赤ずきんちゃん2
ルークは魔女の薬の効果は本当にすごいと、包帯をとりかえるたびにお礼を言ってくれたが、けが人を見慣れているメアリにはルークの回復が早すぎる気がしてそのことを聞いてみた。
「俺の父親が、崖から落ちたことがあったんだけど、一か月もしないうちにいつものように狩りに出かけてたから、きっとその血を継いでるんだな」
そう言ってルークは笑った。
外というのはメアリにとっておとぎ話のようだった。メアリの世界は小さい。この魔女の森を中心に、交流があるいくつかの村がメアリの知っている世界。さらに遠くへ歩いて行くと町があり、もっと遠くには王様が住んでいる都があって……という世界はまったくピンとこない。
だから、ルークはおとぎ話の世界からやってきた不思議な人だった。
ルークの破れた服を、血をきれいに洗い繕って渡した時。
「ルークはどこからきたの? この洋服の形、変わっているわ。ルークの故郷ってどんなとこなの?」
「どんなとこって……。ここと何も変わらないさ。森があって、川があって、同じように村があるだけだよ」
嘘は言っていないとは思う……が全てを言うつもりもない。というゆるやかな拒絶がルークから感じられた。狭い世界で生きてきたメアリにはわからない事情があるのだろうと自分を納得させるが、どこか寂しくもあった。
それでも、ルークがメアリより二つ年上なこと。都にはルークも行ったことがないこと。メアリの赤髪はルークの住む場所では珍しく、ルークのような銀色、灰や黒色の髪の人ばかりなこと。そして雪のこと。ルークはメアリが知らないことを知っている。
「小さな氷が雨みたいにふるんでしょ。それじゃあ、外を歩くと雪が当たって痛くないの」
「雪は氷だけど、ふわふわしてるんだ。手に落ちたらすぐに溶けてしまう。けど、一日中降り続けて、世界を真っ白にしてしまうんだ。新雪がふりつもった日、太陽がででいると一面がキラキラとして、ああ、冬がきたなって思うんだ」
「素敵ね。とっても綺麗な景色なんでしょうね。一度行ってみたいわ」
「そうだね。メアリも来たらいい」
自分で言い出したことなのに、メアリにはルークと一緒に雪をみるところは想像できなかった。
「そうね、きっといつか行くわ」
急に沈んだメアリに気を使ったのか、ルークはそれ以上何も言わなかった。
弱っていく祖母の世話をするだけで、過ぎていった毎日。近隣の村人たちとの交流も減っていて、少し閉塞感を感じていたのだろう。ルークがいる日々はメアリにとって輝きだった。だから、時々こちらの様子をうかがうようなルークの視線もメアリには気にならなかった。
ルークが我が家に来て一週間。傷口はほとんどふさがっていて、身体を動かしても問題ないようだった。
「今日は森に薬草を摘みにいくけど、ルークはどうする?」
日課になった朝の包帯の交換を終え、マントを羽織って、ルークに聞く。
「森に一人で行くのか」
「そうよ。森は私たちの庭よ。薬草も森からいただいているものもおおいの。なに? なんだか心配そう」
「心配だ。森には猟師もいるんだろう。俺みたいに狙われたら大変だ」
「言わなかったかしら、森にはおばあちゃんのまじないがかかっているのよ。どこまでが安全かは私がよく知っているわ」
どうするのと、答えをうながすとルークは少し考え首をふった。
「イヤ、やめておくよ。メアリの森だ。俺がいない方が自由に動けるだろう。ありがとう、誘ってくれて」
外には二人で出た。メアリはいつもどおり赤いフードをかぶって手をふった。
「そのかわり、薪を割っておくよ。少しは身体を動かしたいから」とルークは小ぶりな斧を持って見送ってくれた。
歩きなれた獣道をメアリは薬草を探す。保管していた薬草がいくつか少なくなっている。必要な薬草を頭の中で並べ、どのルートで森を歩くか決めたメアリは森の空気を吸い込んだ。木々のすき間からさしこむ光のようなキラキラとした気持ちのまま、足どりも軽くなる。
ついでに、魔女の森を守るまじない石の様子を見ておいたほうがいいかもしれない。
ルークが倒れていたのは祖母が守っている結界の端のほうだった。もしかしたら、どこかにまじないのほころびがでているかもしれない。
順調に薬草があつまり籠がいっぱいになったメアリはルークを見つけた古木に向かう。
古木は森の中で一番古くからある大木で、大人が二、三人腕をまわしても手がまわらないくらい太く、枝ぶりも立派だ。
大木の枝から空をおおうように茂る葉によってできた空地。そこに足を踏み入れてメアリが異変に気がつく前に声をかけられた。
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