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第17話 初めての街

【17】

左手で俺の右手をしっかり握りながら、あちらこちらに目を向ける俺に一つ一つ丁寧に説明してくれる。

「あのでかい建物はんだ?」

「街の集会所。あっこで事あるごとに話し合いがされんの」

「あれは何をしている?」

「猿回し。お猿さんが曲芸すんの」

 普段暮らしている城の街のはずなのに、初めて目にするものばかりで自分が誘拐された人間だということも忘れて楽しんだ。

 街の中を歩いていて気が付いたことがある。それは、この街でミズキは有名であるということ。

 人とすれ違うたびにミズキは声を掛けられ、感謝されていた。時々、子供の大群が押し寄せてくることも……そうなると、子供たちはなかなかミズキを解放しようとはしなかった。作った花冠をミズキの頭に載せ、覚えたての知識を嬉しそうに披露し、次はいつ会いに来てくれるのかと詰め寄る。それを全て嬉しそうにミズキは受けとめた。

ミズキに駆け寄ってくる人の中には小さい子供だけではなく、少し成長した少年や青年、大人まで混ざっていることもあった。

「彼らは一体何者なんだ? 子供はともかく、いい歳した大人が自慢しに来るなんて……」

 呆れ半分に呟くと、ちょうど手を振ってお別れをしていたミズキはまじめな顔で答えた。

「ついこの間まで、奴隷として虐げられていた人たちだよ」

「え?」

 予想していなかった答えに声が詰まる。

「そのいい歳した今になってようやく解放されて、生まれて初めての勉強というものをしたんだよ」

「そんなことって……」

 さっきの大人たちが楽しそうに披露してきた知識は一般教養と言っても差しさわりのない内容だった。それを――

「これが、この国の実態なんだよ。そんな人は、まだまだたくさんいる」

 悲しそうに、困ったように眉根を寄せるミズキ。そんな悲しい現実が城下で起こっていたことも、水面下でミズキが動いていたことも知らなかった俺はさっき思考放棄したある考えが頭の中に浮かんだ。

 考え事に没頭していた俺が、ふと、顔を上げるとまたまたミズキが人に声を掛けられていた。これだけ城下で有名ならば、城にもその名が届いていてもおかしくはないのだが、これまでにミズキの名を聞いたことは一度もなかった。

 まるで何か暗黙の了解などが出来ているかのようだ。

 そう感じながら首をひねるも、街の人々にもミズキにも詳しい事情を聞かなかった。なぜなら、聞いたところではぐらかされるからだ。

 俺とミズキが徐々に城に向かって街を歩いていると、どこからかきれいな音が聞こえてきた。淡く、優しいその音色を聞くと心が穏やかになるようだ。

「あ、これ!」

 ミズキはその音に聞き覚えがあるようで、うれしそうに顔をほころばせると、俺の手を、ぐん、と引きその音色に向かって駆け出した。

 ミズキは迷うことなくいくつかの薄暗い路地を抜けると、中央に噴水のある広い円形の場所に出た。噴水の縁にワトソニアが腰掛けており、それを取り囲むように大人や子供が集まっていた。

「なあ、あの笛は何だ?」

 ワトソニアの手には銀色の小さな横笛のようなものが握られており、綺麗な音色を奏でていた。

「ハーモニカだよ」

「へ―……」

ワトソニアの小さな手に握られたハーモニカという楽器を初めて目にした俺は、今までに聞いたことのない不思議な音と美しい音色に心を奪われた。その場に集まっていた大人も子供もその綺麗な音色に聞き入っており、誰一人としてそこに俺とミズキが現れたことに気がついてはいなかった。

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