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【SF 空想科学】

悪魔と天使は互いの拳をふりあげて言った。「じゃんけんぽん」

作者: 小雨川蛙


 天使が片手で拳を作り悪魔へと振り上げた。

 対する悪魔も鏡映しのように天使へと拳を振り上げる。

 二人は同時に声を出した。


 「じゃんけんぽん」


 天使はチョキを出し、悪魔はグーを出した。


 「今回は俺の勝ちだ」

 「そのようですね」

 「じゃあ、行ってくる」


 そう言って悪魔はニ対の翼を広げて下界へとつまり人間が住む世界へと降りたって行った。

 天使はその背へと声をかけた。


 「なるべく早く返って来てくださいね。一人は退屈だから」


 悪魔は振り返らずに答えた。


「俺が居たって、特にする事は無いだろう」

「まぁ、その通りですけれど」


 天使はそう呟くと天界、つまり自分や悪魔が暮らす世界の端っこから悪魔が今どのような災いを振りまいているのかを見物し始めた。

 どうやら今回はてっとり早い戦争を行う事にしたようで、彼は今、とある国の支配者へと文字通り悪魔の囁きを聞かせていた。

 天使は独りため息をついた。


 戦争は嫌いだった。

 昔のように武器が強くなければまだ良い。

 例えば剣とか槍とかどれだけ優れていても銃であるとか……。


 だが、今の人間は相対する相手の表情さえ分からないままに殺せる爆弾ばかり使う。

 天使は爆弾が嫌いだった。

 戦争が終わっても長々なとその爪痕を残し続けるからだ。

 悪魔は壊すだけで良いけれど天使は再生から成長まで行わなければならない。

 

「あっちの方が楽そうで良いなぁ」


 天使がぽつりと呟いた頃、下界で支配者を誘惑し終えた悪魔もまた呟いた。


「あいつの仕事はやりがいがあって羨ましいな」


 世界を形成する要素という物はいつだって存在していて例えば悪魔と天使もその一つだった。

 彼らは一方が存在しなければ他方もまた存在出来ない。

 かと言って悪魔は人間を誘惑するのが仕事なので何もしない訳にはいかない。


 勿論、天使もまた悪魔から人々を救うのが仕事なので悪魔に好き勝手やらせる訳にはいかない。

 困った事にそのようなルールを彼らの上役である神様が作ってしまったのだ。

 故に彼らは相手を滅ぼす事が出来ない。


 かと言って、何もしていなければすぐに神様からお叱りの言葉を受ける……。

 人間より遥かに強い力を持った彼らだがそんな彼らでも神様には到底敵わない。

 そのため世界が始まった頃より二人はこの無意味な当番制の仕事を続けていた。

 当然、これでは双方やりがいと言う物を感じなくなり、今はご覧のように淡泊な作業と化している。

 下界で戦争が始まり、悪魔が戻ってきた。

 

「待たせたな」

 

 天使は頷いて悪魔の座れるスペースを作った。

 二人は寄り添いながら下界を見つめていたが、やがて悪魔がぽつりと言った。


「下の奴らの実験でな。面白い物が一つあった」

「実験?」


 天使が尋ねると悪魔は頷いた。

 

「ああ。捕まえた敵国の兵士に一日中穴を掘らせるらしい。だが、それに目的なんて存在しないんだ」

「じゃあ、その掘った穴はどうするのですか?」

「その日の内に同じ兵士に埋めさせる」


 天使が不思議そうな顔をすると悪魔は頷く。彼も見ていた時、同じような事を感じていたのだろう。

 

「その行為に何の意味があるのです?」

「勿論、何の意味も無い。故に兵士たちは自分が何のために生きているか分からなくなるのだと」

「ああ」


 話のオチを悟った天使はため息交じりに呟いた。


「彼らは良いですよね。寿命が存在するから」

「まったくもってその通り」


 二人はうんざりした顔で下界で起こる戦争を今日もまた見続けていた。

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