第6話 有効期限!
なによ。
これだからムカつくのよね、本城先生は。
――僕、月島のこと好きなんですよね
自分の秘密を簡単に私なんかにバラしちゃって・・・
そう。これでおあいこ。
本城先生は私の秘密を知っていて、
私は本城先生の秘密を知っている。
つまりお互い弱味を握り合っていて、
相手の秘密をバラせない。
本城先生はわざと自分をそんな状況に持っていった。
つまり・・・
私の秘密はバラさない、
って言ってくれたも同じ。
なによ、いい人ぶってさ・・・
月島さんのこと好きなくせに、
ちゃっかり合コンとか行ってるし。
まあ、無理に誘われたんだろうけど。
「ムカつくー!」
私はわざと声に出した。
道行く人が数人、驚いた顔をして振り向く。
しかも、何が「僕の片思いです」よ。
月島さんのあの眼差しに気づいてないの?
百戦錬磨に見えて、意外と純情なのね、本城先生って。
・・・まあ、いつか本城先生が月島さんと付き合うようなことになったら、
アドバイスの一つでもしてやるか。
先輩として。
例えば・・・
コンビニには手を繋いでいっちゃダメ、
とかさ。
アパートについて玄関を開けると同時に、鞄の中で携帯が揺れた。
徹だ!
「もしもし!?」
「菜緒?今、大丈夫?」
「大丈夫?じゃないわよ!」
「あ、ごめん。じゃあ後でかけなおすね」
「そういう意味じゃなくて!」
そう言ってる間に涙がポロポロこぼれてきた。
「どうして電源切ってるのよ!酷いじゃない、酷いじゃ・・・うう~」
「菜緒、泣いてるの?ごめんね」
「・・・ううん、私こそ・・・」
「ずっと病院にいたから携帯切ってたんだ」
「病院?」
え?
徹のお父さんに何かあったの!?
「昨日、頭冷やそうと思って、俺と菜緒の分のコーヒー買いに行ってる途中にさ、」
・・・なんだ、コーヒー買いに行ってただけだったんだ。
「母さんから電話がきて、ドナーが見つかったって言うんだ」
「え!?」
「それで俺、菜緒に連絡するのも忘れて慌てて病院に直行しちゃった」
「それで、お父さんは・・・?」
「うん、すぐに手術に入って、今日の昼前に終わったよ。成功した」
「じゃあ、助かるの!?」
「うん」
顔は見えないけど、電話越しの声から徹の嬉しそうな表情が伺えた。
よかった・・・
私はまた涙が出そうになった。
「それからずっと父さんについてたから、連絡できなかったんだ。ごめんね」
「い、いいよ、そんなこと・・・本当に良かった」
「でね。菜緒に渡したい物があるんだ。
本当は昨日渡そうと思ってたんだけど。リビングの棚に入れてある」
「え?」
私は急いで靴を脱ぎ、リビングに向かった。
棚を次々に開ける。
そして、上から3段目の棚に見慣れない封筒が入っていた。
「これ?白い封筒?」
「うん・・・電話切ってから見てね」
心なしか、徹の声が照れくさそうだ。
「・・・やだ。今見ちゃう」
「ダメだって!」
徹が止めるのも聞かず、携帯を耳と肩に挟んで、封を切った。
中にはメッセージカードが一枚入っていた。
何のカードだろう?
表を見ると、そこには・・・
『 結婚指輪 引換券 有効期限 8月18日 』
「・・・徹、これ・・・」
「菜緒、指輪欲しそうだったからさ。買ったんだ」
「・・・」
「って言っても俺の小遣いと貯金で買えるくらいの安物だけどね」
カードはぼやけて、みるみるうちに見えなくなった。
「・・・ありがとう」
「うん」
私は涙をぬぐいカードを何回も読み返した。
さっきの言葉以外は何も書いてない。
本当にただの引換券。
でも・・・
指輪そのものより大切に思えた。
「ねえ、徹・・・」
「うん?」
「8月18日って、もう過ぎてるんだけど・・・」
「え?」
私は涙を浮かべたままクスクスと笑った。
「だって今日、8月19日だよ?」
「あ・・・昨日指輪も渡すつもりだったから・・・そういえば今も指輪、持ったまんまだ」
「ふふふ」
抜けてるんだから。
でも、徹らしい。
「ちょっと期限延ばしてもらえる?」
「うん、いいよ。じゃあ8月19日まで延長」
「今日じゃない」
「そうだよ。えっと・・・後5時間で期限切れだね」
「え」
腕時計を見ると午後7時。
ほんとだ!後、5時間で8月19日が終わる!
「中央病院にいるから」
「わかった!すぐ行くね!」
「あ。8時になったら病院に入れなくなるんだった」
「ええ!?1時間しかないじゃない!」
「ははは、頑張ってね」
私は携帯を切ると、
カードを大切に握ったまま駆け出した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前提が大きな割に、話数が少ない・・・とお思いの方、正解です。
「私の旦那様!」は次の次あたりに連載を開始予定の大型小説の番外編、
というか、布石です。
主人公は・・・そう、あの人です。
よろしければ、そちらの方もよろしくお願いします。