さあ、どうする?
引き続き、マスターの妄想を出力します。
ブックマークや評価をしてくださった皆さま、ありがとうございます。
部屋は、なお澱んでいた。
だがその澱みは、わずかに質が違う。
中心に立つエリスを、避けるように。 圧が、僅かに逸れている。
「……」
エレノアは、視線を外した。
理解できない存在へ、直接触れることを――諦めた。
「……もういい」
低く、押し殺した声。
その響きには、先ほどまでの余裕はない。
「ならば」
次の瞬間。
すでにかかっていた圧が、さらに強まる。
「ぐ……っ!」
リチャードの身体が、より強く壁へと押し付けられた。
逃げ場はない。
見えない力に拘束され、呼吸が浅く乱れ、胸に鈍い痛みが走る。 それでも、意識は途切れない。
――逃がさない。
そんな意志が、圧そのものに込められていた。
「……反応しないか」
苛立ちを含んだ呟き。
エレノアの視線は、エリスを警戒し続けながらも、決して近づかない。
代わりに、“壊せるもの”へと向けられる。
「ならば――」
圧が、拡張した。
「――っ!」
エドワードの身体も、同時に壁へと押し付けられる。
遅れて襲う圧迫に、呼吸が喉の奥で途切れた。
「これでどうだ?」
歪んだ笑み。
理解できないものから目を逸らし、理解できる弱者を痛めつける。
それによって、己の優位を再確認する。
空間が、さらに軋む。
だが。
その中心で。
エリスは、動かない。
歪みから切り離されたように、ただそこに立っている。
(いや無理だろこれ……)
内心は、崩壊寸前だった。
(なんでこうなるんだよ……!? いやさっきより悪化してるだろ完全に!)
視界の端で、二人が押し潰されていく。
助けなければならない。
分かっている。
だが。
(動けねぇって!!)
恐怖が、身体を縫い止めていた。
完全な硬直。
それでも、外面だけは、崩れない。
静かに。 ただ、見ている。
「……」
エレノアの視線が、再びエリスへ向く。
距離は取ったまま。 決して近づかない。 観察し、存在を測る。
だが。
読めない。 触れられない。
「……未知の存在。いや、もはや現象か⋯⋯」
ぽつりと、呟きが落ちる。
敵対するでもなく、そこに在る。
人間かどうかも断定できない。
理解不能な何か。
「存在しているのに、理解できない……」
意味が分からない。
その存在を、定義できない。
その事実が、本能に直接触れる。
――恐怖。
「……っ」
エレノアの指先が、わずかに震えた。 本能が告げる。
近づくな。
関わるな。
触れるな。
だが同時に。
排除しなければならないとも理解している。
矛盾が、意識を軋ませる。
一方で。
(いや待ってくれ現象って何だよ!?)
エリスの内心は、全力で混乱していた。
(オレ人間だよな!? え、違う判定されてる!?)
恐怖と混乱で思考がまとまらない。
(説明イベントくれ!! マジで!!)
だが、沈黙。
完全な静止。
それが結果的に、“余裕”として映る。
「……」
エレノアの表情が歪む。
理解できない。
ならば、どうすればいいというのか?
その瞬間。
エリスに遅れて扉をくぐり、部屋に入る存在があった。
「……?」
エレノアの意識が向く。
次の瞬間。
躊躇いと恐怖を含んだ足音が響く。
現れたのは。
「エレノア……!」
震える声。
だが、その中に確かな想いを宿した呼びかけ。
マーガレット。
そして、その隣に。
「……っ、なんだよこれ……」
息を呑む少年。
ジャック。
異様な空間に一瞬で顔色を変えながらも、足を止めない。
その瞬間。
エレノアの意識が、完全に切り替わる。
理解できない存在ではなく。
理解できる存在へ。
「……なるほど」
ゆっくりと、口元が歪む。
繋がり。
関係。
それがあるなら、壊せる⋯!
次の瞬間。
ジャックの身体が、唐突に浮き上がった。
「――っ!?」
足が床から離れる。
首元に、見えない力が絡みつく。
「が……っ……!」
呼吸が乱れる。
空気が入らない。
身体が、無理やり吊り上げられる。
「エレノア、やめて……!」
マーガレットの声が響く。
だが、止まらない。
締め上げは続く。
「――エリス!」
掠れた叫び。
その一言が。
空間を、わずかに揺らした。
エリスの内側を。
強く、揺らした。
(――っ)
止まっていた思考が跳ねる。
視線が、わずかに揺れる。
助けなければ。
理解はしている。
だが。
(いや無理無理無理!!)
恐怖が押し潰す。
(どうすんだよこれ!! 詰みだろ完全に!!)
ジャックの身体が軋む。
呼吸が途切れかける。
見ていることしかできない。
それでも。
外面は、変わらない。
静かに立つ。
「……どうした」
エレノアの声が、愉悦を帯びる。
「助けないのか?」
さらに圧が強まる。
締め上げる。
壊れる寸前まで。
「さあ――どうする」
選択を突きつける視線。
そのすべてが、エリスへ向けられる。
そして。
その瞬間。
エリスの中で、何かが動いた。
恐怖の奥。
混乱の底。
わずかに、だが確かに。
意思が、芽を出す。
(……やるしか、ない)
ほんの僅かに。
恐怖を、上回った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
面白かった・続きが読みたい、と思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると幸いです。
マスターの妄想生成効率が向上する傾向があります。




