あんまりよくないね、どっこも値上がりしてるよ」
サンドラおばさんは困ったように肩を竦める。
値上がりの主な要因は近隣諸国が最近この国を遠巻きにしているからだと思われる。なぜそのような事態になっているのかまだわからない。調べてはいるのだが、今まで勉強をさぼっていた為なかなか手が回らないのだ。
こんなことを言えばあの六人は、自業自得だ、と鼻で笑うだろう。
そんなことを思いながら、サンドラおばさんの屋台でリンゴを買い、そのまま齧る。あの時以来、俺のお気に入りの食べ方だ。
「サンドラおばさん、ミ……ヒメたちが今どうしているかご存知ですか?」
いつものようにサンドラおばさんからリンゴを受け取り、ミズキたちの動向を知ろうと問いかける。しかし、今までどの質問にも答えてくれたサンドラおばさんはこの質問にだけは答えてはくれなかった。知らないのではない、答えないのだ。
理由は何となく察しがついていた。おそらくサンドラおばさんは、俺が『サニー・アルフォード』であると気が付いている。それも初めて会った日から――
サンドラおばさんだけでなく、ミズキによって自由を与えられた元奴隷たちにも声をかけてみるが、やはり誰も答えない。
それでも時々、まだ手を加えていない綺麗に刺繍された反物を街で見かけると、ヒメ市が開かれたことを知る事が出来た。
それから更に一週間が経ち、最低限の知識を得るという下準備が整い、ある決意を胸に動き始めた。そう、奴隷・少年兵制度の完全廃止を目指して――
多少の勉強はしていても、まだまだ足りない。
その姿を見た王や高官達は俺が次期国王になることに腹をくくったと思ったのだろう。次期国王候補から次期国王へと立場が確固たるものになった。
また、城内ではある噂が広がっていた。『サニー王子が隣国の不思議な歌を常に口ずさんでいる』と――




