俺の心が少女に萌える!
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咳き込む音が、背後で荒く響いている。
空気を貪るような呼吸。生きている証。その気配を、エリスはほんの一瞬だけ振り返って確認した。
ジャックは床に崩れ落ち、なおも必死に息を吸っている。
――助かった。
それだけを確認して。
エリスは、すぐに視線を戻した。
前へ。
宙に浮かぶ少女へ。
喉が、わずかに鳴る。
恐怖は消えていない。身体の奥底に、まだ確かに残っている。
だが、それ以上に。
今は、理解していた。
あれは人間ではない。
そして、自分はそれに対して――攻撃できる。
踏み出す。
静かに、一歩。
(今こそ! 俺のチートの唸るとき!!)
ぎし、と床が鳴る。
その音に、空間が微かに揺らいだ。
(うおおおおっ! 俺の心が少女に萌えるぅぅぅっ!!)
「――我、無垢なる幼子を慈しむものなり……」
内面の暴走とは裏腹に。
外面は、どこまでも静謐だった。
淡い蒼の瞳が細まり、整った唇がゆっくりと開く。
澄んだ声が、歪んだ空間に落ちる。
その瞬間。
「……よせ」
エレノアの声が、かすかに震えた。
後退する。
ゆっくりと、しかし確かに。
「よせ……!」
懇願に近い響き。
この空間の支配者が、初めて見せる動揺だった。
エリスは止まらない。
さらに一歩。
距離を詰める。
足を踏み出すたび、床に染み付いていた歪みが、音もなく剥がれ落ちていく。
空気の粘りが、薄れていく。
(イエスッッ! ロ〇ータアァッ!)
「無垢なる幼子、其れは神の愛し子なり……」
その声音は、どこまでも穏やかで神聖だった。
「やめろ……!」
エレノアの声が明確に震える。
「私に、近づくな……!」
拒絶の叫び。
しかし。
エリスは歩みを止めない。
距離は、もはや半ばを切っていた。
空間そのものが、彼女の進行に合わせて侵食されていく。
逃げ場が、消えていく。
やがて、エリスは手を伸ばした。
ゆっくりと、まるで慈しむように。
(ノオォォォォォ! タッチイィィィィィッ!!)
「悪しき者よ。汝、愛し子に触れることなかれ……」
その言葉と同時に。
「……っ、ま、待て……!」
エレノアが完全に取り乱す。
余裕は、もはや一切ない。
「神父ぅっ! 神父ぅぅぅぅぅっ!!」
叫びが、空間に響く。
「私の、私の負けだ! 我が名を明かす! だから――!」
声が震える。
「お前が祓え!! 神の名の下に、私を追放しろ!!」
懇願だった。
完全な敗北宣言。
「我が名は……!」
言葉が、絞り出される。
「我が名は……マケイ――!」
だが。
その名は、最後まで紡がれない。
エリスが、さらに一歩踏み込んだからだ。
距離が、ゼロになる。
手が届く。
(ディバイニングウゥゥゥゥゥ! アイアンクロオォォォォ!!)
「――今、聖なる御手が汝に触れる……!」
静かな宣告。
そのまま、手の平が。
エレノアの額へと触れた。
瞬間。
「――――ヌアァァァァァァァ!!」
絶叫が、空間を引き裂いた。
見えない何かが軋み、ひび割れる。
歪んでいた空間が、内側から崩れ始める。
それは祓いではない。
拒絶でもない。
ただ。
存在そのものが。
削ぎ落とされていく。
触れた、その一点から。
確実に。
崩壊が、広がっていく。
結末が、近づいていた。
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