登録者数113名、無名YouTuberが始めた国会議事堂前での一人デモは、まさかの革命を引き起こすという、信じがたい結末をもって幕引きとなった……
しかし、主要政党の政治家達は理解していなかった。
国民の全てが全体主義者なわけではない。
出世の為に権力者の要求に唯々諾々と従うわけでもない。
初期からデモに共感し、彼らを支持し、林田総理らを批判していた新党・民主主義者に所属している国会議員達もそうだ。
彼らは元の所属政党からの同調圧力に屈せず、民主主義を支持した。
何が正しくて何が間違っているのか、きちんと判断し、正しいと思う行動を選択していた。
変化はまず警察の機動隊から始まった。
機動隊員らが求職や配置転換を、退職願を上司に申し出るようになった。
何もしていない、明らかにただ抗議することが目的の無抵抗なデモ参加者を乱暴に押さえつけて、制圧する行為に嫌気がさしていたのだ。
中には精神的苦痛を感じたり、精神的負担から精神を病んだり、軽くノイローゼになる者も出ていた。
幾ら警察学校で適性を見られて、上司からの指示であれば、どんなに指示にも従い、無理難題でも理不尽な内容でも決行する意思のある者が選ばれて警察官になっていたのだとしても、犯罪者でも何でもない、腐敗した政治に怒りの声を上げているだけの一市民を制圧し、逮捕し続けるのは、サイコパスでもない限り、限界があった。
機動隊幹部も同様で、隊長クラスですら、これは警察の正規業務とは言えません、単なる市民弾圧に従うことはできませんと述べ、職を辞する者が現れていた。
上層部が必死に引き留め、何とか辞めさせないようにと躍起になったが、今度は命令拒否を伝え、ボイコットする機動隊員まで出てくるようになった。
警察の現業部門からの悲鳴は警察庁にまで届き、遂に警察庁長官が、これ以上の抗議デモの弾圧は不可能ですと、林田総理にじかに伝える事態にまでなった。
林田総理は首相官邸に自衛隊トップである牧野繁晴統合幕僚長を呼び出して、こう持ち掛けた。
「牧野統幕長、警察の方から、抗議デモの鎮圧をこれ以上、機動隊にやらせるのは不可能だとの話が来ました。そこで自衛隊にお願いしたいのですが」
牧野はきっぱりと断った。
「馬鹿なことを言わないで頂きたい。何故我々があなた方政治の不始末の尻拭いをしなければならないのか。私達は国民を弾圧する為に存在するのではない」
牧野は怒りを滲ませつつ、毅然とそう言い放ち、官邸を去ってしまった。
程なくして、牧野は海外メディア向けに記者会見を開いた。
林田総理から抗議デモの鎮圧を命じられたが拒否したことを公表し、自衛隊としては、抗議デモ問題には一切関与するつもりがないことを、統合幕僚長の見解として正式に発表した。
自衛隊トップがこのような会見を開いたことなどなく、異例中の異例だった。
総理の林田だけでなく、政権党である民自党、公政党、抗議デモ弾圧を支持してきた最大野党民立党、民国党、維新改新党等の主要政党は、政治的に追い詰められることとなった。
マスコミ内部からも叛乱の火の手は上がっていた。
政治と癒着して弾圧を肯定、正当化する幹部と、唯々諾々とそれに従うスタッフらに反旗を翻す職員が、テレビ局、新聞社の双方から出始めていて、海外メディアに対して顔出し、実名で社内の内情を暴露し、上層部と幹部らを非難するようになっていた。
全体主義体制の崩壊が始まったのだ。
そんな中、新党・民主主義者に所属する国会議員らに、アメリカやイギリス、フランス、ドイツなどの欧米先進民主主義国の政府高官が接触を図ってくるようになった。
今後、どのように事態の打開を図る気なのか、と。
民主主義者の国会議員達は、有識者や民主主義的な活動をしている信用のおける人士らと交わっており、彼らと意見交換をし、今後、どのようにするのかについて話し合っていたが、まずは日本の政治の深刻な腐敗についてどうするのかが焦点になった。
どこの国にも組織票があるが、日本の場合、カルト宗教の信者票が選挙で猛威を振るい、結果、中央官庁までがカルトの間接支配下に陥落する酷い有様となっているので、仮に林田を辞めさせて議会を解散、総選挙を実施したとしても、腐敗の一掃は不可能だろうとの見解で一致した。
また、官邸に官僚の人事権が渡り、官僚を政治家が家臣のように付き従えさせられる状況になった結果、政治家達が暴君のように横暴を極め、したい放題するようになって、政治腐敗の深刻化に拍車がかかったことも問題視された。
現在、国会に議席を有している政治家で、そのような芸当が可能だった、あるいは、実際にやってのけた腐敗政治家達に、議員として地位を与え続ければ、腐敗一掃の為の改革は実行不可能だろうという結論に達した。
よって、国会議員を総辞職させた後、新党・民主主義者に所属する国会議員らを中心に臨時政府を構築し、改革を十分に断行して、汚職を働いた者、権力を濫用した者らを獄に繋いで社会から完全に排除し、影響力を完全に殺いだ上で、民主主義的なシステムを再構築した後、国政選挙を実施するのが望ましいだろう、という話になった。
新党・民主主義者の代表である政治家・杉田鉄馬はこの話を声明として発表し、海外メディアにも報道させる一方、林田政権の退陣と国会の解散要求を出した。
三日後、四面楚歌となった林田は要求を呑み、内閣を解散した。
国会では民立党の議員らが喚き散らし、俺は辞めない、こんなのは反民主主義だと、自分達が民主的な抗議デモを機動隊に弾圧させまくったことを棚に上げて議員の座にしがみつこうと醜態を晒していた。
民主主義者のバックに欧米政府がついていることを殆どの国会議員は知っていた為、抵抗しても無駄だと諦めた。
数年後に行われるであろう国政選挙での議員返り咲きを目指し、選挙区に引っ込んで行った。
登録者数113名、無名YouTuberが始めた国会議事堂前での一人デモは、まさかの無血革命を引き出すという、信じがたい結末をもって幕引きとなったのだった。
なお彼も含めてあのデモで身体を張って政府に抗議したYouTuber達は、三年後に開かれた国政選挙で全員当選し、国会議員になったことを紹介しておく。
おしまい
後書きが長いので分離させました。
次回が最後で後書きです。
あと点数つけて貰うとランキング上位で表示されて、より多くの人に読んで貰えますので、できれば評価して頂けると助かりますね。
ちょっとイデオロギー要素強すぎの作品ではありますが。




