勇者パーティーから追放された女の子がパーティーの仲間が全滅してボロボロの状態の勇者君に再会して「もう遅い」って言うだけの話
一発ネタを思い付いたので短編でコメディ書こうとしたら何かシリアスさんがにょきにょき生えてきちゃったんでジャンルをヒューマンドラマにしてみたでござる。
ネタやギャグがちょこちょこ入ってるのはその名残……ではなくモツ煮込み(カレー味)の仕様です。シリアス書いてると拒絶反応が出てギャグで中和したくなるねん……
「ミリー、君にはパーティーを抜けてもらう」
勇者アレックスはそう幼馴染みの女戦士に通告した。
人間の住む大陸にあった魔王軍の拠点、その最後にして最大のものであり魔大陸からの侵略の橋頭堡でもあった、滅亡した海洋交易国家セレスティア王国王都を解放したその戦勝の打ち上げの最中の出来事であった。
「…………え?」
女戦士ミリーは最初その言葉が理解出来なかった。アレックスとはずっと一緒にやってきたのだ。故郷の村が魔王軍の侵攻によって滅び、お互いに家族を失ってからはその心の傷を埋めるようにいつも一緒だった。難民キャンプでは同じテントの中で過ごし、食べ物が足りなくなれば揃って採取に出かけては苦い野草や食べられる虫を見つけて顔をしかめながら食べ、その顔が可笑しくてお互いに指を指して笑いあった。12才のジョブ獲得の儀式でアレックスが勇者になった時、ミリーも当然の如く共に戦う事を選び、そして人類大陸から魔族を駆逐した今までずっと同じパーティのメンバーとして背中を預けてきたはずだった。
「……気付いているはずだミリー。君のジョブは下級職の「戦士」、サブジョブも「盾使い」でしかない。僕達はこれから魔王軍の本拠である魔大陸に向かう。君ではステータスもスキルも足りない……足手まといだ」
「っ! そんな! それに今から新しいタンクを探すつもりなの!? そんな都合良くこのレベルについていけるタンクがすぐに見つかるとは……」
分かっていた。自分に才能がない事は。才能があればクラスチェンジ出来ると言われるレベル50を越えてもなお下級職のままだった時点で。それでも彼女は勇者と共に有ろうと努力し続け、技術を磨いて激戦をくぐり抜けてきた。それは勇者が一番良く知っているはずだった。
「代わりのメンバーはもう見つけてある」
だが彼の返答は非情なものだった。
顔を横に向けたアレックスの視線の先をたどると、ニヤニヤと笑う中年の大柄な戦士が歩み寄って来た。
「よう、お嬢ちゃん。俺は「不動」のランバート。「守護騎士」で「聖騎士」だ」
そして絶望した。二つ名持ちでメインもサブもタンク系上級職。短い自己紹介でも自分とは比べものにならないと理解させられる情報量だった。
助けを求めるようにパーティメンバーの姿を見るが、そこには新メンバーと同じようにニヤニヤと笑う斥候のジョンと魔法使いのレオンハルト、それに普段からほとんど無表情なのに僅かに口元に笑みを浮かべる神官のフェリックスの姿があった。
『全員知っていたんだ……』
仲間だと思っていた。苦しい時も、楽しい時も共に過ごして来た信頼できる仲間だと。なのにパーティーから自分が追放されると言うのに、こんなニヤニヤと嫌みに笑うほど嫌われていたなんて思ってもいなかった。
「なあミリー、君は女の子でしかも小柄な方だ。もともとタンクには向いていないんだ。実際、パワータイプの敵の攻撃を受けて吹っ飛ばされたのも一度や二度じゃない」
アレックスの声はあくまでも優しく、諭すような口調だった。
分かっている。だがそれでもミリーはタンクに拘っていた。家族の仇を討つ為に、あるいは誰かを助ける為に、何時だって無茶をするアレックスを守りたかった。たった1人残った同じ村の生き残り。失った家族の代わりになってくれた人。そして……本当の家族になって欲しいと淡い思いを抱いていた人。どんなに恐ろしい魔物と戦っても彼と一緒なら怖くなかった。死ぬ事よりも残される事が……彼と一緒に死ねない事の方が怖かった。
でもそれはミリーだけの思いだった。アレックスにとってはミリーはただの幼馴染み……
「なにより! 俺はもう大切なミリーが俺の代わりに攻撃を受けて怪我をするのを見たくない!!!!」
じゃなかったようだ。
いきなりの言葉にポカーンとするミリーに、アレックスはキリッと表情を引き締め、腰のポーチから小さな箱を取り出してミリーに中を見せるようにそれを開ける。
中には簡素ながらも美しい細工がされたミスリルの指輪。
「俺は必ず魔王を倒して帰ってくる。だから待っていて欲しい。そして……この戦いが終わったら俺と結婚して下さい!」
「それ決戦前に勇者が言っちゃいけないセリフだよっ!?」
思わず突っ込むミリーに爆笑する仲間達&新メンバーのおっさん。
遅まきながらも彼らのニヤニヤ笑いの理由が自分が思っていたのと全く別のものだと気付いたミリーなのであった……
結局ミリーはパーティーを抜け、アレックス達だけで魔大陸に向かう事になった。アレックスは人類の反抗拠点でもある聖王国の王都に小さいながらも庭付きの家を買っており、ミリーはそこで待つ事になった。何故アレックスが露骨に家族向けの物件を所有していたかについては謎である。謎ったら謎である。仲間にはめちゃくちゃニヤニヤされた。口笛やらなんやらで囃し立てられた……無表情神官がちっちゃいラッパだして「パフ~」とかやり始めた時は正直目眩がした。お前クール系じゃなかったんかい。
魔大陸へ向かう船に乗る別れの時も「絶対に帰ってくる」だの「待っていてくれ」だの「愛してる」だの言うアレックスと彼に抱きしめられるミリーの姿をニヤニヤしながら見ていた。もはや仲間の顔がニヤケ面でしか思い出せない。
そんな悲壮感の一切ない別れだったが、魔大陸での戦いは過酷なものが予想される。魔王の本拠地であり野生の大型魔獣が数多く生息、さらには魔王の張った結界により転移魔法や通信魔法が阻害される為に、魔王が生きている限り物資や情報による支援が難しくなる。おまけに正確な地形も分かっていないから大陸の何処に魔王の城があるのかも分かっていない。
長い戦いが予想された。それでもミリーは待つ事にした。待つ以外の選択肢が無くなったとも言う。うん、魔大陸に渡る準備期間中に恋人としてやる事ヤっちゃった結果うっかり出来ちゃったんだよ? 妊婦さん連れていけるわけないよね? まだ結婚してないのにフライングですよ。ちなみにアレックスの二つ名が「疾風の勇者」になったそうな。手が早いから疾風……(*≧艸≦)ププッ
そうしてミリーは出港する船を見送った。人類の運命を背負い旅立つ船を。必ずここに帰ってくると手を振るアレックスに笑顔で答h(おい馬鹿やめろ)
そして月日は流れた。
本拠地に攻め込まれた魔王は防衛に回す為に人類大陸へ展開していた残った戦力を魔大陸へと引き上げた。その為、魔王との戦いは終わっていないものの人類大陸では平和な日々が訪れていた。勇者アレックスと人類連合軍の活躍により、魔大陸の7割が制圧。魔王城の位置も判明したと言う噂もあり決戦の時は近いと言われていた。
そんな中でミリーはあの家でアレックスを待っていた。
別れて半年後に生まれた息子のアレンはもう4才になっており、すっかりやんちゃに育ち今も庭を駆け回っている。
「もう5年かぁ……」
かつての勇者パーティーの勇ましい女戦士の面影はなく、すっかり母親の顔になったミリー。戦線を支える為にアレックスは帰るに帰れず、アレンは父親の顔を見ることなくここまで大きくなってしまった。
「……会いたいなぁ……」
戦地からは数ヶ月に一度のペースで手紙が送られてくる為に無事であるのは分かるが、人間に化ける系統の魔族のスパイを警戒して具体的な戦況などは書かれていない為、何時になったら戦争が終わるのかはサッパリだ。
「いつまで待たせるのよ……」
考え事をしながらも手馴れた手つきで夕食の下拵えを終えるともう夕方。後一時間もすれば真っ暗になってしまうだろう。息子を家に入れるべくミリーは庭に出て呼び掛ける。
ふと、風が動いた。かつての戦士の感覚は家の門の前に突然人の気配が現れた事を教える。現役時代には何度も感じた転移魔法によって人が出現した時の感覚だ。
目をやった門の所に立っていたのはボロボロの男だった。身に付けた服はボロ切れとなり、あちこちにかつて鎧だったと思われる金属のパーツがくっついている。さらに大量の血や土埃が付着しておりゾンビと見間違えかねない有り様である。本人も傷だらけで傷も古傷からまだ血の滲む新しいものまで各種取り揃えているようだ。
男は疲れきった表情を浮かべた顔を上げ、不思議そうに辺りを見回し……
「…………ミリー?」
「……!!!!」
目が合った。忘れもしないその面差し。懐かしい声。
ミリーは泣き笑いを浮かべてアレックスの元に駆け寄り、飛びかかるように抱き付く。
「もうっ、おっそーい!」
おしまい
ほら、タイトル通りだったでしょ?
単純なネタだから誰かとカブってたら済まぬ。指摘されたら消します。
「不動」のランバート
メイン「守護騎士」サブ「聖騎士」
魔王との最終決戦時、勇者アレックスの身代りとなり攻撃を受けて死亡。しかし守護騎士の上級スキル「ラストアクション」(死亡ダメージを受けた後でも数秒行動可能)で自分に突き刺さった魔剣を奪い取り、その魔剣で魔王の右腕を切り落とし一矢報いた。
ランバートはある王国の騎士だった。だが魔王軍との戦いで遠征中、故郷が襲われている事を知る。慌てて帰った彼を迎えたのは焼け野原となった故郷と、物言わぬ屍となった妻と息子の姿だった。
それ以降、復讐鬼と化して一体でも多くの魔王軍を殺す事だけを考えていたランバート。だが若く、未来の為に戦う勇者の姿を見て、彼の為に自分の命を使うと誓った……
「影渡り」ジョン・ドゥ
メイン「暗殺者」サブ「トレジャーハンター」
魔王との戦闘中、援軍としてやってきた魔族の将軍とその部下を攻撃して引き付け、囮となる。「ヤバそうなら逃げるけど恨むなよ」と言いつつも結局最期まで戦い抜き、将軍と相討ちになって死亡。
ジョン・ドゥは偽名。彼は魔王軍との戦闘で失われたとある町から来た難民だった。両親と妹の4人でキャンプで生活していたが、魔王軍の農村部への攻撃により引き起こされた深刻な食料危機により妹が餓死、本人も餓死寸前の状態になるがギリギリのところで食料を食べて生き延びる……だが彼は知ってしまう。彼を生き延びさせる為に両親が食べさせた肉入りスープ、その原材料に……
両親の下を飛び出した彼はその日から名無しの死人となった。咎人である自分の死に場所を求め彷徨う日々、しかし妹によって生かされた命を無駄にしたくもない。彼が選んだ道は勇者パーティーに所属して戦う事だった。そこで出会った少女、奇しくも彼の死んだ妹の名もミリーであった。故に彼は代償行為と知ってもミリーの幸せの為に命をかけて勇者を生き延びさせるべく最期まで戦ったのだ。飄々とした皮肉屋の仮面の下に隠した悲しみと信念に誰一人気付かせる事なく……
「神子」フェリックス
メイン「捧げられし者」サブ「聖者」
最終形態となった魔王の奥義により瀕死となった勇者アレックス、彼の命を救うべく自己犠牲魔法「サクリファイス」(パーティーメンバーを全回復、極大リジェネ及び極大全能力上昇を付与。使用後術者は死亡する)を発動させた。
彼のジョブ「捧げられし者」は自分の寿命や命、魂の一部を神に捧げる事で強力な奇跡を発現させるジョブである。それ故にジョブ獲得の儀式でこのジョブを得た彼は親と引き離され、神殿の対魔王兵器として洗脳じみた教育をされる。まともな感情を失い、無感情にただ兵器として死ぬ為に生きるフェリックス。だが勇者パーティーに参加するうちに次第に心を取り戻していく。だがそれは死の恐怖もまた蘇らせる事だった。動かない表情筋の下で恐怖に怯える日々。だがアレックスが魔王に殺されかけた時、彼は自然と自らの命を消費する事を選んだ。彼は兵器として誰かに言われたから死ぬのではなく、友の為に人として自分を犠牲にしたのだ。
「亡国」のレオンハルト
メイン「大魔導師」サブ「賢者」
勇者と共に魔王討伐に成功するも道連れにしようとする魔王により魔王城が倒壊を始める。出口が崩れ逃げ道は無く、魔力もお互いに底をついていた。だが彼の懐には一つだけいざと言う時の脱出の為に用意した一人用の転移スクロールがあった。彼は迷わずそれを勇者に使用し、自らは倒壊する魔王城と運命を共にした。
滅亡したセレスティア王国の第三王子であり王族最後の生き残り。魔法使いとしての才能に恵まれていた彼は復讐の為に勇者パーティーに参加する。最初は高慢な態度で勇者達を利用して復讐する事だけを考えていたがいつしか心を許し真の仲間となっていた。復讐を終えた後の事は何も考えておらず、態度には出していないが魔王を倒した後は精神的に燃え尽きたような状態だった。それならば恋人が待っている勇者を優先させようと冷静に判断した結果の行動だった。
「疾風の勇者」アレックス
メイン「勇者」サブ「魔法剣士」
恋人の元に帰還したアレックス。だが魔王戦での無茶により彼は最早戦える体ではなかった。人類連合の参加国から讃えられるも地位も名誉も全て辞退し、ただ妻子と静かに市井で暮らす事を望んだ。
コネで冒険者ギルドの職員に就職。最近の悩みは息子のアレンが「お父さん」と呼んでくれない事(アレン視点ではアレックスは大好きなお母さんを自分から奪おうとする男である)。
Q:……え? この設定でコメディ部門に投稿しようとした作者がいるってマジですか?
A:ちゃうねん、最初は「もうっ、おっそーい!」の一発ネタだけのコメディだったんや。でも「タイトルのボロボロの前にパーティー全滅とか付けたらもっとそれっぽくなるかな?」→「全滅するならメンバーがどんな死に方するか考えよっかなー」→「何でそんな死に方を選んだのかバックボーンも考えるぜ!」ってなってこうなっちゃったんや。途中で読んだマンガにウミガメのスープネタが入ってたのも悪かったんや……(なお作者の中でジョン・ドゥ君の扱いは「若くしてウミガメのスープの中身を知っちゃった人」である)