本当のチート
引き続き、マスターの妄想を出力します。
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喉を、締め上げられている。
空中で吊るされたまま、ジャックの身体がびくりびくりと震えていた。足は虚空を蹴るばかりで何も掴めず、爪先が宙を掻くたびに、呼吸が削られていく。
「……ッ、ぐ……!」
掠れた音。肺に空気が入らない。顔色は急速に青白くなり、視線が焦点を失いかけている。
明確な、死の兆候だった。
その光景を。
エリスは、ただ見ていた。
(――いや、無理無理無理無理!!)
内心は、完全に崩壊寸前だった。
(どうすんだよこれ!? 首締まってる! ガチで死ぬやつ!!)
身体は動かない。足も、腕も、指先すら。
恐怖が、神経を凍らせている。
(動けよ!! いや動けって!!)
命令しても、応じない。
だが。
ジャックの喉が、さらに締め上げられる。
「……っ……!」
声にならない声。空気を求めて、口が開く。
――助けなければ。
その認識だけが、異様に鮮明だった。
(……っ)
胸の奥で、何かが軋む。
恐怖の塊の中に、別の何かが混じる。
焦燥。苛立ち。否定。
(……やれよ)
誰に向けたのか分からない声が、内側で響く。
(やれよ、オレ……!)
その瞬間。
エリスの周囲の空気が、わずかに揺らいだ。
目に見える変化ではない。だが確かに、異界の圧が一瞬だけ、波打つ。
“干渉できない点”だったはずの存在が、微かに外側へ触れかける。
「……?」
エレノアの視線が、鋭く動いた。
異変を、捉える。
だが。
エリス自身は、それどころではなかった。
(とにかく助ける!! 回復だ回復!!)
思考が、一気にそちらへ傾く。
――ヒール。
あの便利スキル。
これしかない。
(え、待って、回復ってどうやるんだっけ……!?)
止まる。
(触る? 念じる? いや順番あったよな!?)
混乱が再燃する。
(右手がヒールで左手が攻撃……? いや逆!?)
さらに混線。
(ええっと、お箸を持つのが右足で、茶碗を持つのが右手だから……!)
思考が壊れた。
(違う違う違うなんで足!? 混がらかるうううぅぅぅ!!)
限界だった。
そして。
混線チートが、発動した。
エリスの視界には桃色の光が迸る。
外から見れば、何も起きていない。
光も、音も、変化もない。
だが。
ジャックの首を締めていた“何か”だけが。
――消えた。
「――っ!?」
支えを失った身体が、重力に従って落ちる。
床に叩きつけられ、ジャックは激しく咳き込んだ。
「がっ、げほっ……! はっ……はぁっ……!」
空気を、貪るように吸い込む。
呼吸が、戻る。
生きている。
「……は?」
エリスは、固まった。
(え、今……ヒール成功した?)
状況が理解できない。
一方で。
エレノアは、即座に反応した。
「――何をした」
低く、抑えた声。
だがその奥に、明確な緊張が滲む。
視線が、エリスへと突き刺さる。
再度。
見えない力が、ジャックへ伸びる。
――掴む。
そのはずだった。
だが。
何も、起こらない。
「……っ」
もう一度。
圧を強める。
だが、同じ。
作用が――消える。
ジャックの身体に余韻として残るチートの残滓がその影響を拒んだのだ。
「……何だ、それは」
声が、僅かに揺れた。
理解不能ではない。
違う。
これは――危険だ。
エリスは、まだ混乱の中にいた。
(いやちょっと待て、これマジで何起きた?)
ジャックは回復していない。首の跡はそのまま、ただ締め付けだけが消えている。
(……あれ?)
違和感。
(これ、治したっていうか……)
思考が、ゆっくりと繋がる。
(締めてた“何か”が消えた……?)
その瞬間。
記憶が、閃く。
孤児院。
院長。
あのときの、“よく分からない発動”。
(――あ)
ピースが、嵌まる。
(これ……)
脳内で、何かが弾けた。
(ピキーン!)
(謎は完全に解けた!!)
確信に変わる。
(これ、人間には効かないけど――)
ゆっくりと、顔を上げる。
視線の先。
宙に浮かび、歪んだ気配を纏う少女。
(“人間じゃない何か”には、ぶっ刺さるやつだ!!)
つまり。
(あれ、完全に“悪判定”じゃん!!)
理解した。
完全に。
エリスは、一歩踏み出した。
静かに。
だが確実に。
その動きに。
「――っ」
エレノアが、後退した。
初めて。
明確に。
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