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2章 政府員と遺族達の到着―――六百七十五年・十月四日(二)



「こらお前、ここは立入禁止だ!」「一体何処から入ったんだ、こいつ!?」「おい出入口、部外者を入れるな!!」「知るか!俺達はちゃんと見張ってたぞ!!」


 捜査が一段落した時、アパート周辺が俄かに騒がしくなる。そして、ずるずるずる……警官に首根っこを掴まれ、黒髪の優男がへらへら笑いながら連行されてきた。十月だと言うのに、その手には向日葵の描かれた扇子。遊び人か?

 どう見てもまだ二十代前半の若造は、刑事達を認めて大袈裟にお辞儀した。

「あー、お巡りさん。案内はここまでで大丈夫だよ、御苦労様」

 労ってパサッ、扇子を一度左右に振る。

「不審者が何を偉そうに―――へ!?」

 しっかり襟を握り込んでいた筈の掌、それから瞬時にして五十センチ前方へ瞬間移動した男を凝視する。

「い、何時の間に……?」

 呆気に取られる警官を背後に、彼は懐から特徴的な紋章入りの手帳を取り出した。


「どもー。人使いのメチャクチャ荒い上司から派遣されてきました、聖族政府のジョウン・フィクスでーす☆以後お見知りおきを、警部殿に警部補殿。あ、その他大勢いらっしゃるおまわりさん達も宜しく」


「え?どうして俺達の階級まで……!?」

「実は今までの初動捜査、全部隣から見学させてもらってました、透明人間になって」

「はぁ?」

 透明って、SFでよく見る?こいつ、頭大丈夫か?当人以外、その場にいた一同同じ感想を抱く。

「いやしかし、通報から現場封鎖までの手際はお見事でしたね。お陰で下の物置き場に潜んだ空き巣が中々出られなくて困ってる」

「?空き巣?」

「そう、ドロボーさん。パトカーを見て慌てて逃げ込んだはいいが、そろそろ膀胱が保たないんじゃないかな?見た感じ還暦超えの爺さんだし、今朝は冷えてたから」

 一人でペラペラ喋る政府員は、しかし何故か嘘を吐いているようには思えない。

「おい、お前。一応見て来い」

「は、はい!」

 警官が下へ降り、きっかり二分後。


「これ乱暴は止めんか!こっちは漏れそうなんじゃ!!」「分かった分かった。話は便所に行ってから、署でじっくり聞かせてもらうぞ」


「「……」」

「あらま、たかが五千で運の悪いドロボーだ」

 暢気に言い放ち、顔をパタパタ扇いで大欠伸。

「―――噂で聞いた事がある。副聖王の右腕は魔術の神童で、しかも惚けた面をした切れ者だと……」

「へえ。でも一つだけ訂正」

 にへら。

「右腕じゃなくてパシリね。そこの所、くれぐれも間違えないでくれよ」

 霞のように掴み所は無いが、少なくともこれだけは二人にも分かる。―――こいつなら『S事件』担当者に適任だ、と。

「しかしフィクス捜査官。何故わざわざ姿を隠して現場へ?」

 お陰で説明の手間は省けたが、どうにも解せない。

「ああ、気を悪くしないでくれ。別に署長さんから君等の査定を頼まれたりしたとかじゃない、うん。―――実はオフレコなんだけど、上司の奴が捜査関係者内に『Dr』の協力者が紛れ込んでいる可能性があるとか言い出してさー。ほら奴さんのスポンサー、十五年経って未だに掴まってないでしょ?」

「我々の中に奴の内通者が?冗談でしょ?」

 反射的に警部補が否定し、ジョウンも同意する。

「全くその通り。ラブレの警察官は本当に真面目で優秀な方々ばかりだ。端から見学しても素晴らしい仕事振り!いよっ、宇宙一!!」

「い、いやぁ」

「それ程でも……あるかもな」

 沈着冷静な刑事達も、手放しの褒め文句に思わず照れ笑いを浮かべる。

「じゃあさっき現場は覗かせてもらったから、皆で第一発見者の御婦人に話を聞きに行こう」

「ええ。こちらです」

 職場の垣根を越え、すっかり気を許した警部が率先して三百六号室へ案内しようとした。その時、


「おいこら坊主!そこはまだ立入禁止だ!!」バタバタバタッ!!「ん?子供?」


 階段を駆け上がって来たのは、五分程茶の混じる黒髪と緑色の瞳を持つ十三、四の少年だ。息を整えつつも利発な顔付きでこちらを見、アラン・アンダースン先生の家に下宿している者です、先生に会わせて下さい!開口一番、頭を深々と下げた。

「済まない、僕。先生はちょっと今、未成年に見せられるような状態じゃあ―――あ、こら!?待ちなさい!!」

 止める間も無かった。サイドステップで中年警部の脇を通り抜け、躊躇い無く三百五号室のドアに突進する。


「!!?アラン先生!!!!」「ハイネ君!!」


 無残な遺体へ駆け寄ろうとした少年。が、反対側の階段から現れた五十代の男女が、その両肩を掴んで力づくで止めた。彼の両親にしては幾分年が行き過ぎている。どうやら呼んでいた被害者の家族らしい。

「アラン先生……そんな……っ!そうだ刑事さん!キュー先生は何処にいるんですか!?」

 羽交い絞めにされたまま、少年は真っ直ぐジョウンへ尋ねる。しかし、質問に答えたのは後ろに控えた警部補だった。

「レイテッド先生は現在行方を眩ませている。君、何か知っている事があれば教えてくれないか?」

「先生が!?それなら」

 口を開きかけたのを、中年女性が阻む。

「あの、刑事さん。この子は知人から預かっている子なんです。アランやキューちゃんの事は、私達の方から御説明致します」

「ルナ小母さん!?」

「そうだな……ハイネ君、悪いが先に家へ帰っていてくれ。私達はこれから事情聴取を受けないと。もし夕食までに戻らなかったら、悪いが今夜は外で食べて来てくれ」

「コーディー小父さん……はい、分かりました」

 素直に返答した学生は、先程より一層深く一礼した。


「―――お願いです、刑事さん。アラン先生をこんなに惨い姿にし、キュー先生を誘拐した犯人を必ず捕まえて下さい!!」




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