超人 Übermensch
男爵の正体。
アーモニア帝国、帝都・ベーラン市内
新皇帝歴1年4月21日
午後17時20分頃
リシュトフェン男爵は長官が用意した追跡用の最新の魔法自動車の座席に座っていた。
「何処に向かっているのでしょうか?」
隣に座っていた鑑識官のエンマー・ライヘットが質問した。
「わからん・・・だが逃げるのは確実。」
心境が読めない表情と声で男爵は答えた。
「それにしても、この魔法自動車は素晴らしいね。」
「ああ・・・」
「ねえ、男爵・・・私はあの半森妖精を生きたままで解剖したいのよ。」
「ああ・・・聞いている。それにしても、君はあの混血の友ではないか?」
「そんな気味の悪いことを言わないでください、男爵・・・私は帝国のために生み出されたのよ・・・その敵となり得る薄汚い者どもの友になれるわけないの。」
黒髪の青い目をしていたこの女性鑑識官は帝国親衛隊(シュッツシュタッフェル )のために情報収集を行う部隊、鷲隊の覆面捜査官だった。
250年前、帝国は領土拡大のためにこの大陸の他の大国と戦争を行ったが、病の大流行で各国が疲弊し、勝敗をはっきりしないまま、10年で戦争が終結した。それからずっと冷戦状態が続いていた。
帝国を国内外の敵から守るため、断絶になった先代皇帝の一族が鷲隊を作った。
この部隊は帝国秘密国家警察にすら秘密だった。
男爵は230年前、偉大な魔導士で魔法科学の基礎を作った、カリゲリ博士と同じく偉大な哲学者で錬金術師のフェードリヘ・ニルチェーイの手により生み出された存在だった。
「君は生み出されて何年だ?」
「私は5年前に生み出されました・・・隊員番号は73番ですわ。」
「なるほど・・・君はまだ若い。」
「そうですわ・・・与えられた偽装身分のエンマー・ライヘットはごく普通の田舎商人の娘で苦労人を演じていますの・・・」
「確かに・・・」
リシュトフェン男爵は帝国が造った超人の第一号で完璧に最も近い存在だった。後に造られた鷲隊の数十名の者たちは彼に比べれば、簡易版、若しくは劣化版だった。
理由は単純明快だった、男爵の生みの親の二人は当時の皇帝の命により秘密を守るため、速やかに粛清された。彼らが残した研究を基に学者たちが引き継いだ。
「ねえ、あの二人を追跡していた帝国秘密国家警察の捜査員を葬ったの?」
エンマーは向かい合わせの席に座っていた3人目の人物に質問した。
「はい、簡単だった、普通の人は準備運動にすらならないからね。」
3人目の人物は答えた。
「あのヘイドリヘ大佐の顔が見てみたいわ・・・」
「そうですね・・・彼の5人の精鋭たちは20秒も持たないな。」
「20秒もかかった?・・・私なら10秒で片づけることができるのよ。」
「バカ言えよ・・・あいつらは一般人にして、少しはできる・・・かな?」
エンマーと3人目の人物は大声で笑った。
「君たち、静かにしたまえ。」
リシュトフェン男爵は穏やかに聞こえる声で命令した。
「失礼しました。」
2人は同時に答えた。
この3人は遺伝的に純粋なアーモニア人をベースに作られた人造人間だった。それに加えて、魔法適正、魔力増大、魔法攻撃力、魔法使用能力、肉体的限界、体に埋め込まれた賢者の石の破片により、復元や再生可能な不老不死に近い肉体を持っていた。
「それでは、逃げる2名を捕獲した後、情報を引き出し、葬る・・・彼らの手助けをしている人物・・・おそらく外国人だろう、もう含めて、跡形もなく葬る。」
「はい、男爵!!」
2人は同時に答えた。
「君の考えを聞かせてくれないか?・・67番のオーゴスター・シュミーツ隊員。」
「喜んで男爵・・・失礼、0番隊長。」
若い金髪碧眼の外見をした人造人間で警察内に潜入していたシュミーツは笑顔で答えた。
状況は深刻化していく・・・




