1.不穏な始まり
お久しぶりの死霊術師です。今回は四話構成になります。
ソロの斥候職なんて因果な商売やってるとな、依頼の選り好みなんてできゃしねぇのよ。おかしな依頼でも贅沢言わずに受けなきゃなんねぇ。
そういった依頼の中にゃ、一体何がどうなったってのか、とんと判らねぇもんもあんのよ。何が何だか知らねぇうちに「依頼完了」ってなっちまった、あん時の話みてぇにな。
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「蜘蛛の館が火事になった? ……何のこってす?」
冒険者ギルドへ顔を出した途端に、指名依頼だって領兵本部へ引っ張られてよ。そこでいきなりこんな事を言われちゃお前、面喰らうのも道理だろうがよ。
「蜘蛛男爵……そう呼ばれる人物の事を聞いた事は無いか?」
「熊男爵?」
「蜘蛛男爵――だ」
熊公みてぇに毛深い貴族の事かと思ったら、熊じゃねぇ、蜘蛛だって訂正されたんだが……ちょいと待てよ……?
「……ひょっとしてアレですかぃ? 人っ子一人いねぇ古城の中に閉じ籠もって、アラクネと添い遂げたって噂の?」
「……アラクネ云々は初耳だが、そっちは根も葉も無い与太噺に過ぎん。ただ、数多くの蜘蛛を飼っていたのは事実だな。……クロイヤー男爵、トマセック・クロイヤー男爵だ」
領兵本部の説明によると、そのクロイヤー男爵ってなぁ気の毒なお人で、若い頃は〝利かん気トマス〟だとか〝青ひげトマス〟だなんて呼ばれて、肩で風切って歩いてらしたそうなんだが……ある時何だか酷ぇ目に遭って、片足まで不自由になんなすったそうだ。それから人間嫌いになって、クモにのめり込んだって話なんだが……いや、人嫌いになるなぁいいけどよ、何でクモに入れ込んだりすんのかね。
「へぇ……その男爵様がお亡くなりあそばしたんで?」
「あ、いや。少し話が前後したな。……少々ややこしい話なんで、我々の方で確認した順番に説明するが……構わないか?」
「へぇ……」
構うも構わねぇも、こちとら事情がてんで呑み込めねぇんだ。何でもいいから説明してくれや。
「最初の取っ掛かりは火事の報告――問題の男爵邸が燃え上がっているとの通報だった」
家が建て込んでる場所じゃねぇとは言え、まさか放って置くわけにもいかねぇ。野火にでもなったら事だってんで、領兵さんたちゃ押っ取り刀で夜半の現場に駆け着けたそうだ。
「不幸中の幸いとでも言うのか、問題の館は沼の畔に建っていた……と言うか、沼地に囲まれて建っていたため、燃え広がって野火になる危険性は少ないと見られていた。だがまぁ、だからと言って何もせずに放って置くわけにもいかんのでな」
念のためにと領兵さんたちが駆け付けたってわけなんだが……駆け着けたはいいが燃え上がってるお屋敷にゃとても近寄れねぇってんで、現場付近を検めてたそうだ。ところが……
「不審な屍体を発見してね」
「……お訊ねしてもよござんすかね? 〝不審〟ってのは――どのくれぇ不審なんで?」
「それはもう、飛びっ切りの不審だった」
「然様で……」
俺ゃもうこの段階で耳を塞ぎたくなったね。
けどよ、しがねぇ駆け出しの死霊術師風情に、そんな贅沢が許されるわきゃ無ぇ。観念して続きを聞かせてもらったともよ。そしたら……
「延焼を警戒しつつ周りを調べていた兵の一人が、裏口から少し離れた辺りで屍体を発見した。……明らかに毒死と判る屍体でね。無数の咬み傷を受けていた」
明日以降もこの時間帯に更新の予定です。