8 記録書
※挿絵があります。
苦手な方は挿絵の表示をOFFにして閲覧ください。
記録書
担当
未解決事件対策本部:警部・榊原優太
平成●●年●●月●●日解決
(本文はプライバシー保護のため一部暗号化しています)
未解決事件として送検されていた“●●●●●による殺人予言事件”についてここに記す。
●●●●●が株式会社(以下某社と記す)の社員の死を予言していたことを県警が調べていたが、結局証拠もなくただの偶然死として警視庁地下“未解決事件対策本部”に送検された。
今回この事件の解決に至るきっかけとなったのが、不可解な“悪魔”という存在である。
このケースの場合、“レラージュ”と呼ばれる悪魔が自殺として処理されていた●●●●に憑りつき人を殺めていた。
そして悪魔と人間を切り離すことによって、事態の終息に成功した。
後に解ったことだが、悪魔という存在は悪魔と関わりを持った人間にしか見ることができないようだ。
現に●●●●●は警視長エミリア・ローゼンバーグの仕えるレヴィアタンと、警部榊原優太の仕えるマモン、そしてスーツに付着した血を認識できていないように見えた。
さらに、悪魔から受けた傷も一般の人間には見えないらしく、榊原優太が腕に負った傷は●●病院の診察では異常なしとして扱われている。
エミリア・ローゼンバーグが言うには、「悪魔から受けた傷は悪魔にしか治癒できない」とのこと。
この点について今後未解決事件対策本部では打開策を見つけることが課題となる。
今回の“●●●●●による殺人予告事件”終息からわずか2時間後、●●●●●が自殺という情報が入った。
最後にエミリア・ローゼンバーグ、榊原優太と接触した後、自宅のリビング、息子の●●●●が自殺を行った位置と全く同一の場所で首を吊ったと検察から情報が入っている。
接触した時に異変に気付くことのできなかった警察側にも失態があるとして、未解決事件対策本部には一週間の活動停止処置がとられた。
この時間を使い、状況の把握、部署の業務目的を改めて確認するものとする。
以下、榊原優太による悪魔についての情報まとめ。
・悪魔には“契約”という形で接触する
→なにがきっかけで接触するかは定かではないが、人間の欲に密接に関係していることが考えられる。
・悪魔には上流、中流、下流とそれぞれ階級がある。
→エミリア・ローゼンバーグ、榊原優太の接触している悪魔は上流階級である。
・悪魔にも人間と似た家族形態がある
→どのように繁殖するのかなどは定かではないが、それぞれの種族に家族に似た形態を持っているらしい。
・人間の魂を食する
→人間と違って生命維持のために不可欠なものではないが、人間の魂を食することにより強く、賢くなれるとのこと。
・下流悪魔はグリモアという書物で監視されている
→どうらや下流階級の悪魔が知識や力をつけないようにグリモアの中へ隔離し、人間との接触を断っているらしい。
・悪魔の中にもトップとなる存在がいる
→階級があるのと同じく、その世界を統一している悪魔が“サタン”という存在である。
・人間の世界で悪魔が活動するには人間と接触しなければならない
→基本的に人間と“契約”を行っていない悪魔は力を使えず無力である。
・人間と“契約”を結んだ悪魔は人間に力をシェアできる
→どうやら“契約”を結んだもの同士お互いの力をシェアできるらしい。
・まれに悪魔と接触していない人間でも悪魔を視覚にとらえることのできる者がいる
→原因が定かではないが、榊原優太もその一人であった。
以上が今回の事件の記録である。
「ふぅ…終わった。」
俺はようやく書き終えた記録を一望して、ノートパソコンをパタンと閉じた。
「こんな誰も見ないような記録書をまじめに、しかもその日のうちに書いちゃうなんてゆうたんは真面目だねー。」
向かいの机には相変わらず丈の合っていない白衣を羽織った上司が机に脚をかけブラブラと揺れていた。
時計を確認すると、すでにam3:00を回っていた。
「どうせ明日から一週間お休みなんだからさー、もっと気楽に書けばいいのに。」
そう、俺が病院で傷などないと診断されていたころだった。“女ヶ沢千代さんが自殺した”という知らせが入ったのは。
つい数時間前に穏やかに会話していた彼女が自殺したとは驚きだったが、よく考えると想定できたようにも思える。
息子の透を想っての殉死なのだろう。
釈然としない事態の終息に、俺は眉を潜めて黙るしかなかった。
「まぁゆうたんが気にすることじゃないって。それより精神病患者として隔離されなくてよかったじゃん。」
エミリアの言葉に思わず口がへの字に曲がる。
病院へ行った時、医者に診ることのできない傷を主張した故に精神病の疑いをかけられそうになったのだ。
言い訳と処置に大変だったのだが、なんとかこうして警視庁未確認事件対策本部に俺はいる。
元はといえば“悪魔から受けた傷は悪魔にしか治癒できない”ということを教えてくれなかったエミリアに原因があると思うのだが。
「はぁ、それはもういいですよ。…こうして生きてるだけで儲けものだと思っときます。」
本来なら俺はここにいるべきではない存在である。
心臓に矢が刺さり外傷性の心タンポナーデ(心嚢内に出血した血液が溜まり心停止を引き起こすこと)を引き起こした時点で死んでいるはずだったのだ。
「本当ゆうたんに“アレ”が見えると思わなかったし、倒れて動かなくなったときはどうゆうたんパパに報告すればいいかヒヤヒヤしたよ。」
エミリアは冗談めいたようにそう言うとおかしそうに笑った。
………ん?なんだろう、なにか違和感が………
「とりあえずさ、ゆうたんは十分戦力になるし合格だよ。…改めてだけど“未解決事件対策本部”へようこそ!!」
先ほど感じた違和感の根源をエミリアのその言葉で忘れてしまった。
そして、今さらだが俺はとんでもない所に配属されたとしみじみ感じたのだった。
横には体力を消耗しないために小さなカラスのマスコットに変身しているマモンがすやすや眠っている。
今日はもう疲れた。考えるのはやめよう。
ポテトチップスうすしお味の袋を開けたエミリアを尻目に、俺はしばしの休憩をとるために机につっぷした。
-第一章:終-
ここまでで第一部は終了です。
次からはまた別の事件に遭遇し、悩み、解決への糸口を探っていきます。
そんなゆうたんを見守ってくださると幸いです。