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第16話 少年の持ちうるもの

【16】

 ふう、と吐息をついて心なしか視線を下に向けると、大きな金色の瞳と目があった。

 ワト……俺より小さいのに、こいつだってすごい能力を持っていて、人に必要とされている。

 もう一つ息をつくと、クイクイ、とワトソニアに裾を引っ張られた。ワトソニアは、ちらり、と俺の顔を見ると、スタスタ、と通りを歩いて行っってしまった。

「え? え?」

 訳が分からず戸惑っていると、優しい微笑みを浮かべたミズキが、ポン、と肩を叩いた。

「さあ、うち等も行こうで」

「え……うん」

 楽しそうに歩くミズキの後を付いていくが、一度沈んでしまった気持ちはなかなか浮上する兆しを見せない。

「ねえ、レイン」

「なに?」

 ほとんど無意識にため息をついていた俺は、こちらを振り向くことなく街の様子に目を向けていたミズキの優しい声に単純にも意識が少し上を向いた。

「人はそれぞれ手に持っているものが違うんよ?」

「へ?」

 手に持っているもの、と言われ、馬鹿な俺は自分の手を見つめてしまう。

 そんな俺に気が付いていないのか、それとも気がついていて気に留めていないのか、ミズキは優しい声音のまま言葉を紡ぐ。

「色んな努力して手に入れたそれは知識であったり、技能であったりする」

「……うん」

 そこでようやく『手に持っているもの』が具体的に目に見えるなにかではなく、個々が持つ能力であることに気がついて恥ずかしくなった。そして、アビス、ポピー、アスター、カライ、ソウ、ワトソニアが頭の中に思い浮かんだ。

「けれど、それは使わんかったら持っていないのと同じだし、使い方を間違(まちご)ーたらはた迷惑でしかないんよ?」

 トン、トン、と軽やかに前を歩くミズキの話に口を挟むことなく静かに聞き入る。

「ウチには何に沈みよるんかよ―わからんけど、レインは他の誰かがどんなに頑張ったって手に入れられんもん持っとるが?」

 にこやかに微笑んで右足を軸足に、クルリ、とミズキが振り返る。

 俺が持っているもの……

「例えば、必死な努力の末に手に入れたもの。何となーくやってみたら出来たもの。生まれた直後に親から与えられたもの」

 自分の胸に手を当てて考える。

 俺が持っているものは何か。使わなければならない力とは何か。

自分が何を持っているのかよく分からず悩む俺を見て、ミズキは嬉しそうに笑った。

「大丈夫、レインはもう自分が何を持ちよるか知っちょ―が。ただあまりにも当たり前のことすぎて何がすごいのかよく分かっていないだけ」

 俺にとって当たり前……でも、当たり前じゃない。ああ……ミズキはすごいな。

 何か心の中に引っかかっていたものが、ストン、と落ちるのを感じた。

「後は、何がしたいか……て、だけだよ」

 俺がしたいこと……

 ミズキはまたも悩み始めた俺を見ると、そばにあった野菜や果物を打っている屋台に入っていった。

「?」

 ミズキの予測不能な行動に、なんだろう、と思い一旦思考を放棄して歩み寄っていくと、ミズキは屋台のおじさんから何か受け取っており、それを何の掛け声も無しに投げてよこした。

「うわっと……」

 慌てて手を伸ばし、ギリギリのところでそれを受け止めた。改めて受け取ったものを見るとそれは真っ赤に熟したリンゴだった。

「こうやって食べるんよ」

 そういうと、ミズキは屋台で買ったもう一つのリンゴを服でこすると、ガブリ、と躊躇いなく齧り付いた。

 その斬新な食べ方に呆気にとられたが、ミズキに勧められて、恐る恐る自分の服で軽くリンゴを拭くと齧り付いた。

 それは今までの王族人生では、したことのなかった行為だった。こんなところを父様や母様、使用人に見られれば行儀が悪いと怒られるだろう。しかし、そんな行儀の悪い食べ方で食べたリンゴは今まで食べてきたどのリンゴよりもおいしい、と感じた。

「したいことなんて、そんな悩んで見つけ出すもんじゃなーよ」

 ニコニコとリンゴを齧りながらそういうミズキに、俺のすべてが見透かされているような気がした。

 リンゴを食べ終わった後、ミズキが街の中を案内してくれた。

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