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第14話 少年と少女たちの日常

【14】

 七人にとっては日常茶飯事な為、取り乱した様子は一切なく、俺だけがこの事態に慌てていた。

「不法入国は立派な犯罪! 死刑だぞ‼」

「皆―荷物持ったー?」

 俺の話を取り合う気は全くないらしく、ミズキの間延びした声が響き、六人もそれぞれそれと分かるように準備完了の合図を出す。

「いやいや、それどころじゃないって!」

 何とか自分の話を聞いてもらおうと詰め寄るが、ミズキは壁を潜った時に脱げてしまった俺のフードに手を掛けると、グイッ、と手前に引っ張った。そのため、俺の視界はフードが邪魔して真っ暗だ。

「こうでもせんとウチらみたいなんは街に入れんけん……ほら、ここから先は顔を見られんようにしてね」

 寂しそうに微笑むミズキに、つい数分前の戸籍の話を思い出す。

 ……生きるためでもあるし、今回は俺のせい……か。

 誰にも見られないように大きいフードを、ぐっ、と深くかぶるとよくわからない悔しさに唇をかみしめた。荷物を落とさないようにしっかりと抱え、先を歩き出したミズキたちについて真っ直ぐ前を見据えながら歩いた。

 いくつか角を曲がるとだんだんと人通りが多くなっていった。どうやら抜け穴のあった場所は、市場のすぐ近くだったらしい。

 ちらほらと屋台なども見え始め、知れず気分が高揚してくる。

市場なんて初めてだ!

朝だというのに大きくの活気ある声が響き渡る。

その中でもひときわ賑やかに客寄せしている屋台にミズキたちは迷わず近づいて行った。楽しそうにしていたおばさんも、近づいてくるミズキに気が付いたのか嬉しそうに手を振ってきた。

「おはよう、ヒメ。もしかして徹夜明けかい?」

「おはようサンドラおばさん。ようわかったね」

 ミズキはニコリと微笑み、被っていたフードを下した。すると、長いどこか不自然な金髪がミズキの背中に流れる。

「そりゃわかるわよ、眠たそうに目がしぼんでいるもの」

 ありゃりゃ、とミズキは肩を竦めると、コイコイ、と手招きをしてきた。よくわからないが、呼ばれているようなので顔を見られないように注意しながら近づいていくと、

「サンドラおばさん、今朝家で採ってきた野菜よ。どう?」

 ミズキが手振りで荷物を渡すように示すので、手にしていた重たい荷物を近くの台の上においてサンドラというおばさんに手渡した。

「あら、この子……」

 ば、ばれた⁉

 サンドラおばさんの不思議そうな声に、ドクン、と心臓が跳ね上がる。

 しかし、焦る俺とは反対にミズキはあっさりと答えた。

「ああ、悪い大人に誘拐されたんを助けてきたんよ。これから家まで送っていくところ」

 おいおい、そんなに言って大丈夫か⁉

 ニコニコと笑うミズキの陰に隠れ、俺の鼓動はどんどん早くなっていく。

 するとサンドラおばさんはまるでそれがいつもの事だというように、そうかい、と一言言うと、それ以上気にすることなく受け取った荷物の中身を確かめ始めた。

「おや、立派な新たまに新じゃがじゃないかい」

 サンドラおばさんは嬉しそうに次々と袋の中身を出していった。

 危機は脱した? というか、通りで重たいはずだ。

 人知れず安堵の息をついていると、サンドラおばさんの歓声が上がった。

「本当、初心者とは思えないね~。あら、タケノコもあるじゃないの‼」

 そんなサンドラおばさんの喜びの声に、市場に来ていた人が次々にミズキ達の存在に気付き始めた。

「あ、ヒメ市もう始まってんのかよ」

「サンドラばかりずるいわ」

「何々、タケノコあるの?」

 押し寄せてくる街の人々の多さに驚きが隠せない。

 おいおい、ミズキがいるってだけで、こんなに集まんのかよ!

 きらきら、と目を輝かせるおばさんたちに黙ってミズキとサンドラおばさんの会話を聞いていたアスターが胸を張って叫んだ。

「それだけじゃないのよ。ワラビ、ゼンマイ、タラの芽、フキ、山ウドだってあるのよ。しかもフキは灰汁抜きもしてあるわ」

 ふふん、と得意げに話すアスターにソウが、ボソリ、と付け加える。

「採ってきたのはヒメで、灰汁抜きしたのはポピー。アスターは何もしてないよ」

「そう言うソウだって何もしてないじゃない!」

 子供のような言い争いに、くすくす、と街の人々が楽しそうに笑う。アビスもポピーもカライもワトソニアも、そしてミズキも笑う。

 その時俺は、少し自分が場違いであると感じた。なぜなら、

 アスターの言った食材(?)の名前が一つもわからない……

 庶民の間では慣れ親しんだ春の味覚も、常に調理されたものや高級食材しか口にしたことのない俺にはよくわからないものばかりだった。

 また、常に王族のご機嫌伺いをしている者もここにはおらず、気落ちする俺の様子を気にすることなく話は進んでいく。

「もちろん、皆ともやり取りするけ~安心し。ほら、いつまで言い争ってないで並べて並べて」

 ミズキはそういうと互いに掴み掛っていたアスターとソウは大人しくその手を放し、それぞれ持っていた袋をアビスが引いておいたシートの上に下した。

 そして、ポピーもカライもそこが所定の位置だというようにシートの上に腰を下ろすと、袋の中から様々なものを取り出した。玉ねぎ、ジャガイモ、トマト、アスパラガス、タケノコ、ワラビ、ゼンマイ、タラの芽、フキ、山ウド、きれいな反物、木彫りのおもちゃ、ポプリなど春の味覚や手作りしたであろうものが色とりどりシートの上に並ぶ。

 街の人々はその様子を今か今かと身を乗り出して見ていた。

 中でも街の人々の目の色が変わったのはワラビやゼンマイなどの山の幸が出てきたときであったが、俺には何故その変な形のものに皆が嬉しそうにしているのか見当もつかなかった。

 ようやくすべてのものが出そろったのかアスターはシートの横に立つと、パン、と一つ手を叩いて叫んだ。

「さあさあ、ヒメ市の開催だよ‼」

 その掛け声と同時に、ドドド、と街の人々が押し寄せてくる。

 アレをくれ、コレをくれ、と叫ぶ中に、それは私のものだよ、と喧嘩している声まで混ざっている。

 あまりの勢いの強さに呆気にとられていると、ものの数分でシートの上には何もなくなってしまった。

「いやー、売れた売れた」

 アスターは何もなくなったシートの上に、どかり、と腰を下ろすと、お金の入った袋を、じゃらじゃら、と嬉しそうに鳴らした。

「ワト、総額なんぼね?」

 ミズキが訪ねるとワトソニアは小さな指を七本立てた。それだけで他の六人には利益がどのくらいだったのか伝わるらしく、

「お~、結構売れたね」

「ヒメの反物にかなりの値段をつけている方がいらしたからね」

「当然ですわ」

 嬉しそうに笑っていた。

 何となく売り上げがかなりのものだったと察する事が出来たが、ソウ、ポピー、カライの会話の中にある疑問を覚えた。

「値段は客が決めるのか?」

 値札がなかったことは気がついてはいたが、客が値段を付けていたことには驚きを隠せない。

「そうよ、ヒメ市はオークション形式。その場で一番高い値段を付けた人に売っているの……つまり出遅れたら買えないし、お金がなくても買えない」

 シートの片づけをしながら端的にアスターが答える。

「まあ、不定期だし、やる場所も毎回違う。場合によってはどこの店よりも安く買い物できるよ」

 ソウによる追加説明にさらに疑問が広がる。

「オークションなのに安いのか?」

「人通りの少ない場所で開くこともありますもの。その場合見つけたもの勝ちですわ」

 カライも何ということもないというように話した。

 そういうものなのか、と片づけを手伝いながら感心していると、少女が一人切羽詰まったように駆けて寄ってきた。

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