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第10話 その少女の家族

【10】

 静まり返った家の中。

 その一言で何かが終わりを告げたように感じた。

「やっぱり、ヒメを騙していたのね」

 アスターの冷ややかな声が聞こえる。

「王子様(仮)ではなくて、王子様クズだったんですね」

 ポピーの朗らかで毒の入った言葉が響く。

「最低ですわ」

「最低だね」

 カライとソウの息のあった罵倒が刺さる。

「……」

 アビスの無言の圧力が重く圧し掛かる。

 そして、会ってからずっと表情の乏しかったワトソニアが不器用そうに顔を歪め、ブンッ、と力無く投げたウサギの人形が俺に当たった。

 たった……たったそれだけで十分だった。彼らの意志を理解するには十分すぎるほどだった。

 ただ一人、ミズキを除いては―――

 ミズキは何も話さない。身動き一つしない。ただただ俯くばかりで表情を読むことすら出来ない。

「……ごめん」

 俺の沈んだ声が冷え切った家に響く。

 何について謝ったのか俺にも分からなかった。ずっと騙していた事への謝罪なのか、それとも子どもたちが奴隷のように扱われていたことを知らずにのうのうと生きてきた事への謝罪なのか。

 沈黙が降りる。

 誰も動こうとはしない。

 誰も声を上げようとはしない。

 全員がミズキの次の行動を待っている。

 そう、例えアビスの方が年上だったとしても……例えワトソニアの方が頭が良かったとしても……例えポピーの方が察しが良かったとしても……例えカライとソウの方が順応力が高かったとしても……例えアスターの方が意志が強かったとしても……ここの、この家のリーダーはミズキなのだ。

 ミズキがゆっくりと顔を上げる。

その顔を見た俺は驚きを隠せなかった。なぜなら、その表情は俺が予想していたものとはあまりにも違いすぎたからだ。

「だったら、元々の作戦を遂行するだけだね」

 ミズキは笑っていた。これ以上ないほどの笑顔で―――

 怒鳴られ、ひっぱたかれると思っていた俺にとって、かなりの衝撃だった。

「どげして、そんな驚いた顔をしてるん?」

「いや、だってそうだろ?」

「なにが?」

 ミズキは心底分からないと言うように首を傾げる。

「俺はお前を騙したんだぞ!」

 これでもかと声を張り上げたが、ミズキからの答えは実にあっさりしたものだった。

「騙したって……別にウチはあんたにサニー王子ですかって聞いたことないじゃん?その場合、ウチを騙すっちゅうのとは、ちと違うんでねーの? あんたは“騙した”んじゃなくて“黙ってた”んだ」

 ミズキはまるでそれが本当の真実だというように胸を張って告げた。

「でも俺は名前を聞かれたとき名前はないって嘘ついたんだぞ?」

 始めた会った時のことを思い出し、おずおずと自身の罪を申し出る。

「それはウチも同じだし……それに、やっぱりそれも嘘じゃなくって黙ってたになるとウチは思うよ」

 思っても見なかった返答に開いた口が塞がらない。

その様子に問答は、もう終わりだと思ったのか黙って事の成り行きを見守っていた六人にミズキは指示を出し始めた。

「ほらほら、サニー王子救出大作戦の最後の仕上げをしようじゃないか」

「ヒメはそれで良いんですの?」

 流石に心配になったのかカライが声を上げる。

「なーに言ってんの! 元々その予定だったっしょ?」

 ミズキはそう言いながら、グリグリ、とカライの頭を撫で回した。その様子を見てワトソニアが、トテトテ、とミズキに近づき自分の頭をミズキのお腹にすりつける。

「お? ワトも撫でて欲しいん?」

 そう言うとミズキは、ひょいっ、とワトソニアを抱き上げ頭を撫でた。気持ちがいいのか大きくクリクリとしたワトソニアの瞳がだんだんと細くなっていく。

 そうして一段落付いたのかミズキは、パンパンッ、と手を叩き六人に向き直る。

「良いか? 王子を城まで送り届けて無事にこの家まで戻ってくるまでが作戦だ。ケガには気をつけて、気を引き締めていこー!」

 まるで学校の先生のようなノリだ。

 そんな調子のミズキにある疑問が脳裏に浮かんだ俺は小さく肩の所まで手を挙げて質問した。

「このまま俺を城に帰すのか? 前話してくれたみたいに俺を使って揺すらないのか?」

 そんな質問にミズキを含む七人が、ポカンッ、とした顔をする。

「大金を手に入れる絶好のチャンスだぜ?」

 反応を示さない七人にサニーは更に追い打ちを駆ける。

 そんな俺にミズキはようやく、あのな~、と言って、ぽりぽりと頭の後ろを掻きながら困ったような顔を見せる。

「ウチらは誘拐犯じゃねーし、そう言う悪い事はせんの。レインはウチらを犯罪者にしたいんか?」

 ミズキが未だ自分のことを“レイン”と呼んでくれることに嬉しさを覚えた。

 ん?

そして、危うくミズキの発した言葉を見逃すところだった。

「ん? って、お前は城に不法侵入した時点でもう犯罪者じゃないか!」

「おっと、バレた」

 軽く肩をすくめ、小さく舌を出しながらミズキが外へと出ていく。それを追うように各自壁に掛けてあったマントを手に取ると、アビス、ワトソニア、アスター、ポピー、カライ、ソウの順番に六人も出ていく。

 まるで本当の家族のようだと思った。

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