表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スキンウォーカー ― もう誰も、信じてはいけない ―

作者: 夜ノ烏

「奴らは静かに紛れ込む。」

そんな世界で生きる人々の、一つの物語。

※この作品には暴力描写が含まれるため、R15指定としています。

楽しんでいただけたら幸いです。

 気付いたときには、もう何もかも手遅れだった。


 世界に人類は……何パーセント残っているのだろう。

 私たちの町の人間は、もう誰も信じられなかった。

 いつから始まっていたのかさえ、誰にもわからない。

 

 私たち夫婦にできることは、立てこもり、震えながら息を潜めることだけだった。


 だが、すぐに。そんなことさえ無駄なのだと知った。


 「――ああぁぁぁぁっっっ!」


 部屋の中に響き渡る、喉が引き裂けるような慟哭。

 白い煙を吐きながら火花が散り、轟音が鳴り響く。

 

 眉間を撃ち抜かれ、倒れた妻の顔を私は撃ち続けた。

 何発も何発も。

 弾倉が空になり、銃が物言わぬただの鉄となるまで。


 割れたスイカのように。

 醜く破壊された妻の頭に安堵し、絶望する。

 ごとり、と鈍い音を立てて。

 力を失った手から銃がこぼれ落ちた。


 木の板で目張りされた窓に、ふらふらと歩み寄り。

 その脇に立てかけた猟銃を手に取る。

 ひざまずき、猟銃の先を口に咥え。


 引き金を引いた。

 


 ――一年後。

 

 それは良く晴れた、風のない爽やかな朝だった。

 開放的な、広く整備された道。

 

 制服姿の少女たちが歩いている。


 「は~めんどくさいなぁ」

 

 横並びに歩く三人のうち、車道側の少女がぼやく。

 首元でそろえた明るい金髪の、活発そうな少女だ。


 「だめだよ真希ちゃん。すぐサボろうとする」


 真希をたしなめる隣の少女。

 腰まである亜麻色の髪が、きれいに巻かれている。

 大人びた雰囲気の少女だ。


 「真希は反省しないからね。雛がママになるしかないんじゃないかな~」

 

 にしし、と悪戯っぽく、雛の隣で笑う少女。

 片側で結んだ、肩下ほどの黒髪。

 小柄であどけない少女だ。


 「香奈っち知ってる?雛っち本当にママになるかも」


 ママという言葉で、最近知った面白い話を思い出し、真希はにやにやと笑みを浮かべた。

 

 「おやおや~?あの話ですかな~?雛の~彼ぴっ」


 真希と同じ顔をして、香奈も楽しそうに答える。


 「そーそー。あたし部屋が隣じゃん?毎晩聞こえてくるわけよ、二人が」

 

 「ちょ、ちょっと真希ちゃん!何の話してるの!」

 

 「なにそれなにそれ!香奈も聞きた~い!具体的に」


 「ダメー!わかった、わかったから!今度から気を付ける!だからやめよ?ね?」


 「どうしよっかな~?香奈っち聞きたいよね〜?」


 「もういいから!二人ともこの話はお終いに――」


 ザッ。雛のイヤホンマイクに、短いノイズが入る。


 『こちらDブロック。Aブロック応答せよ。繰り返す』


 定期通信だ。


 「こちらAブロック。異常なし。繰り返す。こちらAブロック。異――」


 ――雛の頭が弾け飛ぶ。


 二人の耳に、遠くで微かな鈍い音が聞こえた。


 瞬時に二人は左右へ別れ、建物の影に身を隠す。


 「こちらAブロック。狙撃された。一人減った」


 真希は、肩に下げた自動小銃を構えなおした。

 淡々と現状を報告する。


 「Aブロック、一人欠員だそうです」


 報告を受けた本部の管理室で、刈り上げ頭の男が爽やかな声をあげた。


 「狙撃か。気を抜いてたな。馬鹿なやつらだ。やられたのは? なんて呼称のやつ?」


 壮年の、巌の様な身体をした片目のない男が、調子の外れた酷い女声で答える。


 「雛です。……えっと、あんたなんて呼ぶんだっけ?長官?大佐?」


 刈り上げの男は、今にも泣きだしそうな悲痛な面持ちで、声を震わせ問い返す。


 「大佐だった気がする!雛ってあれか?お前と恋人とかいうのやってなかったか?大樹!」


 大佐が目を細め、肩を怒らせながら、大声で怒鳴りつけるように問い返した。


 「そうですね。色々試してみたんですが、よくわかりませんでしたよ大佐」


 「人間は、男の個体と女の個体で、そういうことするのが普通なんだ」

 

 「らしいですね。意味不明ですが。あぁでも、交尾は楽しかったですよ」


 大佐と大樹。二人は報告を忘れたみたいに、能面のような無表情で会話を続けた。


 壁のモニターに映った、Aブロック監視カメラの映像に、動くものはない。

 頭を撃ち抜かれた二人の少女が、画面の端に転がっているだけだった。


 ――人類は、いつの間にか侵略されていた。


 その生物が、どこからやってきたのかさえ。

 誰にもわからない。

 宇宙から来たという若者、深海からという学者、氷の中からという調査員。


 すべて根拠に乏しく、憶測でしかない噂話だ。

 

 その生物は人間の体に入り込み、あるいは人間の身体に化け、巧妙に正体を隠していた。

 大佐と大樹と呼ばれた個体は、肉体を手に入れて、まだ日が浅かったのだろう。


 知識と記憶が上手く取り込めておらず。

 分かりやすくちぐはぐだ。


 最初に気付いた人間が誰なのかさえ、誰も知らない。


 いつしか、人々に認知されたその存在。

 それは『スキンウォーカー』と呼ばれていた。


 人類はいまだ。

 彼らの目的も、その正体も解明できていない。


 わかっているのは、誰も信じられないという絶望だ。

 世界中の町で。

 あちこちの壁や看板に落書きされている言葉。


 その言葉は各種メディアが伝えていた。

 人々の間に広がったスローガンのようなものだ。


 この世界で生きるために。


 守らなければならない、たった一つのルール。

 

 

 ――『隣人を疑え』


 

 もう誰も、信じてはいけない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

この作品の世界観や感想、ぜひコメントで教えてもらえると嬉しいです!

(気に入っていただけたら、評価やブックマークもしてもらえると励みになります!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ