始まりのクラフター
初めましての方は初めまして!
お馴染みの方はお久しぶりです!
連載中の2作品のキリが良くなったので、3作品目の連載始めてみました。
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ピッ…ピッ…ツーーーーーーーーーー…
微かな心電図の音が、俺が覚えてる最後の記憶だった。
俺の身体を蝕み続けた病気は俺の生命に容赦なく幕を下ろした。
あぁ…俺の人生って一体なんだったのだろうか
一度でいいから、友達と駄菓子屋に行ったり、映画を見に行ったり、ゲームセンターも行ってみたかったなぁ…
もっと…生きたかったなぁ…
ぱちっ…
「ふげ…」
「クロスが起きた!」
重たいまぶたを開けると目の前に少年少女がこちらをマジマジと見つめて何か言っていた。
「こらキッド、そんな大声出したらこの子がびっくりしちゃうわ」
誰だこの子ども達は?
ちょっ…! 人の顔をツンツンすな!
コラッ 勝手に持ち上げるんじゃない!
「ビックリさせてごめんね〜? クロスエイド〜」
「ソラ姉ずるいっ オレも抱っこさせろよー!」
「よしよしいい子さんねぇ、まるで天使のようだわぁ」
ふと部屋の隅に置いてある化粧鏡を見ると、2人の子供と、その中に収まっている赤ちゃんが。
鏡から視線を戻すが、俺を抱く女の子とその弟と思わしき少年。
だが赤ちゃん? 赤ちゃんなんて一体どこに…
「ふんにぇ…」
なんだこの両腕から生えたクリームパンは!?
まさか俺の手!? ってことはもしかして
俺…赤ちゃんになってるぅぅーーーーー!?
「オギャぁッ オギャァッ オギャァッ」
「ど、どうしたのかな? お腹がすいたのかなぁ、それともオシッコかなぁ」
「オレ、ママ呼んでくる!」
俺の名はクロスエイド・ベンドリック、とある貧乏田舎貴族の三男らしい。
「おークロス! 起きていたのか〜」
この人は父親のシルバス・ベンドリック。
ベンドリック家の領主で、剣の猛者(自称)。
見たところ運動終わりのようだ。
「またちょっと大きくなったか〜?」
「ダメ!」
「なんだよソラ パパにも抱っこさせ…」
「汗だくのままクロスに触らないでって言ってるでしょ!
またママに言うよ!」
性格についてはいわゆる昭和生まれの体育会系なのだが…この話は後にしよう
「わ、分かったからそんな怒るなよ…
汗を洗い流してくる…」
ショボン…
汗まみれの父親から守ってくれたこの子は長女のソラ・ベンドリック
おてんばで、亭主関白が当たり前のこの世界で、俺のことに関しては牙でもヤイバでも向けちゃう心強い姉だ
「ソラ〜 お父さんに乱暴な口聞いちゃダメよ〜」
「だってパパが汗まみれ土まみれのまま、クロスを抱っこしようとしてたんだもんっ」
「なるほど、そう言うことなら仕方ないわね」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「あ〜な〜た〜っ」
「ヒィッ!?」
「クロスエイドに触る時は最低でも手洗いうがい!
運動した後ならば尚のこと清潔な状態になってからにしてっていつも言ってるわよねぇ!」
「すみませぇぇぇぇん!」
「罰として、しばらく小遣い減額です!」
「そんなぁぁ! まだ触ってないから問題ないだろ!
小遣い減額はあんまりだ!」
「問答無用!未遂でも犯した罪としっかり向き合いなさい!」
「フローラ様ぁっ ご勘弁をーーっ」
母親のフローラ・ベンドリック
才色兼備の優しい母で、ベンドリック家の影のボスだ。 普段はおっとりしているが、怒らせたり仕事の話になると…控えめに言って性格が変わる。
先ほど母親を呼びに飛び出していったのは次男のキッド・ベンドリック。
ちょっぴりお調子者だが、困った時に母や必要な人を呼んできてくれる頼れる兄だ
「アルフ兄はやく! 父上がママに食べられちゃう!」
「はいはい、心配しなくてもママは人間を食べることはないよ」
キッドに腕を引かれて部屋に入ってきたのは長男のアルフレッド・ベンドリック。
少しマイペースだが温厚で面倒見が良いお兄ちゃんだ。
「お腹が空いてるのかしら? それともおネムかな? 匂いはしないからオムツ替えではないようね〜」
「ほ〜ら 寝起きにキッドが大気な声出すから泣いたのよきっと」
「オレのせいにすんなよ! ソラ姉だって無理に抱っこしたんじゃねーの!?」
「2人とも、クロスが泣いたのは別の理由だろうし、意味のない姉弟喧嘩しないよ」
「も、もしかしてオレに抱っこして欲しいとか」
「あ〜な〜た〜?」
「すみません…体洗ってきます トホホ…」
どうやらこの家は『かかあ天下』というやつらしい。
父親 シルバス
母親 フローラ
長男 アルフレッド(愛称:アルフ)
長女 ソラ
次男 キッド
三男 クロスエイド(愛称:クロス)
表向きはこう。 でも実際は
母親 フローラ
長男 アルフレッド(愛称:アルフ)
長女 ソラ
次男 キッド
三男 クロスエイド(愛称:クロス)
父親 シルバス
もしくは
母親 フローラ
三男 クロスエイド(愛称:クロス)
長男 アルフレッド(愛称:アルフ)
長女 ソラ
次男 キッド
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父親 シルバス
こうだ。
貴族といってもウチは下級貴族にあたる子爵家。
男爵家や子爵家は世襲制ではなく、代ごとに国王から爵位をもらって代替わりが可能となる。
詰まるところ、契約更新制度のある派遣社員の貴族バージョンであり、治める領地も大きな街や都の中継地にあるような宿場町がいい方で、下っ端貴族は農村や漁村の領主といったところだ。
ベンドリック家が治めるベジッタ村も例外でなく、人口500人いるかどうかの小さい農村の領主で、不作でも起きようものなら経営破綻してもおかしくない。
「なんだと!?」
「我々も最善を尽くしていますが…力及びそうにありません…」
「くっ…恐れていたことが起こってしまったか…」
「今年は気候の変化で、近場の村でも同様の被害が出ると聞いています。
今年はこの村の食糧だけで手一杯でしょう…」
今にも耳を塞ぎたくなる話をただ聞くことしかできず、帰りゆく農家の代表の背中も引き止められないほど、状況は深刻だった。
「失礼します…」
キィ…パタン…
くっ…
「なんということだ…!
まさか害虫の異常発生で作物の半分がやられるかもしれないだなんて…
このままではこの村は終わりだ…」
「父さん」
「アルフレッド…」
「話は聞いたよ。 かなり多いみたいだね、アブラムシ」
「あぁ。 昨年の3倍かそれ以上らしい。
すでに被害は出始めていて、収穫期に3分の1も採れないかもしれない。」
「あ、あのさぁ、父さん」
「アルフレッド…無理にオレの跡を継ごうとしなくてもいいんだぞ」
「悲観してるところに悪いけど、そのことなら多分大丈夫だと思うよ。」
「へ?」
「クロスがソラとキッドを連れて、今朝から動いてるみたいだから」
「クロス達が? フンっまさかな…
子供にできるなら、もうとっくに大人で手が打ててるだろ」
「分かってないなぁ 父さんは」
ニコッ
「できるよ、クロスなら。
少なくとも、父さんがここで頭を抱えてるより効果的だよ。 何十倍もね」
全てを知ったりといった兄の顔は一点の曇りもなく、窓越しに妹弟たちが向かったてあろう畑を眺めていた。
「トウガラシ、ニンニク、コーヒーの殻とその他もろもろを…」
ゴリゴリゴリ…
「すり鉢ですりつぶす」
数分後
「途中で生姜を入れて、もう一度。とにかくすりつぶす」
数分後
「水とお酢、お酒を入れて、これを火にかける…」
グツグツ…
「よく煮たら布で濾して、冷まします」
液体を竹筒で作った霧吹きに込め、早速アブラムシのいる植物の茎に吹き付ける。
シュっ シュッ シュッ
「おっ 逃げてる!」
頑として立ち退かなかった害虫達が一目散に逃げ惑い始めた。
「クロスエイド坊ちゃん! この不思議な液体はいったい何なんですか!?」
「無農薬農薬といい、一切薬剤を使わない農薬です。
効果はいま見た通り、使っている物も全て自然由来の食材ばかりなので作物に害はありません。
これでまずは明日まで様子を見ましょう。
ここで効果があれば他の畑でも使えるよう僕から父上に手配してもらいます。」
「ありがてぇ! みんな! もしかしたらこの村は被害を受けずに済むかもしれんぞ!」
「クロスエイド様! その農薬、明日と言わずに、すぐウチでも試させてください!」
「ウチが先だ! もうすでにあのクソ虫に食い荒らされつつあるんだぞ!」
「それはオレんとこもだ!」
「よかった…今年も飢えずに冬が越せるのね…」
「お、おいどうするよクロス、いま使った材料って…」
「キッチンから持ってきたやつだよね…後でバレたらすごい怒られるんじゃあ…」
「大丈夫ですよ。 許可はもらってありますから」
「ね〜クロス〜♡」
「お母様!?」 「母さん!?」
「クロスに『おねがい♡ ママ♡』なんて言われたら許可しないわけにはいかないわぁ〜♡」
ちゃんと抜かりなく買収してありますとも。
ここで試す前に自由研究と称して、ベンドリック家の庭木で実験し、前もって信頼と安全性を証明した上で、ちょっぴりウルウル上目遣いでお願いするのがミソなんだ。
「それよりも、クロスエイド」
愛称のクロスではなく総称であるクロスエイドで呼び、頭に花でも咲いていないか心配になるほどの猫なで声がグッと低くなる。
「貴方が作ったこの薬剤のこと、いま一度説明してくれるかしら」
仕事とプライベートでキャラが180度変わるタイプの母さんが私情抜きで無農薬農薬の有用性を確信したようだ。
なんせあの某バンド系アイドルが農業や無人島の開拓をする某番組で放送直後話題になった名品だ。
『仕事の出来る人』である母さんがみすみす逃すはずがない。
「は、はい これは薬剤を使わない農薬で、虫が嫌がる匂いを作物に吹き付けておくことで害虫が寄り付かないようにするものですっ
材料については今朝説明したモノを使ってまして…牛乳はこの村で手に入りにくいので今回は使ってませんが…」
「そう、分かったわ」
家にいる時と完全に目つきが違うから、俺を含めみんな苦手なんだよなぁ…
「牛乳が手に入ればより確実なものとなるのね」
「はい…僕もたまたま知ってただけで作るのは初めてですが…」
「そうねぇ」
顔の横に指を起き、掛けてないメガネを上げる仕草をする。
仕事モードの母さんが集中する時に出る癖らしい。
「私の実家のツテをあたりましょう。
1週間ほどあれば手配ができるわ。」
「おぉ!」
「やったな!」
「1週間持ち堪えればなんとかなるってよ!」
「鈴蘭の交渉人フローラ様の復活だぁ!」
鈴蘭の交渉人というのは母さんが王都にいた頃の二つ名で、普段はおっとりした美女が舐めてかかってくる取引相手に容赦ない仕事をする様子を、綺麗な花に反して死に至る可能性がある毒を持つ鈴蘭に例えて付けられたんだとか。
「クロスエイド、ちょっと」
「はい」
「この薬剤、効果はどれだけ続くのかしら」
「そ、それは…」
「ふふふっ やってみないと分からないわよね。
なら質問を変えるわ。 1週間で薬の材料は手配するけれど、それまではこの村にある材料で被害を抑えたいの。
どうにかならないかしら?」
「そうですね…ギリギリまで薄めたり手に入れやすい材料をメインに作れるだけ作りますが、村全体でどれだけ必要かが分かりません。
それから噴霧器の性能もイマイチで…」
「全体の必要量の把握と、噴霧器の改良ね
となると流石にクロスだけでは手が足りないわ。ソラ、キッド」
「「は、はいっ!」」
「貴方たちに重要な役目を任せます。
ソラはクロスの補佐を、キッドは私や周りの大人への連絡係をしてちょうだい。」
「「はい!」」
子供たちの目を見て少しだけ母の微笑みを見せた母さんは続け様に村のみんなに向き直る。
「この薬にはこの村の未来が掛かっています。
子供の作った物だからと使用に反対の者はいるかしら」
「いいえ大賛成です!」
「すぐにでも取り掛かろうぜ!」
「オレたちにできることがあったらなんでも言ってくだせぇ!」
「なんでも協力します!」
「あ…あの!」
「お、おいお前! まさか反対なんていうんじゃねーだろうな」
「いや違うんだ!オレも使うことには賛成してる!
ただ、今晩から大雨が降るっておばぁが言ってまして…今すぐ撒いても雨が降ったらせっかくの薬が流れちゃうんじゃないかって」
「なるほど、この村においておばあちゃんの知恵袋は馬鹿に出来ないわ」
「母さま、わたしも1日か2日遅らせるべきだと思う。
今日明日じゃ準備は間に合わないし、なにより取り合いになっちゃうんじゃないかな」
「たしかにソラの言う通りね。
貴重な意見をくれてありがとう」
「いえ…」
「散布は今日と明日の天気を見て再度伝達します。
今できる準備に早速取り掛かりましょう!
皆でこの村の危機を乗り越えるのです!」
『 「「「「 はいっ! 」」」」 』
「頼みましたよ、あなた達」
「みんな調子はどう?」
「あれ? アルフ兄も呼ばれたの?」
「たしか剣の稽古の時間じゃねーの?」
「3人が頑張ってるってのに呑気に剣の稽古なんかしてられないさ。
それに…」
ところ変わってベンドリック家の執務室
机を埋め尽くす書類の山に開いた口が塞がらない。
「なぁ…ちょっと多くないか?」
「何言ってるのかしら? あの子達のおかげで今年の収穫の被害が最小限に収まるのだからこれでも少ないくらいよ。
他の農村で同様の被害があるということは、この国全土で野菜が不足するということ。
それを何とかするために、国か貴族、ギルドがここ、ベジッタ村に目をつけ野菜を買い叩く可能性はかなり高い。
下手すれば徴発(※)ね。」
「徴発!? 戦争中でもないのにそんな強引な手段は先代国王陛下の意向で禁じられているはずでは!」
徴発=強制的に人や物、金を取り上げること
「貴族やギルドの権力で野菜の売却を強要するのだから、代金を払うかどうかの違いだけで徴発と大差ないわ。
それに…クロスが考案者だと知られるのも時間の問題ね。許嫁や養子にするために、いよいよ手段を選ばないわ。
あの子の意思を尊重するために今打てる手を打つのよ」
「分かったら喋ってないで手を動かしなさい!
終わるまで寝かさないわよ!!」
「ヒィィッ!?」
「ってわけで、手伝わされそうだから逃げてきた。
だからボクも仲間に入れてくれるかい?」
「アルフ兄はズル賢いよなぁ」
「どーする?クロス」
「もちろんオーケーです! ちょうど手が足りないことがいくつかありまして!」
「おっと困ったなぁ…おこぼれを拾うつもりが、忙しくなりそうだ。何からすればいい?」
村一丸となって取り組むこと半年、無事に収穫期を迎えるのだった。
「見ろよクロス坊ちゃん! この村で一度も見たことないほどの大豊作ですぜ!」
「ウチもだ! 豊作すぎて蔵に入りきらねぇっ」
「これもクロス坊ちゃんのおかげだ! 心から感謝してるぜ!」
「「「野菜持って行きな!」」」
フンフン♪ フフ〜ン♫
「いやぁ〜 たくさん貰っちゃったなぁ〜
ただいま帰りましたー」
「おせーぞクロス! 早く準備しないと遅れるぞ!」
「え?」
「やっぱ忘れてんじゃねーか、今日は7歳の洗礼を受けに行く日だって前々から言われてただろ。
母さんイラつきはじめてんぞ」
「あー!! マズイ! 2秒で着替えないと母さんが暴走モードになっちゃう!」
ドタバタドタバタッ!
「走りながら着替えるぞ! 服脱いで」
テキパキッ
「はいシャツに腕通して!」
テキパキっ スポッ
「ジャンプして! ズボンOK!」
テキパキッ
「ジャケット着て!」
テキパキッ
「ネクタイして襟も正してはい完成!」
「ありがとうアルフ兄、ソラ姉!」
「間に合ったぁ…」
兄姉たちの手引きにより、なんとか定刻通りに教会に辿り着くことができた。
今日は日本で言うところの成人の日と子どもの日を足して2で割ったような大切な日。
国の各所に置かれた教会に7歳になる子供たちを集め、神様からスキルを授かるんだとか。
魔法や剣術といった戦闘型のスキルもあれば、交渉術や経営術といった商人に特化したスキルなど、ピンからキリまである。
ちなみに父さんは剣術と槍術といくつか身体強化系のスキル
母さんは草木を操る魔法と交渉術と高速演算
アルフ兄は火属性魔法と剣術と観察眼
ソラ姉は水属性魔法と風属性魔法
キッド兄は雷属性魔法と体力系のスキルを持ってるらしい。
「さ、行っておいで」
「クロスなら絶対いいスキルをもらえるわ」
「トチってヘンテコなスキルにならねーようにな」
兄姉たちに背中を押され、洗礼の間へ。
「よろしくお願いします。」
「では水晶の前にきなさい。」
ステンドグラスによって赤や緑や青と鮮やかな光に照らされた水晶の前に立つ。
「水晶に触れ、君が将来どうありたいのかを強く念じなさい。
私の祝詞が終わると神々から祝福を賜ることができます。」
「この世を創造し見守りし神々よ、ここにおりますクロスエイド・ベンドリックが無事に7歳を迎えられたことをご報告いたします。
どうかこの者に祝福を授けたまえ。」
すると水晶が光を放ち、温かい何かが水晶から腕を通って体の奥底…魂に刻み込まれた。
「無事に洗礼は完了しました。
祝福を授けた神々に感謝し、これからの長い人生をより良いものになるよう精進しなさい。」
「はい。 ありがとうございました」
こうして、この世界で生き抜くためのスキルを得た僕は明るい明日を楽しみに家路についた。
のだが…
[錬金術][付与魔法][器用]
「んー…」
「まぁ…」
「そうだね…」
「そうね…」
「なんつーか…」
『「 ビミョー… 」』
「何そのリアクション!? 褒めるか貶すかどっちかにしてよ!」
「そう言われても…なぁ」
「兄姉達が火、水、風、雷と来てるから、てっきり回復魔法か何かだとばかり…」
「戦いに使えるスキルはないとは思ってたけど、こういうのはさすがに予想外というか…レアケースだよね…」
「で、でも、畑のおくすりを作ったクロスらしいわよっ!」
「そ、そうだぞクロス!なんかあってもオレとアルフ兄が守ってやるからじんせーをあきらめんじゃねーぞっ!」
ウルウル…
「遠回しに慰めないで…」
これは後から知ることになるが、親のスキルは子供に影響しやすい。
戦闘系のスキルといくつか強化系のスキルを持つ戦士の父、魔法スキルと交渉術と演算スキルを持つ王都の元官僚の母。
その間に生まれたアルフ兄、ソラ姉、キッド兄まではもれなく両親の影響をいい感じに受け継いでいる。
しかしそれも絶対というわけではなく、右利きの両親から左利きの子供が生まれるくらいの割合で例外も発生する。
ベンドリック家では僕というわけ。
あ、ちなみに俺は拾い子でも養子でも、愛人や亡くなった叔父叔母の子とかでもない、正真正銘2人の末っ子だ。
だからこそ、異世界漫画だと親不孝者と罵倒され追放されるのが定番であるがベンドリック家の場合は…
『「 これはこれでアリか、クロスだし 」』
ほんと、愛に満ちた家庭の末っ子でよかったと神に感謝しています。
翌日
「それじゃあ何ができるのか早速試してみようか」
「はい」
激務に追われる両親に代わり、長男のアルフ兄、ソラ姉、キッド兄が実験に付き合ってくれることに。
「まずは錬金術ですね」
あらかじめ集めておいた落ち葉の山から落ちて間もない青い葉を20枚選び出し、それを1箇所に集めて体内に流れる魔力の流れを意識する。
「錬成!」
魔法陣が生成され、落ち葉×20がサークルの中心に吸い込まれる。
チーンっ!
「出来た! …って、あれ?」
オーブントースターを彷彿させる効果音と共に完成品として現れたのは粗末な繊維の塊だった…
「な…なにこれ…」
「はははっ 最初だったらみんなこんなものさ。
ボクも最初はちょっと煙が出ただけだったな」
「わたしも雫がポタポタっと落ちたくらいよ」
「オレなんて静電気でバチっだぜ?あん時は痛かったぁ…」
「何回かやって慣れれば、クロスもちゃんと使えるようになるよ。もう一回やってみな。」
「やってみます。 錬成!」
「錬成!」
「まだまだ切れ端だな」
「もう一回いきます」
「錬成!」
「さっきより大きくなったけど」
「メモ用紙としても厳しいかな」
「錬成!」
「大きさはいい感じだけど」
「文字を書くにはゴワゴワするかな」
「錬成!」
「なんかコゲてね?」
「失敗です。 もう一回!」
そして…挑戦すること数十回
「どうですか」
「うん、これなら何枚かセットで売れば銀貨も狙えるんじゃないかな」
「すげぇ! まだ1時間もたってねーのに金になるモンが作れるなんて思わなかったぜ!」
「やっぱりクロスにはピッタリのスキルだったのよ! 信じて正解だったわね」
「そうだ、これだけ質のいい紙が作れるなら、母さんに作ってあげたらきっと喜ぶと思うよ。」
「え、なんで?」
「仕事に使うからさ。 書類の作成はもちろん、ペンの試し書きや計算用紙、小さく切ってメモ用紙に使うもありだけど、紙を作る技術のないこの村は外から量を確保しようと思うとそれなりに出費がかさむ。
外に出す書類を変えるといろいろマズイだろうけど、メモ用紙や村の回覧板に使う紙なら充分役に立つし、紙に使うお金をクロスの錬金術で賄えば、その分のお金を他のところに充てれる。
ボクたちのお小遣い…とかね。」
「『達』ってつけるあたりは恨めないけど、やっぱりアルフ兄はズル賢いわね」
「ズルフ兄め」
「ちょっと!? 変なあだ名つけないで欲しいなぁっ」
「やーいズルフ兄〜っ」
「あははっ ズルフ兄〜」
「2人ともそんなあだ名をつけたらかわいそうですよ。 ね、ズルフ兄」
「そんなぁ! クロスまで!?」
楽しく練習するとどこまでもいけちゃうもので、その後も小石を集めて石レンガ、枝を炭にして鉛筆の芯を作ったり…ワイワイ楽しく錬金術を試していった。
「付与魔法も試そうぜ!」
「そうね。 錬金術がこれだけ役に立つのなら、付与魔法もきっとすごいわ!」
「それならせっかくだし、今作った紙で試してみよう。
失敗しても被害は少ないだろうからね。」
「やってみます」
石のレンガを並べただけの粗末な台に紙を一枚おく。
要領は錬金術とほとんど同じで…
「魔法付与!」
[紙 (付与:耐久 +10%)]
「えーっと…今のはどっちなんだ?」
「耐久上昇ってついてるんで、成功したと思います」
「ホントに成功か? 見た感じは何も変わってねーぞ?」
「たしかに見た目は変わってませんが、元の紙よりすこし頑丈になってるみたいです」
「ほーん…」
「ちょっと分かりにくいわね。」
「そりゃ紙だから一枚で実感するのは難しいと思うよ。 同じものを何枚か作ってやぶってみれば分かるんじゃないかな」
「そうだな! クロス!この紙いっぱい作ってくれ!」
「エンチャント!」
[紙 (攻撃力 +10%)]
「エンチャント!」
[紙 (重量 −10%)]
「エンチャント!」
[紙 (熱耐性 +10%)]
「エンチャント!」
[紙 (燃焼効率 +10%)]
「何だよバラバラじゃねーか」
「文句言わないの! そもそも初めてで成功してる時点でとってもすごいことなんだからっ」
「べ、別に文句なんか言ってねーだろ! オレはただっ」
「はいはい、ケンカしないっ
ともかく付与魔法はランダムなのか、クロスが慣れてないだけなのか…こればっかりは長期的に統計をとるしかないね」
この後も夕飯ギリギリまで紙やレンガで実験を重ねたが、結局この日は法則性は見れなかった。
「まぁ♡私のために作ってくれたの〜?
とっっても嬉しいわぁ〜〜♡♡」
「よくできてるなぁ…これ、クロスが作ったのか?」
「そうだぜ! ま、オレたちも特訓につきあったんだけどなっ」
「キッドは文句言ってただけじゃない」
「んだとぉっ ソラ姉だっておだててただけだろうがっ」
「褒めないとやる気は出ないのよ!」
「ダメなとこを片っ端から直してった方が早いだろ!」
「なによ!」
「なんだよ!」
「まーた始まった…」
翌日
付与魔法の壁にぶつかった僕は、気分転換にと散歩に出ていた。
「あれっ クロスエイド坊ちゃんじゃねーか」
「あっ こんにちは」
「元気か?って、どうしたよそんな顔して」
「いや〜…ちょっと行き詰まっていまして気分転換がしたくて散歩してたんです」
「そうかそうか、そいつは難儀なこった。
どうだ、ウチで茶でも飲んでくか? おばぁが揚げ芋作ってんだ」
「いいんですか!?」
「おうよ」
村の子供はどこにいても可愛がってもらえる。
元々この世界では医療はまともなものがなく、出生率の割に成人まで生きていられる子供が多くない。
この村は街から離れているため、病気になってしまえば薬が手に入らず亡くなってしまうことが多いという。
だから子供は宝だ、とみんなで大切に見守っているんだ。
ズズズズ… パクッ
「美味しいですねコレ!」
「口に合ったようでなによりだわぁ
よかったら持って帰りな、たくさん作ったからねぇ」
茶の間にふさわしい穏やかな時間が流れていた。
バタバタバタっ
「爺さん! 大変だ!」
「どうしたどうしたぁ そんなデッケぇ声だして」
「村の裏山に魔獣が出て!カイデンとテッカンが襲われた!」
「なんだと!? おばぁ! 薬を!」
「はいはい、ちょいと待ってな」
薬を入れた壺を取り出すべく、戸棚を開けると戸棚からネズミが2匹飛び出た。
「ヒャッ!」
ガシャァンッ!
「大丈夫か!」
「どうしましょ爺さん…薬が」
「そんな…!」
「薬がないと2人が…」
割れた壺から流れ出た薬を呆然と眺めていると、以前このお家にお邪魔した時のことを思い出す。
必要な薬草と、具体的な作成方法なら覚えている。
「僕がなんとかしますっ!」
「「「 !!! 」」」
「必要な道具と材料を用意してもらえますか」
数分後…
「う、嘘でしょ…」
[回復薬 (効率強化+1000%)]
「なんだこの回復薬! すんげぇ輝いてやがる!」
「こ、これはマグレでして…」
「マグレなんてもんでこうはならないよっ
こんな魔法薬…あたしゃ見たことない!」
「よっしゃ! ちょっと行ってくらぁ!」
「気をつけていってくるんだよぉ」
「ボウズの回復薬のおかげで助かった! 本当にありがとなぁ!」
「コレ、回復薬のお礼に。 オレらの最高傑作なんだ」
[鋼の剣 (耐久+60%、魔力伝導率+80%)]
「こんな名品っ お気持ちだけで結構ですって」
「受け取ってくれ! オレら2人とも確実に致命傷だった、だがボウズの回復薬のおかげで今こうして生きてらぁ!」
「生きているならもう一度この剣を打てるかもしれないが、あの場で死んじまってたらそれまでだ。
これから初心に帰るためにもこの剣を受け取って欲しいんだ。」
「わ、分かりました。ありがたく頂戴します。
大切にします。」
「おうっ! 是非とも役立ててくれ!」
改めて剣を端から端まで眺める。
シンプルな造りの両面刃に、合計して140%性能増し。
もしかしたら…
「あのっ 厚かましいと思うのですが、1つ大事なお願いをしてもよろしいでしょうか!」
「おっ おう…」
「オレ達にできることがるならなんでもやるぜ!」
「僕を…弟子にしてください!!」
「「え…」」
「「えぇぇーーーーーーーーーーっ!?」」
こうして僕、クロスエイド・ベンドリックのこの上なく恵まれた異世界生活が幕を開けたのである。
『見よう見まねで生産チート』
『カートデッキの召喚士〜異世界でサイコーの絆を繋ぐ運命のカード〜』
の2作品も次の章の構想ができ次第ゆったり投稿できればと思っておりますので、興味のある方は是非チェックしてみてください。
『見よう見まねで生産チート』の方はアルファポリスの方に所々改定して投稿してますので、そちらでチェックしていただけると助かります。