何なんだ、お前は!
引き続き、マスターの妄想を出力します。
ブックマークや評価をしてくださった皆さま、ありがとうございます。
空間は、なお歪んでいた。
壁は震え、床は沈み、空気は粘つくように重い。視界そのものが曖昧に揺らぎ、現実という枠組みが軋んでいる。
だが、その中心に。
ただ一人、何の影響も受けていない存在が立っていた。
銀髪の少女――エリス。
彼女は静かに、エレノアを見上げている。
呼吸も乱れず、ただそこに在る。
それだけで、異様だった。
「……なんだ」
エレノアの口が、ゆっくりと開く。
その声は低く、重く、そして明確に揺れていた。
「なんだ……お前は」
問い。
だが、それは相手を理解しようとするものではない。
理解できないものに対する、本能的な拒絶。
空間が、軋む。
見えない圧が一斉にエリスへと収束した。
存在そのものを押し潰すような力。
これまで、あらゆるものを屈服させてきた領域支配の圧が、迷いなく叩きつけられる。
だが。
エリスは、微動だにしなかった。
その髪も、呼吸のリズムも、何一つ変わらない。
ただ、そこに立っている。
「……は?」
エレノアの声が、わずかに掠れる。
圧を強める。
さらに強く、さらに深く。
空間そのものがきしみ、床が沈み込み、空気が歪む。
それでも。
何も起こらない。
エリスの周囲だけが、まるで別の世界のように静かだった。
干渉が、通らない。
否。
通っているはずの干渉が、意味を持たない。
「……あり得ない」
その呟きは、初めての“理解不能”に直面した証だった。
リチャードは、壁に押し付けられたまま息を呑む。
エドワードもまた、目を見開いていた。
祈りが無力化されたこの空間で。
絶対だったはずの支配が、通用しない。
そんな光景を、ただ見せつけられている。
エレノアの瞳が、さらに細められる。
「……ならば」
次の瞬間。
視線が、わずかに変わった。
“見る”。
より深く。
より内側へ。
精神ではなく、魂へと触れるような、侵入。
読解。
思考の奥底を覗き込み、存在の構造を解き明かす行為。
それが、無造作にエリスへと向けられる。
だが。
――何もない。
「……は?」
再び、同じ声が漏れた。
空白。
いや、違う。
“触れられない”。
そもそも接続が成立しない。
心の形を掴む以前に、そこへ至る経路が存在しない。
「なぜだ」
低く、苛立ちが滲む。
「なぜ心が読めない」
当然のようにできるはずの行為が、成立しない。
だが、その問いに。
答えはない。
そして、闇の力の及ばないエリスの内心は⋯。
(無理無理無理無理無理!!)
すでに崩壊寸前だった。
(いやこれ完全にホラー案件だろ!! なにこれ!? 浮いてるし!! 関節おかしいし!! 声重なってるし!!)
視界に入るものすべてが、理解を拒む。
理屈が通じない。
常識が通じない。
(チビるって!! マジでチビるってこれ!!)
逃げたい。
全力で逃げたい。
だが、足は動かない。
というか。
(動けねぇぇぇぇ!!)
恐怖で固まっているだけだった。
完全に硬直している。
だが。
その外側だけは。
まったく揺れていなかった。
淡い蒼の瞳は静かに前を見据え、呼吸も整い、姿勢も崩れない。
恐怖など存在しないかのように。
ただ、そこに在る。
「……ふざけるな」
エレノアの声が、低く沈む。
理解できない。
干渉できない。
読めない。
ならば。
――通じる奴を使えばいい。
次の瞬間。
空間が、強く軋んだ。
「ぐ……っ!」
リチャードの喉から、押し潰されたような声が漏れる。
見えない力が、さらに強く身体を締め上げる。
骨が軋み、呼吸が奪われる。
「これは理解できるか?」
エレノアの唇が、歪む。
嘲り。
人間に対する絶対的な優位。
それは、確かに存在していた。
エドワードもまた、苦悶に顔を歪める。
祈りは通じない。
抵抗もできない。
ただ圧し潰されるだけ。
その現実が、明確に示される。
「さあ、どうする?」
言葉と共に、さらに力が強まる。
だが。
エリスは、動かない。
一歩も。
視線すら逸らさない。
助けようともしない。
いや――動けない。
(いや助けたいけど無理!! 無理無理無理!!)
完全にフリーズしている。
だが。
その“動かなさ”が。
異様だった。
干渉されない。
読めない。
反応しない。
それなのに、ただ見ている。
それだけで。
“圧”になる。
「……っ」
エレノアの表情が、わずかに歪む。
理解できない存在が、ただそこにいる。
何もしていないのに。
何もしていないからこそ。
得体の知れない圧迫感となる。
そして。
ついに。
「――なんなんだお前は!!」
叫びが、空間を震わせた。
怒りではない。
苛立ちでもない。
明確な。
恐怖。
その声に、リチャードが息を呑む。
エドワードもまた、震える瞳でその光景を見つめる。
絶対者だった存在が。
初めて、恐れている。
だが。
エリスは。
(いやオレが聞きたいわ!!)
内心で全力ツッコミをかましながらも。
完全に固まっていた。
思考もぐちゃぐちゃで、整理などできていない。
(なにこれどうすんの!? え、戦うの!? 無理無理無理!!)
それでも。
外面だけは。
崩れない。
静謐なまま。
ただ、そこに立つ。
その姿が。
何よりも異質だった。
「……っ」
エレノアの身体が、わずかに後退する。
距離を取る。
それが、すべてだった。
何もしていない存在に対して。
距離を取るしかない。
支配はまだある。
力も、優位も、消えてはいない。
だが。
それでも。
確かに。
状況は変わりつつあった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
面白かった・続きが読みたい、と思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると幸いです。
マスターの妄想生成効率が向上する傾向があります。




