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20   一歩進んで二歩下がることが正しか時もある

 ウチが主様とケインの街で再会したんな、三日後ん昼やった。

 ウチはそん時、街門ん近くん原っぱで魔闘術ん修練ばしたあと、そんままソレイユ師匠とヒバリ先生と一緒に昼食ば摂っとるところやった。

 最初に感じたんなモンスターん臭い。そっが段々と近づいてくることに気付いた。

 しばらくして、街道ば駆くる赤黒か馬が見えてきた。よう見ると、そん背に誰かが乗っとる。

「「モンスター!?」」

 師匠と先生は赤黒か馬を見て同時に立ち上がり、身構えたばってん、モンスターん臭いに主様ん匂いも混じったことで、ウチは主様が一日早う戻ってきたんやとわかった。

「主様ー!」

 ウチが大声でそう呼ぶと、二人は戸惑いながらも体から力ば抜いた。

 声に反応し、赤黒か馬はウチ達ん方に走る向きば変えた。

「ほ、本当にあの馬にザインザードが乗っているのか……? 軍馬より一回りは大きいのだが……」

「どう見てもモンスターよね……?」

 不安ば口にする師匠と先生やったばってん、背に乗る人ん顔が見ゆるほど近づいてきたところでホッとした顔になった。

 ばってん、近づいてきた主様ん顔は反対にたいぎゃ険しかった。

「外にいたか、カロン。ヒバリにソレイユもいるな」

 口調こそいつも通りん主様やったばってん、どことのう焦っとるように感じられた。

 そしてそら続いた言葉で確信に変わった。

「ちょうどいい、すぐにコーラ枢機卿領を離れるぞ」

 言いながらウチに手ば差し出してくる。

 つまり、こん赤黒か馬に一緒に乗れちゅうことやろう。

 ここまで強引な主様は初めてばい。

「待て、ザインザード。急にそのようなことを言われても困る」

「……別にソレイユは来んでもいいが?」

「なっ……!?」

「俺が欲しいのはヒバリだ。貴様はついでだ」

「あら、ザイン君ってば情熱的♪」

 主様ん言葉に二人は別々ん意味で顔ば赤うした。

「でも、急に言われても困るのはお姉さんも同じなのよね」

「……見たところ、荷物は全て持ってきているように見えるが?」

「まだ昼食を摂っている途中なのよ」

「それくらいは待つ」

「あと、宿代を一日分預けたままなんだけれど」

「補てんする」

「なら、断る理由はないわね」

 先生はそう言うて座り直し、主様ば睨んだままん師匠ば見て、

「で、ヒマワリちゃんはどうするの?」

「…………行く。……私も行くからな……!!」

 こぎゃんして四人でん旅が始まった。

 主様はすぐに枢機卿領ば離るるとだけ言うたばってん、目的地にあてがなかったわけじゃなく、ばってんそら先生ん答え次第やった。

「第三明王――スコッチ・チャンクの居場所?」

「そうだ。知っているか?」

「スコッチさんに会いたいの?」

「できれば、直接」

「うぅん……お姉さんが言えば会うくらいはしてくれるだろうけれど……。そうね、一つだけ条件があるわ」

「何だ?」

「お姉さんとソレイユも同席することよ」

 先生ん言葉に主様は目ばしばたたかせ、

「……最初からそのつもりだが」

「あら、そうだったの?」

「ヒバリにも協力してほしいからな。それで?」

「スコッチさんの居場所ね。普段は各地を転々としてるんだけれど……たぶんまだサイダー大司教領にいるんじゃないかしら」

「『たぶんまだ』、とは……?」

「半月くらい前にボルト獣帝国から宣戦布告されたのよ。それで、防衛のために国境に向かったらしいんだけれど……獣帝国の皇帝とスコッチさんって戦うと長くなるのよね……」

「なるほど……それで『たぶんまだ』か……」

 目的地は奇しくもメビウス法国に入って最初に訪れた場所やった。

 手早う昼食ば摂り終え、あとは出発するだけちゅうところで、師匠が片手ば上げた。

「ところで一つ訊きたいことがあるのだが」

「ん? 何だ?」

「その……お前とカロンちゃんはその馬に乗るのだよな?」

 言いつつ、師匠は視線ば赤黒か馬に移す。

 討伐難易度D級――ザラブラッド。

 特徴はそん名ん通り、血んように赤か毛並み。とはいえ、別に返り血ちゅうわけじゃなく、元から赤からしい。

 ちなみに、見た目は馬ばってん、肉食だ。

 ケインの街ば襲うたモンスターパレードん中にもいた。

「そうだが?」

「むぅ……いや、まあ、この際、その馬については何も聞くまい。……それはともかく、まさか私とヒバリは自分で走れ、などとは言わないよな?」

「………………無論だ」

「何だ、今の妙な間は!?」

「いや…………三人までなら乗れそうなんでな……」

「……つまり、私だけ走らせるつもりだったわけか」

 師匠が目ば細めてジトっと睨むと、主様は視線ば逸らし、

「……貴様は俺を嫌っている。ヒバリは欲しいが、貴様が来るかはわからん」

 呟くように言い訳ば並べた。

 それに対して師匠は小そうため息ばこぼすと、同じように視線ば逸らした。

「……これでもお前には感謝しているのだ」

「そうか……」

「……私が一歩進めたのは、間違いなくお前のおかげだ」

「そうか……」

「……だから……お前のことは嫌いだが……」

「…………」

「……み、味方でいたいとは思っているのだ……」

「…………そうか……」

 互いに視線ば逸らしたままん二人のやり取りは、どけか遠か場所で二人きりで話しよるようったい。

 どぎゃんしこ探したっちゃウチん居場所はのうて、たいぎゃ寂しかったばってん、なしかたいぎゃ温かか気色になった。

領域(ゾーン)――影法師(パペット)

 主様ん足下に広がった影から赤か馬ん死体が出てきて、それば影が飲み込むと赤黒か馬になっていなないた。

 これで赤黒か馬は二頭になった。

「では、行くか」

「待て待て待て待て!」

「今度は何だ?」

「何だ、今のは!?」

「馬については何も聞かんのではなかったか?」

「確かにそう言ったが今のはいくらなんでも気になるだろう!?」

「……だそうだが、ヒバリも気になるか?」

「気になるわね!」

「………………」

 喰い気味にキラキラした目で答えられ、主様は師匠と先生ば交互に見たあと、わずらわしそうにため息ばこぼした。

「……モンスターの死体を操り人形にできるだけだ」

 主様は本当のことを言わなかった。

 正確には、嘘じゃないけど嘘に限りなく近い答えを返した。

 主様がチラリとウチば見た。

 ウチも本当んことは言わず、主様ん言葉ば肯定するように二度頷いた。

 そら同時に主様へん返事も兼ねとった。

「そういうこともできるのか……」

「応用力が豊富でお姉さん羨ましいわ……」

 幸いなことに、師匠も先生も主様ん言葉ば疑うとらんようやった。

 以前、主様が言いよったことば思い出す。

「実のところ、嘘を見破るのは簡単だ。本当に厄介なのは、真実を言いつつ全部は言っていない、という類いのものだ」

 つまり、今のがそうやったんやろう。

 ウチと主様、師匠と先生ちゅう組み合わせで赤黒か馬に乗り、サイダー大司教領へ向けて出発した。




「――力の使い方?」

「そう。ソレイユにアドバイスしたみたいに、お姉さんにも何かないかしら?」

「ふむ……」

 先生がそぎゃん話ば始めたんな、一日目ん夜やった。

 四人でたき火ば囲み、食事ば終え、見張りん順番も決め、あとは寝るだけちゅうところでんことやった。

「俺はヒバリの力をよく知らん。その上での回答になるが?」

「ええ、それでいいわ」

「そうか……この間、少しだけ戦い方を見たが、明王の力で戦っているわけではなかったな? 推測するに、チャクラムを未来に飛ばすとか、そういう類いか?」

「……! さすがザイン君、ほぼ正解よ。お姉さんに与えられた力は『輪状のものを未来に飛ばす力』なの」

「なるほど、それであの大量のチャクラムか……」

 主様と先生ん話が気になり、寝転がってはいるばってん、寝る気になれん。二人に背ば向けて寝転がっとる師匠も、そん実は二人の話に集中しとることやろう。何とのう気配でわかる。

「大量のチャクラムで削り殺すという戦い方は、大抵の相手には通じる盤石なものだと思うが、ヒバリはその上に何を積み上げたいんだ?」

「一言で言えば『決め手』ね」

「決め手?」

「うーん……その、確かにお姉さんの戦法が破られたことは一度もないけれど、どうしても準備に時間がかかるのよね……」

「ふむ……つまり、速攻性が高く、なおかつ威力も申し分ない攻撃手段が欲しいと」

「そう! その通りよ!」

 我が意ば得たりと目ば輝かする先生。

「……一つ、思い付くことはあるが……それを話す前に確かめたいことがある。目の前で実際にやってみてくれんか?」

「……? 別にいいけれど……」

 先生ん頭上で輝く魔力ん輪が二つに分裂し、そん一方が主様ん前に移動する。

「――メビウス・リンク・チャクラム」

 先生が指ば鳴らすと同時に、そん輪は忽然と姿ば消した。

 そして十秒ほど経ったあとに再びそん姿ば現した。

 主様はそればジッと見よった。

「…………もう一度頼む」

 主様ん要求に応えて、再び魔力ん輪が消え、そしてまた十秒ほど後に現るる。

「ふむ、やはりか」

「何がわかったのかしら?」

「チャクラムの消え方だ」

「消え方?」

「未来に飛ばす、と言ってしまえば簡単だが、その力は間違いなく特異な力だ。明王とはいえ、時間を跳躍させるには相当なエネルギーが必要なはず。大きな力というのは細かいコントロールが難しいものだ。にもかかわらず、輪状に限定されているのが気になった。円状の方がより単純なのに、だ。一見、輪状よりも円状の方がエネルギーを多く使いそうだが、出力の安定という面を考慮すれば、結果的に円状の方がロスは少ないはずだ。つまり――」

 主様は両手で輪ばつくり、そん中央ば通して先生ば見ながら、

「――ヒバリの力は、本当にチャクラムだけを未来に飛ばしているのか?」

と、核心ば告げた。

 そこで問題になっとがチャクラムん消え方やった。

 主様が気にするものが気になり、ウチも寝転がりながらチャクラムが消えたり現れたりすっとば見よったけん、主様が言いたいことはわかる。

 チャクラムは、ただそんまま消えとったわけやなか。

 あまりにも早すぎて注視せんばわからんばってん、チャクラムはそん中心に向かって吸い込まれるように消えとった。

 そして現るる時は、逆に膨張するようやった。

「これらのことから推測するに、ヒバリの力は、チャクラムだけではなく、その輪の中にあるものもまとめて未来に飛ばしていると考えられる」

「なるほどね! 確かにそうなら、これほど簡単で強力な攻撃手段はないわね!」

 つまり、こぎゃんことだ。

 例えば、ザラブラッドば討伐する場合、今までは複数んチャクラムで削るように首ば切断しとった。

 それば今度は、ザラブラッドん首が通るくらい大きなチャクラムば用意し、そん輪ん中にザラブラッドん首ば通す。そん状態んままチャクラムば未来に飛ばすことで、ザラブラッドん首ん一部――チャクラムん輪ん中にある部分ば、チャクラムと共に未来に飛ばしてしまうばい。

 首ん一部が物理的に無うなってしまえば、いかなモンスターとはいえ、生物である以上早々に死亡する。

 よしんば再生力ん高かモンスターやったとしたっちゃ、チャクラムば複数にすりゃ、再生力ば上回ることは容易なはず。

 主様はそう語った。

 一日目ん夜は、こぎゃんして主様と先生ん会話ば聞きながら終わった。




「――他の答え?」

「そうだ。おま――ザインザードが以前、言っていただろう。『答えの一つを見せる』と。ということは、他にも答えを持っているのだろう?」

 師匠がそぎゃん話ば始めたんな、二日目ん夜やった。

 一日目と同じく、あとはもう寝るだけちゅうところでんことやった。

「それを教えろと?」

「……厚かましいことを言っているのは百も承知だ。しかし、何かしらの事情が変わったとか何とか言っていただろう? だから、その……ヒントくらいはくれないか……?」

「ふむ……」

 主様と師匠ん距離感は少しだけ縮まったばってん、やっぱりまだどけか互いに硬か感じが残っとった。そしてそぎゃん二人ば薄目で見て、先生はニヤニヤと声ば出しゃんで笑いよる。

 二人は気付いとらんようやったばってん、ウチは何とのう気配でわかった。

「……実を言えば、俺も別に明確な他の答えを持っているわけではない」

「そうなのか……?」

「ただ、考え方の方向性として、他の答えもありそうだなと思っていただけだ」

「考え方の……方向性……」

「……そもそも、きさ――ソレイユは、『理不尽な力』とはどういうものだと思う?」

「む……?」

「いや、ソレイユはソレイユで考え方があるかもしれんな。とりあえず、今はただ俺の考え方を聞いてほしい」

「……? うむ、わかった」

「……………………」

「……??? どうした?」

「いや…………昨日も思ったが……貴様が妙に素直だと気持ち悪いな……」

「ふふふ……そうかそうか――今しがた私もそう思ったところだ……! その首今度こそ刎ねてやるからそこを動くな!!」

「――おっと……! ヒバリ、貴殿の友人が乱心した、助けてくれ」

 師匠が振るう剣ば避け、主様が先生ば盾にする。

「今のはザイン君が悪いと思うから、助けるのはお断りよ」

「何、だと……!? カロン!」

「今回はさすがに主様が悪かて思うばい」

「くっ……味方は無しか!」

「ふははははっ、年貢の納め時のようだな、ザインザード……!!」

 たき火があるとにどちらも使徒ん力ば使うとらんけん、こらただんじゃれあいやとわかる。

 確かに陽は完全に沈んどるばってん、光源さえあれば多少は使徒ん力ば揮えるとどちらも言いよった。

 やけんきっと、こら自らん身ば削ってまで好かん相手とん関係ん深め方ば教えてくれとるばい。

 人間関係ん構築に難があるウチんために。

「さすが主様と師匠ばい……!」

「カロンちゃん、たぶんあの二人はそんなこと全く考えてないと思うわよ……?」

 こぎゃんして二日目の夜は過ぎていった。




「――さて、ようやく隣領に入ったわけだが……」

「そろそろ教えてほしいわね。どうしてあんなに急いで枢機卿領を出たかったの、ザイン君?」

 師匠と先生がそう主様に詰め寄ったんな、三日目ん夜やった。

 夕食ば摂り終わり、次は見張りん順番ば決めようかちゅうところでんことやった。

 ウチはどぎゃん理由があったっちゃ主様についていくだけばってん、確かにそら気になっとった。

 三人の視線ば一身に浴ぶる主様は、少しだけためろうたあと、重々しゅう口ば開いた。

「……明王に襲われた」

「「「……!!」」」

「しかも二人にだ」

「「「……!?」」」

 明王。

 神に選ばれし者。

 すなわち、メビウス法国における絶対者達。

 そぎゃんのに襲われた!?

 しかも二人に!?

「どういうことだ、ザインザード!? 詳しく話せ!」

「……実は枢機卿領の領都リブレで――」

 それから主様が語ったことは、実に不可解な話やった。

「二人目が出てきた理由は大概だが、まだわかる。しかし、一人目が襲ってきた理由がわからないな……」

「それに関しては俺も考え続けているが、全くわからん……」

「少のうとも、使徒やとわかった上で襲うてきたわけじゃなさそうばい……」

 主様と師匠と三人で頭ば悩まする。

 そん時、先生が深刻そうな表情ばしとることに気付いた。

「先生……? どうかしたと?」

「えっ……え、あ、いえ、その……何でもないわよ?」

 言葉ば濁した先生は主様と師匠にも見られとることに気付き、

「――って言っても、誰も見逃してくれないわよね……」

 どことのう諦めたようにそう言うて、重かため息ばついた。

「何か嫌なことにでも気付いたのか?」

「あるいはどちらかに思い当たる節でもあったか?」

「うぅん……その両方なのよね……」

 陰鬱そうな先生ん口調に、三人で顔ば合わせ、一瞬で目配せし合い、

「言いたくないなら言わなくてもいいのだぞ、ヒバリ」

 さしより一番親密な師匠がそう伝えた。

「うん……ありがと。でも、言いたくないわけじゃないのよ? ただ――」

「ただ?」

「――もしもお姉さんの思う通りの人だったら、ものすっっっごくメンドくさいことになりそうだなあ……って……」

「実に嫌そうなところすまんが、言いたくないわけではないのであれば、情報を開示してくれんか?」

「そうよね……言わなきゃダメよね……」

 先生は覚悟ば決むるように深呼吸し、

「あり得ないくらい太ってたっていう方なんだけれど――コーラ枢機卿のお屋敷近くで会ったのなら、それはたぶんハンス・コーラ――つまり……コーラ枢機卿本人だと思うわ」

「「「――――」」」

 まさかん指摘に、三人してポカンとするしかなかった。

 こっが三日目ん夜ん出来事やった。

 結局、主様ば襲うた二人の明王については、明王ん一人であるスコッチ・チャンクちゅう人と会うてから、改めて話し合おうちゅうことになった。

 ちなみに、先生が知っとる明王は自分とスコッチ・チャンクば含めて三人だけで、スコッチ・チャンクはサイダー大司教領におることがほぼ確実なため、主様ば襲うた明王やなかことは確実やった。

「もう一人については、本人の許可がないと話せないの。ごめんなさいね」

 そう言いつつも、残る一人もむやみに人ば襲うたりはせんと、先生は保証した。




「――理不尽の方向性?」

「そうだ。結局、一昨夜はまともに答えてやれなかったからな。答えを示すことはできんが、俺の考え方を話そう。参考にはなるはずだ」

「う、む……ま、まあ、教えてくれるなら聞かないこともないが……」

「ヒバリも聞くか?」

「ぜひお願いするわ!」

 主様がそぎゃん話ば始めたんな、もうすぐサイダー大司教領に入るちゅう四日目ん夜んことやった。

「まず、前提の話をすると、理不尽な力とはどういうものか? というところから考えていく」

 主様曰く、「『理不尽な力』とは防ぎようも避けようもないものを指す」とんことやった。

「つまり、理不尽の方向性とは、防ぎようも避けようもない攻撃をするにはどうすればいいか? という手段の種類のことだ」

 一つ目は、攻撃範囲が広かこと。

「これには二つの解決法が考えられる。一つは俺の『百手(ハンドレッド)』のように、とにかく数が多いもの。そして――」

「もう一つは単純に大きいもの、か」

 具体例としては、主様ん「巨人(タイタン)」と師匠ん巨大な武器が挙げらるる。

 二つ目は、攻撃動作が認識しづらかこと。

「こちらは三つの解決法がある。一つは単純に速いもの」

「もう一つは遠くからのもの、かしら?」

「そうだ」

「む……? 最後の一つは何だ?」

「見えないもの、だ」

「見えない……ザインザードの『スラッシュ』のようなものか?」

「発想としては近いが、もっと極端なものを想像すべきだな」

「はい! 主様が言いよった、噛みついてくる人がそうやて思うばい!」

「俺も同感だ」

「「ああ……なるほど」」

 思うたことば言うたら、主様に褒められた。頭ば撫でられて、たいぎゃ嬉しかった。

「奴の攻撃はわかっていれば防ぎやすいものだが、初見ではまず凶悪な攻撃だと認識できん。まして知人の肉体でも乗っ取られて近づかれでもしたら……」

「うぅむ……誰がその明王かわからないというのは厄介だな……」

「まあ、網を張るしかあるまい」

 つまり、対処療法的に対応するしかなか、とんことやった。

 三つ目は、概念的な攻撃であること。

「??? よくわからないのだが?」

「ふむ……ヒバリの力がわかりやすいと思うが、『未来に飛ばす』というのは防ごうと思って防げるものではない。こういった強制力を伴うものを『概念的な攻撃』と呼ぶ」

「むぅ……やはりよくわからない……」

「……まあ、当たったら死ぬ類いのものだと思っていればいい」

「そうか……」

 三つ目についてはウチもようわからんだった。

 そらそれとして、主様が説明に言葉ば渋るとは珍しか。

 あまり上手う説明でけんか、理解するとに前提となる知識が必要かのどっちかやろう。

 もしくは……師匠や先生には知られよごたなかんかもしれん。

「それで、一昨夜の問いに戻るが、ソレイユの力を考えると、二つ目のうち、『単純に速い』というのは実現可能だと思うんだが」

「む……? そうなのか?」

「……貴様、俺がなぜ巨大化を推奨したかわかっておらんのか……?」

「へっ……???」

「わかっておらんのだな……」

 実に頭が痛かとばっかりに、主様が片手で額ば抑ゆる。

「……ソレイユ、貴様に与えられた力を貴様はどう認識している?」

「むぅ……? 『光で武具を創る力』だと思っているが……?」

「正確に認識しているではないか……。なのになぜ…………ああ、そうか、貴様は感覚タイプなのか……」

「むむぅ???」

「頭で考えるより、見て触れて実際に試して学ぶ方が得意な者、という意味だ」

「なるほど! 確かに、新しい武器を探す時はとりあえず振ってみるな!」

「逆に言えば、考えれば考えるほどドツボにはまって迷走する者、でもあるが」

「むぐっ……!」

 主様ん言葉に師匠がたいぎゃ動揺しとった。何やら思い当たる節があるらしい。

「確かに、ヒマワリちゃんは時々ものすごく迷走するわね。この間も――」

「待てヒバリその話は――!!」

 慌てて止むる師匠ば無視し、先生は主様に負けたあとん師匠ん迷走っぷりば淡々と暴露し始めた。

 師匠はあん手こん手で先生ば止めようとしたばってん、格闘術では先生ん方が強かようで、先生は師匠ん攻撃ばひらりひらりと全て受け流して暴露し続けた。

 先生ば止められんばわかった師匠は、今度は主様ん耳ば塞ごうと画策したばってん、純粋な腕力では主様に勝てず、結局、主様に両手ばつかまれたまま自身ん失敗談ば暴露され続くるちゅう結果に終始した。

 なお、全てば暴露されたあと、師匠は真っ赤になっとった顔ば両手で覆うてうずくまった。可愛い。

 ちなみに主様ん感想は、

「最後のはともかく、ナイフやガントレット・クローは良い発想だと思うがな。ナイフは矢を放った直後に投げれば不意を突けるし、ガントレット・クローは近接戦に織り交ぜればやはり不意を突ける。どうせならグリーブ・クローも創れるようになれれば、選択肢がかなり広がるだろうに。……まあ、創るまでの時間を限りなく短くする必要はあるが……ソレイユならそこは修練でどうとでもなるだろう」

と、結構好評価やった。

 それば聞いた師匠が復活したんな言うまでもなか。

「……さて、一応、説明するとだな……ソレイユ、初めて俺の前で使徒の力を使った時のことを覚えているか?」

「む? ああ、もちろん、覚えているぞ。確か、ザインザードの影の縄を斬ったのだったな」

「そうだ。あの時、俺はソレイユの力が非常に厄介だと感じたんだ。……まあ、当の本人は自分の力の本質に全く気付いていなかったわけだが」

「ぐぬぅ……」

「あら、ザイン君は最初からソレイユの力の使い方を思いついていたの?」

「まあな。というのも、その時、俺はソレイユが何かしようとしていると察し、影の縄で動きを封じようとしたんだ」

「そして私はそれをことごとく斬ったわけだ!」

「そうだな――後出しでな」

「「……!!」」

 主様ん言葉に、ウチと師匠は驚愕に顔ば染めた。

「む? むぅ?」

 まあ、当ん本人はまだ気づいとらんやったばってん。

「……ソレイユ、私は『ゾーン』っていうのしか見てないけど、ザイン君の影ってかなり展開速度が速いわよね?」

「む……? ああ、そうだな」

「それより後に使徒の力を発動したのに完全に対処できたのよね?」

「そうだが――何を言っているのだ、ヒバリ。そんなの当たり前じゃないか」

「どうして?」

「私の力は『光で武具を創る力』だぞ? 光の速度で武具を創れるのだから何よりも速いに決まって――あ……」

 胸ば張って自慢気に語った師匠は、自分で口にしたことでようやく気付いたようやった。

「そうだ、それが貴様の力の本質だ」

 光で武具ば創るちゅうことは、すなわち、光ん速度で武具ば創るるちゅうことば意味し、故に、巨大な武器であろうとも恐るべき速度で創り出するちゅうことだ。

「しっかりと修練すれば、振るうたびに武具を切り換えるような戦い方もできるかもしれんぞ?」

「し、しかし、キーワードが……」

「コウブソウセイ――だったか? まあ、確かに一々唱えてはおれんな」

「だろう!?」

「だが、あれはいわば起動コマンドだろう? 連続で使用する分には最初の一度だけで問題ないと思うがな。というか、できるようにならなければ俺が言ったようなことはできん」

「む……むぅ……」

 主様に断言され、師匠は腕ば組んで黙り込んでしもうた。

 おそらく、本当にしきるようになっとか、今までん自分の常識と戦うとるとじゃろう。

「ふぅん……それができれば確かにすごいわね。……ねえ、ザイン君、今のってほとんど答えを示したも同然だと思うんだけど?」

 先生ん問いに、主様は首ば横に振った。

「いや、あくまで方向性だけだ。どのような武具をどのような時に使うかは自分で考えなければならん。これからソレイユは、それこそ無数の選択肢を前に取捨選択を繰り返し、自身にとっての最適を構築していくことになる。そしてそれはソレイユ自身にしかできん」

「そう……。それは長い戦いになるわね……」

 そぎゃんこつば話しながら師匠ば見守る主様と先生ん目は、まるでウチん修練ば見よる時ん師匠んようやった。

 こぎゃんして四日目ん夜も過ぎていった。

 いよいよ明日はサイダー大司教領に入る。

 主様とウチにとっては、せっかく進んだ道ば最初まで戻ったことになる。

 ばってん、ウチは主様についていくだけばい。

 たとえそっが、どぎゃん険しか道やったとしたっちゃ。




 ――そして四つ目は、相手の力を封じること。

 はっきり言って、これ以上に理不尽な力はない。

 それが一定範囲に及ぶものであればなおさらだ。

 仮に使徒の力を封じるような力があれば――我々が目指した世界は永遠に来ないことになる。

 何か。

 何かが必要だ。

 そんな理不尽すらも覆す、絶対的な何かが――

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