テンプレな転生
只今より、マスターの妄想を材料にした文章を出力します。
白い。
視界に入るものは、それだけだった。白い光に満たされた空間。天井も床も壁も見当たらず、境界も見えない。柔らかな白が、どこまでも続いている。
その中で、ひとつの魂がぼんやりと漂っていた。
自分の体があるのかどうか、よく分からない。手足の感覚は曖昧で、立っているのか浮いているのかすら判断できない。重力というものが、この空間には存在しないようだった。
しかし意識だけは妙にはっきりしていた。思考は動き、記憶も残っている。自分が「自分」であるという感覚も、確かにそこにあった。
(……あれ?)
疑問が浮かぶ。
(俺、死んだ?)
記憶を探る。
パソコンの画面。
夜更かし。
コンビニ弁当。
動画サイト。
そんな、どうでもいい日常の断片ばかりが浮かんでくる。だが肝心の「死んだ瞬間」は思い出せない。そこだけが、きれいに抜け落ちていた。
(いや待って)
思考が少し加速する。
(これ、まさか)
そのときだった。
白い空間の中に、変化が生まれた。
最初はわずかな違和感だった。何もないはずの空間に、光の濃淡のようなものが現れたのだ。影のようでもあり、光の歪みのようでもある。
やがて、それは形を持った。
人の形だった。
しかし、それは人間ではない。
輪郭は男性のように見える。背は高く、姿勢は直立している。だが動きは一切ない。呼吸も体重移動もなく、生き物の気配がまったく感じられなかった。
その身体は光で出来ていた。
白く発光する輪郭だけがあり、内部は見えない。顔の位置は分かるが、目も鼻も口も存在しない。表情というものが、そもそも存在しないようだった。
ただ、人型の光がそこに“立っている”。
それだけだった。
「覚醒を確認」
声が落ちた。
低く静かだった。
だが人間の声ではない。空気を震わせて届く音ではなく、思考の中心に直接落とされる情報のようだった。まるで機械音声がそのまま意識に流れ込んできたかのようだ。
(……なにこれ、神様?)
思考が固まる。
(神様ってもっとこう……)
白い髭の老人とか。
優しそうな神父とか。
あるいは光に包まれた女神とか。
(いやいやいや)
(こんな機械みたいな存在じゃないだろ普通)
「あなたは死亡しました」
断定だった。
説明も前置きもない。ただ事実だけが提示される。
「魂の消失は確認されていません」
「……えーと」
思わず聞き返す。
「つまり?」
「再配置が可能です」
(再配置?)
なんか言い方が怖い。
倉庫の荷物みたいだ。
「新たな人生を付与することができます」
声の調子は変わらない。静かで、無機質で、淡々としている。
(……)
少し沈黙。
(え、ちょっと待って)
(これ、もしかして)
思考が一つの結論にたどり着く。
(テンプレ転生来た?)
頭の中で警報が鳴る。
異世界転生。
神様との面談。
チート能力。
なろう系テンプレ三点セットである。
(でも神様っぽい人に会うとか……)
(ガチ案件じゃん)
「再配置に伴い、三つの祝福を付与します」
その言葉と同時に、空間に三つの光が浮かび上がった。小さな星のような光が、静かな白の中でゆっくりと明滅する。
「第一は、悪に対する絶対的な攻撃力」
ひとつの光が鋭く瞬いた。どこか鋭利な気配を帯びた光だった。
「第二は、魂すら癒す癒しの力」
別の光が、柔らかな波紋のように揺れる。静かな温もりを感じさせる輝きだった。
「第三は、天与の美貌」
最後の光が、静かに光度を増した。
沈黙が落ちた。
(……ん?)
(今なんて?)
「外見と所作が最適化されます。また魂の完全性が確保されます」
(いやそこじゃない)
問題はそこじゃない。
(なんで三つ目だけ美容カテゴリ!?)
思わず内心で突っ込む。
悪に対する攻撃力。
魂を癒す治癒能力。
そして美貌。
(ジャンルが違うんだけど)
だが冷静に考えてみる。
攻撃能力と回復能力。この二つがある時点で、かなりのチートだ。生き残るという意味では理想的な組み合わせと言える。
(いや、まあ)
悪くない。
むしろ当たりでは?
攻撃と回復があれば生存率は高い。美貌は……まあ、おまけみたいなものだ。
そう思った瞬間だった。
「ただし」
機械的な声が続いた。
「祝福には対価が必要です」
空間の空気が、わずかに重くなる。
(……対価?)
「再配置者は必ず代償を支払います」
言葉は相変わらず平坦だった。
だが、その意味は明確だった。
「祝福は無条件ではありません」
逃げ道はない、と。
そう告げているようだった。
次いで機械的な声が脳裏に響く。
『夭折』
『極貧』
『性転換』
沈黙。
(……)
(……)
(……え?)
「いやいやいや、TS!?マジで!?」
思わず声が出た。
光の存在は反応しない。
「いずれか一つを選択してください」
声は変わらない。
「選択しない場合、再配置は実行されません」
(待って待って待って)
頭の中で高速会議が始まる。
夭折。
(論外)
人生短いとか意味ない。
極貧。
(これもキツい)
前世でそこそこ苦労したんだぞ。
残るのが。
(性転換……)
つまり。
(女になるってこと?)
うーん。
うーん。
うーーーーーん。
白い空間の中で、思考だけがぐるぐる回る。体がないはずなのに、なぜか頭を抱えて悩んでいる気分だった。
(……)
やがて、結論が出る。
(まあ……)
死ぬよりマシ。
極貧よりマシ。
それに。
(再配置されるなら新しい人生ってことだろ)
だったら。
多少変わってても。
まあ。
「……性転換で」
短い沈黙。
「了承」
機械的な声が返る。
「契約成立」
その瞬間、三つの光が一斉に動いた。星のような輝きが一直線にこちらへ向かい、次の瞬間、魂の中心へと吸い込まれる。
熱い。
だが痛みではない。
何かが刻まれる感覚だった。力が染み込むように、魂の奥へゆっくり広がっていく。
「祝福を付与しました」
空間が強く輝き始める。
白い世界がさらに白くなる。視界が光で満たされ、輪郭が崩れていく。空間そのものが溶けていくようだった。
(お、始まる感じ?)
意識が遠くなる。
思考がゆっくり沈んでいく。
そのときだった。
「代償は現実で回収されます」
(……ん?)
一瞬だけ思考が引き戻される。
(今の発言ちょっと怖いんだけど)
だがもう考える余裕は残っていなかった。
意識が沈む。
白い光が闇へ変わる。
(まあ……)
最後に、ぼんやり思う。
(再配置されるなら何とかなるだろ)
たぶん。
きっと。
おそらく。
……。
意識が闇へ落ちた。
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