楽団員俺、公爵令嬢が婚約破棄されるところに居合わせてしまった〜から、君のために奏でよう〜
『エリカ・ディ・カエサリス貴様との婚約破棄する!』
楽団で指揮者をしている俺の目の前で、婚約破棄が始まった。主犯は放蕩バカ王子だった。
学園の卒業パーティーで婚約破棄をされた婚約者──公爵令嬢は時が止まったみたいな表情だった。
だから、俺は──俺たちは。
「ロックンロールを奏でるぞ、お前ら!!!!」
「「「おう!!!!!!!」」」
楽器編成を変えるなんて容易いことだった。俺達には、ギターとベースがある。管弦楽器だ、多分。弦がついているから、そうだろう。ドラムだって、ある。
ならば、俺たちはこの瞬間に、ロックだった。
ロックバンドだった。
音楽は世界を救えないけど、俺たちはきっと、だれかの人生を変える力があった。
だから、君に向けて歌うのだ──。
「待ちなさいな!?」
「ロックンロール?」
「まともにしゃべれないのですか!?」
だめじゃないか、公爵令嬢。観客が、観客席に上がることはご法度じゃない。けど、まだ君は自由になってない。
ロックンロールは、この瞬間だけでも君を自由にするのだ。
「答えなさいな!」
「ちっ、なにか?」
「態度が悪すぎますわ!?」
音楽をとめるのはロックじゃないからな。不機嫌になるのも仕方がないのだ。
「何を勝手によくわからん楽器を鳴らし始めたのですか、あんたらは!」
「心が求めてたら」
「かき鳴らすのが」
「ロックですよ、お嬢さん」
「責任者だけが、しゃべりなさい」
お求めなのは俺らしかった。フロントマンはつらいぜ。
「今、わたくしは人生のどん底にこれから立つ瞬間だったのですよ。それが、演奏をやめるのならまだしも、なんなのそのけったいな音楽は!あと、その太鼓みたいなシャンシャンなるやつがついてる変な楽器の担当者!ずっと叩き続けるなうっさい!!!!」
「ドラムは心臓なんだ。俺達の、ビートなんだ。熱くなってくるだろ、心が」
「今熱くなってる理由は、十割あなたへの怒りでしてよ!!!!!」
ドラムは、ゆっくりと音を抑えて叩き始める。ギターとベースが空気を読んで、バラード調の音楽を鳴らし始めた。
「これは、これで腹立ちますわ!というか、本当にほかの楽器はなんなのですの」
「見ての通り、ギター4人。ベース6人編成ですが」
「説明になってませんわ」
はあ、はあ、はあ、と息を荒げる令嬢。じわりと、その目に涙がにじみ始めた。
だから。
俺は彼女に、マイクを渡すのだ。
「なんのつもり……?」
「言いたいことがあるんだろ。叫ばなきゃいけないことが、あるんだろ。今だから、今しか、今この瞬間は、身分もなんよねえ。地位も名誉も関係ねえ。叫んでいいんだ、叫ぶしかないんだ。心が、君の心が、泣いているかい?笑っているかい?こえがするだろ?声がするんだ。その声を無視しちゃいけない。今、今ここからは──ロックンロールだ!!!!」
お嬢は息を大きく吐いて、そして叫んだ。
いいシャウトだった──そう、俺たちはロックンロールに今日も救われるんだ。
バカ王子はダイブしようとして失敗して骨折したらしい。
数日が経った。
公爵令嬢は結局、そのまま婚約破棄をしたらしい。直接の原因は令嬢があらゆる男に粉をかけまくっていたことらしい。
俺は思った。
「ロックじゃねえか。ところで、騎士さん。僕はいつ頃保釈されるんですか」
「知らん」




