海
ふと、
タライを覗いている気になった。
広いのに、深いのに、遠いのに、
タライを覗いている気になった。
ゾットするほどに青い、蒼い、一つのタライ。
それは、恐くもあり、愉しくもあった。
水面は、
木綿を流したように、当てもなくたなびく。
チラチラチラ、と
乱射するひかりは、
生きた軌跡の秒送りのように、
あっけもなく、うつくしい。
海はただ、
途方もなく満ちては、
未練もなくはけていく。
わたしは、
絶望的なほどに、濃ゆい青に
目を焦がしていた。
ふと、やさしい気持ちになった。
なんにも知らないくせに、総てを知っている気になった。
タライは、やさしい脅威かもしれなかった。