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第18話 その少女、舞う

【18】

 一曲吹き終わると皆は急に夢から覚めたように顔を上げ、ワトソニアに拍手を送った。俺もミズキもそれに混ざり、拍手を送る。

「いや~、ワトはすごいよね。ハーモニカって吹くの難しいんよ?」

「へ~」

 俺とミズキは人垣の一番後ろで姿が見えにくい位置にいたというのに、それを目ざとく見つけたワトソニアは小さい体を生かして人の足の間をかいくぐり駆け寄った。いや、正確にはミズキを見つけて駆け寄った。

「お~お~、相変わらずうまいの~」

 ミズキは駆け寄って来たワトソニアの頭を、ぐりぐり、と撫でた。するとワトソニアは気持ちよさそうに目を細めてミズキにすり寄る。まるで猫のようだ。

 そこでワトソニアの突然の行動に驚いていた街の人々はミズキを見つけ、ようやくその行動の意味を理解したようだった。

「あ、ヒメだ!」

「ヒメがいるよ‼」

「ヒメ、ヒメ!」

 子供たちが無邪気に駆け寄ってくる。

「何でぇ、ヒメとワトがいるならアレやってくれよ」

「お~、ええな。久々にアレ見たいな」

 ミズキを見つけた大人たちも嬉しそうに近づき、俺やミズキを取り囲む。

 アレ? アレって何だろう?

 楽しそうにアレ、アレ、という大人や子供につられて、俺もミズキの方に視線を向ける。

「えー、アレやんの?」

 ミズキは少し恥ずかしそうに顔を赤くして、ちらちらと俺を見た。

「?」

 その視線の意味が分からず首を傾げるが、街の人々が言う「アレ」が気になり始めていたため、ミズキに頼み込む。

「お願いだよ」

 たくさんの人にお願いされ、さすがのミズキも観念したのか小さく肩を落とすと未だに腰に抱き付いているワトソニアの頭を、ポンポン、と叩いた。

「んじゃ、久々にいっちょやりますか‼」

 そういうと、ミズキは羽織っていたマントを脱ぎ捨て、身軽に噴水の縁の上へと登った。

「今日も皆の元気と勇気と笑顔になりますように!」

 両手を広げて、くるりと回る。するといつの間にかミズキの足元に来ていたのかワトソニアがハーモニカを奏で始め、その音に合わせてミズキの長い不自然な金髪が揺れ、細く白い手が舞い、長く美しい足が狭い足場できれいにバランスをとっていた。

『わぁ~』

 大勢の人の歓声が上がる。その声にその場にいなかった人々も集まり始める。

 しかし、俺はその歓声も気にならないほどミズキに目を奪われていた。なぜなら、その舞は王城に来たどの楽師のそれよりも美しかったから――

 とん、しゃん とん、しゃん とミズキが舞う。

 日の光を全身に浴び、噴水の水が跳ね上がる。

 ミズキの手の動き、足の運び、表情の一つ一つが磨き込まれた宝石のように光り輝き、ワトソニアが奏でるハーモニカの音が場を支配していた。

 その舞は十分間もの間続いていたが、俺にはまるで一瞬の出来事のように思われた。それは俺だけが感じたものではないらしかった。街の人々にも同じであったようで、舞が終わると人々は一瞬の余韻の後、ようやく我にかえって二人を褒め称えた。

 そして、「もう一度、もう一度」と懇願する。

 俺としてももう一度見たいので、街の人々とともに懇願するが、ミズキは首を縦には振らなかった。

「どうしてだよ」

 ぶーぶー、と子供たちと一緒になって口を尖らせていると、ミズキは投げ捨てたマントを拾い身に纏うと、パチン、と俺の額を叩いた。

「レインは早う家に帰らんといけんが」

「そうだけどさ……」

 正直、少し迷っていた。やりたいことはもう既に心の中に決まってはいたが、ミズキたちのように外側からでもできることはあるのではないかと思える。

「なあ、俺も一緒に……」

「ウチがやってることは誰にでもできる」

 思っていた以上のミズキの硬い声が俺の体を震わせた。

 街の人々はミズキが一度、もうやらない、と言ったら本当にやらないことを知っているのか、もう既に俺とミズキに気を配っている者はおらず、ワトソニアのハーモニカに集中している。

「でも、レインにしか出来ないことがあるんでないの?」

 優しい声音ではあるが、どこか圧力的なものを感じた。

 ミズキの言うとおりである。ミズキたちがやっていることは決して簡単なことではないが、やろうと思えばできる。しかし、それは事を根底から変えることはできない。ただの応急処置にしかならないのだ。

 確かに、今のは俺の我儘でしかない……

 心なしか気落ちしていたのか、ミズキは俺の頭を、ポン、と撫でると手を引いて歩き始めた。

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