盗み
短いです。すごく短いです。
ろくに整地されていない、道とは呼べないような道に一人の男がいた。
それが道だとわかるのは、その道らしきものの両側に家が立ち並び、草が生えていないからである。
その道のわきにある一軒の露店に、男はいた。
男は、とある少年の腕をねじりあげていた。
男の手には、少年が持っていたと思しき、指輪が握られていた。
「だーかーら、盗ってねぇって言ってるだろ!」
少年はそう抗弁していたが、少年のポケットから同じような指輪がごろごろ出てくると、少年は開き直った。
「ああそうだよ、俺が盗ったんだよ。わるいか?」
「ああ、悪いな」
低く、重量感のある声だった。
ギラリと少年をにらむ男、それだけで、少年は腰が引けていた。
「な、殴るのかよ」
精一杯の強がりも、声が震えていれば意味がない。
「お前を自警団に突き出す、牢屋の中で反省でもしてろ」
男は少年を自警団の詰め所に受け渡し、街をあとにしようとした。
「待ってください!」
声がかけられる。
声の主は、女性だった。
豊満な胸の前で腕を組み、顔は男への感謝の念をこれでもかとばかりに伝える。
「このたびは、泥棒を捕まえていただきありがとうございます。つきましては、なにかお礼をしたいのです」
女性は前かがみになり上目使いで男を見る。
潤んだ瞳と、かすかに見え隠れする水蜜桃。
男の精神は揺さぶられていた。
「あ、ああ。大したことはないさ。お、俺はああいうやつが大嫌いでな。おまえさんが気にすることはないさ」
動揺する男の全神経は、見えそうで見えない双丘をいかにして見るかということに動員されていた。
だから男は気付かない。
後ろから、目の前の女性を幼くしたような少女が、彼のズボンから財布を抜き取ったことに。
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