第1話 新婚生活!
スラッと背の高いイケメン数学教師
セーラー服と若さが眩しい女子高生
そんな二人は、誰にも内緒だけど実は結婚している・・・
そんなハチャメチャストーリーのドラマとか漫画ってたまにあるよね。
現実にそんなことあるわけないのに。
だってさ。
どうして在学中に結婚する必要があるの?
卒業してからでいいじゃん。
もしくは学校辞めるとかさ。
それとも子供ができたとか?
でもそれならやっぱり学校辞めないといけないよね。
ま、そんなありえない不毛なことに頭を使うのはもったいない。
それよりももっと現実的なことに頭を使おうよ。
例えば・・・
どうやったら教師と生徒の新婚生活をバレないように過ごせるか、
とかさ。
「ただいま」
「お帰りなさい、徹。お風呂に入ってご飯にする?」
「うん。今日、何?」
「ハンバーグ」
私がそう答えると、徹はニッコリと微笑んだ。
「ありがとう。ハンバーグなんて手のかかる料理、嬉しいよ。菜緒も忙しいのにごめんね」
「えへへ」
「着替えてシャワー浴びてくるよ」
「うん」
そう言って徹は寝室に入っていった。
徹は本当に優しい。
徹の一言一言が心にしみる。
あんな素敵な旦那様、世界中どこを探してもいない。
もう、徹が喜んでくれるなら、なんでもしちゃう!
って感じ!
え?
ノロケすぎ?
いいじゃない、結婚して1ヶ月。
まさに文字通り、湯気が出そうなくらい「新婚ホヤホヤ」なんだから!
浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
私は、フライパンの火を気にしつつ、寝室へと急ぐ。
徹が脱いだ服はベッドに置かれていた。
といっても、グチャグチャになってるわけではない。
ちゃんと広げてあって、徹はいつもお風呂から上がった後、
ハンガーにかけてくれる。
でも、今日は私がかけてあげよう。
徹のためなら、私にできることは何でもしてあげたい。
徹のズボンとシャツをハンガーに通して、
壁のフックにかける。
隣には私の服。
仲良く並ぶスーツと制服は、まるで私と徹みたいだ。
事の起こりは、2ヶ月前の4月。
徹のお父さんが倒れ、不治の病だと診断された。
絶対治らない、って訳じゃないけど臓器移植が必要だ。
お父さんの歳を考えても、適合するドナーが現れる確立はゼロに近い。
このままだと余命半年、ということだった。
徹のお父さんは、遅くにできた一人っ子の徹をとてもかわいがっていて、
どうしても徹が結婚するところを、そしてそのお嫁さんを見たいと言った。
「こんなプロポーズで申し訳ないんだけどさ・・・俺と結婚してくれない?」
徹は申し訳なさそうに私にそう言った。
「俺には菜緒しかいないから、こんなこと頼めるの菜緒だけなんだ」
照れくさそうに微笑む徹を見て、私は泣きながら「うん」と言った。
私の両親は、さすがに反対するかな、と思ったけど、
「こんな娘、いつまで経っても結婚しないだろうからぜひ貰ってやってください」
と、私はノシをつけて献上されてしまった。
その後、校長先生に事情を話すと、涙もろい彼は、
「そういう事情でしたら、了解しました。
学校側の手続きは、私が責任を持って全て行いましょう」
とポロポロと泣きながら承諾してくれた。
結婚の条件は、学校関係者には誰にも話さないこと、
ただそれだけだった。
本当にありがたい。
嬉しくって私まで泣けた。
こうして、
結婚できる年齢に達していなかった為、誕生日を待って、
翌月の5月に私たちは入籍した。
徹も私も、一緒に暮らすのは卒業までまとうかと思ったけど、
やっぱり結婚したからには一緒に住みたい。
ちょっとリスクはあるけど、
学校から遠く離れたところに安いアパートを借りて新婚生活を始めた。
夏休みには家族だけで式も挙げる予定だ。
「おいしい!菜緒は料理が上手だなぁ」
「へへへ、ありがと。ご飯、もう一杯食べる?」
「もらうよ」
「はい」
なんだかオママゴトみたい。
何もかもがくすぐったい。
お茶碗を差し出しながら、私は徹を見つめた。
徹は小柄だし、イケメンって訳じゃない。
でも、サラサラとした綺麗な黒髪と温かい瞳、
そして何より、その穏やかで優しい性格で、生徒の間で密かに人気がある。
徹は私の旦那様なんだよー!
って声を大にして言いたい。
でもそこはグッと我慢だ。
大の仲良しの陽子にも言ってない。
ごめんね、陽子。
いっつも二人で「彼氏ほしー!」とか言ってるけど、
本当は私はもう2年も徹と付き合ってるし、結婚もしちゃったんだ。
いつか、ちゃんと話すからね。
私と徹の出会いは3年前の夏。
そもそもは、家庭教師と生徒という関係だった。
と言っても、夏休み限定の家庭教師だったため、
最初から期間は1ヶ月ちょっとと決まっていた。
だから私は、初対面で徹に惹かれつつも、
歳の差が7つもあるし、
絶対相手にはしてもらえないだろうし、
すぐに別れがくるんだから、
と自分に言い聞かせた。
ところが。
次の4月。
私たちは高校でばったり再会した。
「あ・・・ここの高校受けたんだ」
「そっちこそ・・・ここの教師になったんだね」
私たちはなんだかおかしくなって、
体育館の前で笑った。
そんな私たちが恋人の関係になるまでに時間はかからなかった。
そしてあっと言う間に2年が経ち、今はこうして夫婦になった。
食事の後、私たちはすぐに寝室へ向かった。
といっても、ベッドではなく二つならんだ勉強机へ。
もうすぐ期末テストだからその準備をしなくてはいけない。
もちろん、片方は試験作り、もう片方は試験勉強だけど。
「って、どうして電気消すの?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ」
「ちょっとだけ、じゃないよ・・・勉強しないと」
「こっちだって試験作らないと」
「じゃあ、電気つけて」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ」
「・・・」
結局いつも、机に辿り着くまでにこうして1時間以上かかるけど・・・
ようやく二人とも満足して、眠い目をこすりながら机に向い教科書を開く。
徹は数学の教科書。
私は英語の教科書。
「覗かない!」
「ケチ。ちょっとくらい、試験に出る問題教えてよ」
「絶対ダメ!」
私は机に覆いかぶさった。
「他の生徒に不利になるようなことは、私は絶対しないの!」
「ちぇっ」
徹は自分の机に戻ると、数学の教科書を閉じた。
「数学は嫌いだ。日本史から勉強しよっと」