銀月の再生
「あちゃぁ…やっちまったなボウズ」
「まさかここまで予想の斜め上をいくとはなぁ…
普通ならこうはならんぞ」
「で、ですよね…」
きっかけは単純な、本当に単純なアイデアからだった。
付与魔法といえば原則として『〇〇+△%』という形で対象に備わっている能力を何割か底上げする足し算である。
しかし、僕が幾度となく付与をする中で能力を下げる引き算が発生する例もある。
つまりは足し算式の付与魔法と、引き算式の付与魔法が存在するということであり、使い分けることができれば防御を上げつつ、重量を軽くするなんてこともできるはず。
その場合、掛け算や割り算ならどうなるのか?
その答えがこれだ
[木の棒(攻撃力×2)]
[木の盾(重量÷2)]
「にしても足し算以外でやれるもんなのかよ、付与魔法って」
「分からん。だが現にボウズにはできた。
これは新発見として喜んでもいいとは思うんだが…」
「こうも綺麗に成功してしまうと、とてもじゃないですけど刃はつけられませんね」
「振っただけで森が吹っ飛ぶ剣になりかねんぞ」
「そうだなぁ…もしこれが外部にバレれば、まずボウズは国の監視下に置かれるか、最悪…討伐対象だな」
「「ヒィッ!」」
「この事は誰にも口外すんなよボウズ!
特にっ お前のお母ちゃんには注意しろよ!」
「は、はいっ 墓場まで持って行きます!」
「私に何を秘密にするのかしらぁ〜?」
「「「出たぁぁあ!」」」
「あらぁ〜 人を化けて出たみたいに言わなくてもいいじゃな〜い」
「か,母さんっ!? どうしてここにっ!?」
「近くを通ったついでにクロスが物作りを学んでいるところを少し見て帰ろうと思って〜
そうしたらちょうど何か作ったところみたいだったから〜私の知的好奇心に負けちゃって〜勝手に入らせてもらったわせてもらったわぁ」
「そ、そうなんですね…」
「よかったら〜少し見せてくれないかしら〜」
(((見られたら絶対ダメなやつっ…‼︎!))))
「い、今はその…ご勘弁いただきたいタイミングと言いますか…」
「あら そうなの?」
「そうだぜ! こっから神経を研ぎ澄ませて作業するってのに、授業参観じゃあクロスの肩に余計な力が入っちまってうまくいかねーからよ」
「大丈夫よ〜 私、気配消すの得意なの〜
元からいないものとしてもらって構わないわ」
「今からするのはドワーフに伝わるとされる秘伝の技ですし…」
「秘伝の技っ! 私の知的好奇心をくすぐる未知なる世界!
そんなものに我が愛しの息子が取り組むとなるとより一層見ないわけにはいかないわ〜!」
「いや秘伝だっつったろ…」
「せっかく頑張ってるんだから〜途中も見ておきたいじゃな〜い」
「あまり見られたくねーんだよボウズは。
努力の過程とか、失敗するところとかな」
「どうして〜? 人間は失敗してこそ成長するものよ〜? 恥じることはないわよ〜」
(うわぁ…こりゃ重症だな)
(この状況を打開する方法は…)
(力づくで追い出してもらうか…いや、母さんの魔法は宮廷でも通用するくらいらしいし…)
「それとも〜、私に見せられない何かがそこにあるのかしら?」
ギクッ ×3
僕らの抵抗はむなしく、母さんにバレた。
「なんとなくで試したらできちゃった…と」
「はいぃ…」
「そう」
ゴクリッ… ×3
「すごいじゃな〜いっ!」
「「「…え?」」」
「付与に掛け算と割り算という考えももちろんだけど、それを実際にできちゃうなんて誰も出来ないことよ〜♡
ほら2人もそう思うでしょ〜?」
「お、おぅ…たしかに付与魔法でそんな例は聞いたことがない。 けどよ…」
「心配じゃねぇのか? せがれの将来とか、その…よその勢力争いとか…」
「あら〜そんなことこれっぽっちも心配してないわよ〜
この子の長所は親として嬉しいし、クロスが悪に染まることは今から鍛えて騎士団長かAランク冒険者と同格になるのと同じ確率だもの〜」
「ボウズ、コレ舐められてんのか信頼されてんのか、どっちだ?」
「一応…後者ですね」
「おまえさん、いつも大変だな」
「それと〜どこかの勢力がクロスに手を出そうものなら、私が消してあげるから安心なさ〜い」
「「「 物騒すぎるっ‼︎ 」」」
「ただし、工房と我が家以外での作業は控えること。それから武器などを作る際は一つ残らず私に報告しすること。いいわね?」
「え、あ…はい」
「よろしいっ。 それじゃあ、もうそろそろ行くわ。
夕飯までには帰ってきなさいね〜」
シ〜〜〜ン…
「助かった…のか?」
「多分…」
「口調が母親モードだったが『鈴蘭の交渉人』の覇気がモロに出てたな…」
「でも、収めるところに収めてくれた感じですね。」
「息子の安全と成長を守りつつ、活用できる時を静かに狙う…鈴蘭の交渉人おそるべしだな」
翌日
「ウォーターショット!」
「火球!」
「おりゃあ!」
「ほっ! よっ! このっ!」
家の庭先で兄さん達が父さんを的に魔法を撃ち、的役の父さんは木剣一本で魔法を打ち消す。
剣も魔法も父さんが体を張って練習に付き合うのがベンドリック家の教育方針で、週に一度行われる。
なんでも、固定された標的に当てることより動く標的を狙う癖を養うんだとか。
一方の僕はというと、攻撃魔法が使えるわけではないので、暇つぶしにアイテム袋でも作ってみることに。
床の上に裁縫道具を広げチョキチョキ、チマチマと手を動かす。
「異世界といったらまず必需品だよね」
錬金術は裁縫ができるほど万能ではないけど、袋くらいならなんとなくのイメージと僕の器用スキルでそれなりに作れるし、例え中の空間が東京ドーム何個分なんてことになっても、どこかのコンビ芸人も漫才の冒頭で『〇〇はナンボあってもええですからね』というように、あればあるだけ困ることがない。
「よしっ できた!」
ワクワクッ
「それじゃ早速…」
袋の中に手を入れてみる。
ふむふむ、腕を限界までつっこんでようやく奥に手が届くくらいか…
この袋は元々10センチの立方体が丸々入るくらいで、僕の腕の長さから逆算すると約50センチくらい。
ぱっと見の数値はたしかに5倍ではあるけど、立方体のまま広がったとして縦×横×高さで考えるから…
「体積は125倍ぃ⁉︎」
「「「「 ? 」」」」
「あ…ごめんなさい、失礼しました…」
そうか…この世界にはステータスに具体的な数値がない。
まぁ、あるのかもしれないけれどそれを把握する手立てはない。
僕が知る限り“あの人、攻撃力1800あるらしいよ”なんて会話は誰もしてないから、具体的な数値を見たければ鑑定のスキルを授かるか、物理学とか力学に詳しくならないと難しいのかも。
それより、今はこの掛け算だけ飛び抜けているカラクリの方が気になる…
「おーいっ なにムズカシイ顔してんだ」
「そうよそうよ まゆ毛の間にこ〜んなシワ作っちゃって、月末のパパみたいだわ」
いつの間にやら休憩時間になっていたようで、父兄たちに囲まれていた。
「おっ 何作ってんだ ちょっと見せてみろ」
「あ、ちょっと!」
大きな手に捕まった袋は、僕の小さな手からすり抜けた。
「アイテム袋か どれどれ…?
おぉ! 思ったよりデカいな!」
「ねぇねぇっ! わたしにも見せて!」
「オレが先だ!」
「はいはい、順番だよ。
ついでにボクも見せてもらおうかな」
回しで手を突っ込んでは「おーっ!」と反応してくれる。
袋を見たら誰でも手を入れたくなるのかな…
「領主様ーっ!!! 大変だーー!!」
声が聞こえた方を向くと、血相を変えた青年が走ってきていた。
「狩人のラウズじゃないか 一体どーした」
ハァ…ッ ハァ…ッ ハァ…ッ ハァ…ッ
「ま、魔獣が…とんでもない魔獣が出た!」
「魔獣? 種類は」
「カラスと鶏を足したみたいな、黒くてすんげぇデカい鳥だ!
畑と家が何軒か荒らされた!」
「…!!!」
父さんの顔が一気に青ざめるのが分かった。
別に魔獣が出るのは珍しい話ではない。
ギルドのないこの村では狩人や滞在している冒険者たちが獣を間引いているのだけれど、一定のランクを超えたものは父さんが出向いて討伐してる。
これまでゴブリンやオオカミの上位種の討伐に出たことはあったが、これほど顔色を変えたことは一度もない。
それにしても父さんが顔を強張らせるほどの黒くて大きくて、カラスとニワトリを合わせた鳥型魔獣って…
「コカトリス…か」
「アルフ兄、コカトリスって…?」
「爪や羽根に強力な毒を持っていて、個体にもよるけど脅威度はBランクを軽く超えてくる魔獣さ。
ベテランの冒険者でも獲物として一度見つかったらほとんどの場合助からない。」
「ちょっとまてよ! それってこの村が大ピンチってことじゃねーか!」
「この村はどうなっちゃうの?」
「問題ないさ。 そうだよね父さん」
「あぁ問題ない。 コカトリスなら昔戦ったことがある。 毒と羽根を飛ばす攻撃に気をつければ死ぬことはない。」
「でもパパは…!」
「安心しろ。 左手だけでもなんとかする。」
父さんの背中は逞しさと決意の奥底に感じたくない何かが見え隠れしていた。
「母さんには昼飯はいらないと伝えておいてくれ」
そう言い残した父さんはグッと腰を落として
「フンッ!!」
全身に強化魔法をかけ、青年が元来た方向へと跳躍して行った。
「パパ…大丈夫だよね…?」
「だ、だいじょーぶに決まってんだろっ
きっといつも通り昼メシまでには帰ってくるって!
だよなっ アルフ兄っ」
「……」
「アルフ兄…?」
「…っ ごめん、こういう時に長男のボクがしっかりしないと…あっ」
アルフ兄の目線が僕が持ってるアイテム袋、続いて僕の顔の順に流れる。
フフッ…
「な〜んだ、難しく考えなくてもいいじゃないか」
そしてその表情が変わる。
性格の悪い部分であり、今の僕たちにとって1番心強い、あの『ズルフ兄スマイル』に。
「みんな、ちょっと悪だくみする気はあるかい?」
「来るぞっ!」
コケァァァアアアアアアアアアーーーーッ!
漆黒の闇をも彷彿とさせる巨大な怪鳥は猛毒の吐息と、刃状に変化させた羽根を撒き散らしながら爪や嘴、翼を使って1人、また1人と人間を斬りつけ投げ飛ばす。
「くっ…! 放て!」
時に体を掠めながらも飛ばされる刃の群れを叩き落とすシルバスの命令を受けて、木の上で待機していた狩人2名が風属性を纏わせた矢を射る。
放った矢はそれぞれ翼と首元に突き刺さり、コカトリスの動揺を誘った。
「領主さま、今のうちに!」
「あぁ!」
正面に立ち、剣を構え直す。
コカトリスもそれに気付き、大ぶりに爪を振り下ろす。
「はぁぁぁあああっ!」
振り下ろされた爪を弾きつつ、その勢いを利用して懐に飛び込んで剣を突き立てようとしたそのとき…
グルグルルルルゥゥゥッ
「この音は…!」
喉を伝って何かが逆流する音を聞き、思わず顔を青くする。
「みんな逃げろ! 絶対攻撃に当たるな!」
シルバスも後ろに跳び退いて距離をとる。
「ぅぅ…」
「あ…あしが…」
「力が…はいらねぇ…」
チッ
「命には代えられんな…」
クゴォォォォオオオオオオッ
嘴から異音と鳴き声に乗って、匂いのキツイ液体がシルバスに向かって襲い掛かる。
「させるかっ 月弧!」
剣に魔力による闘気を纏わせて液体の軌道を大きく変える。
コカトリスも防がれると思っていなかったようで、大きな動揺を見せる。
「うおぉぉぉぉぉおおおお!!」
その瞬間を逃さず、コカトリスの胸部を斬りつける。
クケェェェェァァァァァァァァアアアアアア‼︎
ようやく目の前の人間だけを敵として認識した怪鳥は、液体を吐き出す。
咄嗟に右手で防ぐも、剣と右腕が石化し始めた。
「石化か…くっ」
背に腹はかえられぬと右腕を斬り落とし、剣を捨てることで石化の進行を止める。
その隙を見せたのがまずかった。
「グハぁアッ」
いかに騎士団1、2を争うほどの実力者といえどコカトリスが空気中に撒き散らし続けている毒や、戦いの間に受けた毒の攻撃の影響で意識が揺らぎ、なす術なく蹴り飛ばされた。
木に激突し、全身が軋む音を上げる。
「「領主さま!!」」
「「シルバス様!!」」
「シルバスさん!!」
クケァァアアアアア!!
「くっ…早く剣を…」
力も入らず、視界もぼやけ始めた、まさにそのときだった。
『「父さん! コレを!」』
(今…あいつらの声が聞こえたような…)
どこからか聞こえた声に意識を呼び戻され、無意識のうちに手探りで剣を探す。
「ん…? これは…!」
布でできた何か。
それが四男坊が作っていた不思議な袋であると気づいた時には、薄れていた意識は叩き起こされ、急いで袋の口に手を突っ込んでいた。
(なんでここにクロスのアイテム袋があるのか分からんが…考えている暇はないな…
回復薬…回復薬…あった)
親指で栓を抜き、便の中身を喉の奥に押し込む。
すると暖かい光が身体を包み、毒と全身の損傷を瞬く間に消し去り、気付けばさっき切り落とした右腕すら何事もなかったかのようにそこへ居座っていた。
「やっぱりすごかったんだな…クロスの才能」
ピョイッと飛び起き、改めて体に異常がないか確かめる。
クケァァァァァァアアアアアア!!
「だがどうする…利き手が戻ってきても丸腰じゃあどうしようもならん…。
何か…何か入っていないか!? ん?」
袋の中に回復薬とは別でまた別の袋が。
最初のアイテム袋と違い縦に長いが、これも言うまでも無くアイテム袋だ。
そしてその中には…
[鋼の剣 (付与:耐久+60%、魔力伝導率+80%)]
[付与油(効果:斬撃強化)]
[付与油(効果:状態異常耐性)]
「この剣はドワーフ兄弟から回復薬の礼にってクロスが受け取ったやつだったな。
そこに付与油を添えるとは…アルフレッドの先が思いやられる。 だが、」
グッ…
「ありがたく使わせてもらうぞ…お前たち」
クケェェァアアアアアア!!
「あぁ分かってるよ。 お前の相手はオレだ。
お前のおかげで直らないと思ってたものが治ったしな、“全力で”相手してやる」
今まで無理やり軸にしていた左手を右手に握り替え、小瓶2つを空中で横一閃に斬り割って付与油を刀身に浴びせる。
数刻の静寂の後、一本の木が倒れる音をきっかけに両者が動き出す。
「…っ!!」
コケァァァァァァアアアアアア!!
初撃が早かったのはコカトリス。羽根を大きく広げて目を見開く。すると羽の一本一本が刃に化し、一斉にシルバス目掛けて打ち出される。
ところが次の瞬間、打ち出された羽は地面に落ちていた。
「そんな子供騙し、"今のオレに"通用すると思うか」
人語のわからないコカトリスもここでようやく理解した。 もう己には目の前の小さな生き物に殺される未来しかないと。
ヒヤっ…
(あっぶねぇ…! ちょっと剣を振っただけであの攻撃を撃ち落とすとか、フルパワーだったらどうなってたことか…!)
「いろいろ大惨事になりかねんし、さっさと決めようか」
目を閉じ、剣を構える。
再度眼を開いたと同時に踏み込んで正面から斬り込む。
付与に付与で重ねてドーピングされた刃はまるで、プリンを斬るかのように無抵抗で通り過ぎ、シルバス本人が気づく頃にはコカトリスの頭の先から脚をも超え、地面が数十メート先に渡って一刀両断されていた。
ふぅ…
「討伐…完了…!」
「勝った…勝ったぞ!」
「や…やった!」
「領主様の勝ちだーー!」
「さすがはシルバス様ーー!」
狩人たちは口々に喜びの声や賛美の声を上げる。
ただ当の本人はその声を聞く暇もなく倒れている者達の所へ走り、アイテム袋から回復薬の入った瓶を次から次へと取り出しては開けていく。
「領主…さま…」
「分かるか?」
「や、ヤツは…」
「倒せたぞ。 みんなのおかげでな」
「よかった…」
回復薬の効能が体全体に広がり、体を起こせるよになったのを見届け、立ち上がって仲間たちの方へ振り返る。
「よし、動ける者は手を貸せ! そこで寝てる奴らを回復薬で叩き起こして、さっさと撤収するぞ!」
「「「「「 おうっ!! 」」」」」
その夜…
「ま、オレに分かるのはこんなところだな。」
「そう。 まさかあなたの右手が戻ってくるタイミングがあの土壇場になるなんてね」
「その感じ、母さんも読んでたんだね。
クロスなら父さんの腕を治せるって」
「当然よ。 でももっと先になると思ってたわ。
あの腕はもう処置自体は済んでいるから怪我ではなく後遺症。 通常なら回復薬一本で治るはずがないもの。」
「後遺症ごと腕を切り落としたから、回復薬で元通りってことだね。」
「あぁ。利き手に関しちゃ、どんだけ鍛えようと限界はあるからな。
それにしてもアルフレッド、家にいたはずのお前たちがどうやってあの場にアイテム袋を届けられたんだ?」
「どうって言われても、アイテム袋の口を紐で縛って紐の先に石をくくりつけて普通に投げただけだよ。」
「お…お前そんなパワーあったっけか…?」
「そんな訳ないでしょ。 付与をして限界まで飛距離を引き伸ばしたのよ」
「まぁ石は付与限界を超えた負荷が掛かってたから、父さんの元に届いたと同時に弾け飛んだみたいだね。」
「もしかしてあの時の衝撃ってそのせいだったりするか…?」
「とにかく、犠牲なしにコカトリスを討伐できたのはこれ以上ないほどの収穫ね」
「あぁ。 ほんとクロスには助けられてばかりだよな。
親として誇らしくもあり、情けなくもある。」
「そう思うなら、少しは見返りがあってもいいんじゃないかな ボク達、子供達に」
「ったくお前というやつは…
だが仕方ねぇ。 あんま期待するなよ」
フッ
「とびっきりのを期待してるね」
アルフレッドは立ち上がり、部屋を出る。
残された2人は歯がゆい苦笑いを漏らすしかなかった。
「貴方がお小遣い交渉に応じるなんて、ずいぶんと大きく出たわね〜」
「今年はあいつらのおかげで村には余裕ができたしな、子供だからといってここまでの功績に報酬がないのは面目がたたん。」
「そうね〜、でもあの子たちに現金を渡すのもどうなのかしら〜…」
「た、確かに…この村のほとんどは物々交換の方が多いもんな…取引のほとんどが食料品ばっかだし。
いっそ近くの街まで連れてってみるか?」
「それもいいわね〜 私もご相伴に預かっちゃおうかしら〜?」
「お前は大人だろ…」
ニタッ
「何か言った?」
「か、買わせていただきます」
「やった♡」
ガチャッ
「それじゃあ貴方、予定はこっちで立てておくわ。
先に休むわね〜、おやすみなさ〜い」
ハァ…
「何年たってもフローラの口調の緩急は慣れないな…」
窓から冷たい銀色の光を差し込む三日月をみて、昔の記憶を辿る。
「あいつ…どうしてるかな」