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牛車に揺られて、心が晴れないまま目的地へ辿り着いた。

昔から、陰謀渦巻くと言われる宮中へやってきてしまったのだ。

この場合の昔とは、前世の記憶の昔なので、この世界では陰謀渦巻いているかどうかはわからないけれど。

けれど、どのお話を見ても古今東西そんなものよね。だからそういうものだと思っている。

初めての場所に、心の整理もつかないまま来てしまったのだ。来るしかなかったわけだけど。


一緒にかずらがついて来てくれたから、先に降りて私の手を取ってくれる。

カグヤ様は「私は歩いて行くよ」と言って、牛車の後ろをついて歩いて来た。普段からよく街を歩いているそうだ。

カグヤ様は御所のことをよくご存知なので、御所内へ連れて行ってくださることになっている。

門にいた見張りの武士たちも、「カグヤ様ではありませんか!」「ご苦労様でございます!」と心底嬉しそうに挨拶をしていたのを、私は牛車の窓からこっそり覗いていた。

カグヤ様はすっかり御所の役人たちと顔見知りというわけである。

「さぁいこうか」

カグヤ様を先頭に兄、私、かずらという順で歩き始める。護衛の武士は牛車と待機だ。

砂利を踏み締める。

カグヤ様の足取りだけが軽く聞こえ、私たち兄妹の砂利を踏む足音が重たく聞こえる。

知った場所だからなのか、私の心が重たいからなのか。はたまた、兄妹の歩き方が似ているだけなのか。

所々にいる役人も、カグヤ様を見ると頭を下げる。

さすがカグヤ様である。

「お待ちしておりました」と、屋敷の中から女の人の澄んだ声がした。階段の上に座っている女房がいる。着物もお化粧もお髪も洗練されていて、ザ宮廷人という雰囲気である。

部屋へ通されると、春宮様が出迎えてくれた。焚きしめられている香が爽やかで上品だ。

「久方ぶりだな、あかりどの」

春宮様に会うのは、私が倒れた日以来だ。もう気軽に仲間だと言える間柄ではなくなってしまった。さすがに春宮様に左大臣家の姫が馴れ馴れしくするのはいただけないだろう。

私は平伏し「本日は」とご挨拶を始めると、「やめやめ」と春宮様に遮られた。

「今日あかりどのを呼んだのは、仲間としてのことなのだ。堅苦しいのはやめてくれ」

だから御簾越しではないのね。かずらはもちろん隣の部屋で待っている。

「あかりが春宮に入内と聞いて私は驚いているのだが」

カグヤ様が前のめりになった。

「それな!」

あっはっはっと大きな声で春宮様が笑った。

「いや、なにやらきな臭いものだから。そういうことにしておいてくれ」

「私は納得いかない。春宮は私のあかりへの気持ちを応援してくれていたのではないのか」

「だからだよ」

全く話が見えない私たち兄妹をほっぽって、春宮様とカグヤ様は会話を続ける。

「入内が決まってもおらぬのに、わざわざ当人を呼び立てる必要などなかろう」

確かに! たしかに!!!!!!!

私と兄は顔を見合わせて「「たしかに!」」と声を合わせてしまった。

混乱して言われたまま来てしまったけれど、それなら嫁入り道具など一式揃えて来るのが普通、だよね?

私も入内するつもりなどなかったから、そこら辺の知識はさっぱりなのだ。

「近ごろの左大臣の様子はどうか」

急に春宮様から話を振られた兄は「いえ特に」と少し動揺気味に言った。

「あかりどのは思うところがあるか」

私にも話を振られた!

私も少し動揺しながら「入内の話をした時は、なんだか違和感を感じました。突然だったからかもしれませんが」と答えた。

「そうか。じつはな」

春宮様は神妙な面持ちで声をひそめた。

「ここのところ、左大臣に怪しい影がまとわりついているようでな。わたしはもはや身軽な身ではない。カグヤとあかりどのを守るためにちょっと根回しをしたのだ」

するとにやけた顔になり、カグヤ様と私を交互に見る。

「それで? カグヤはうまくいったのか」

「色々納得いかないが、良い返事をもらったよ」

カグヤ様が胸を張って答える姿に、私は急に照れてしまい、体を縮めた。

「そうか! おめでとう!」

いやぁ、よかったよかったと、春宮様も嬉しそうに笑う。

「カグヤはここにいてもずっとあかりどのの話ばかりでなぁ」

「私はいつでもあかりが第一だからね」

なんでこんな会話を聞かされなければならないのかという気持ちと、そんなに想ってもらえていたのかという気持ちでなおさら体を小さくする。

「もう、はずかしいからやめてください……!」

顔から火が出そうなくらい顔が熱い。

思わず扇で顔をあおいだ。顔を隠す用で持ってきたのに、用途が変わっている。

「ちょっと、話についていけないのですがね」

おずおずと兄が声を上げた。

「あかりの入内の話は?」

「わたしが画策した方便」

「はぁ」

兄は脱力したようで、首をがっくり落とした。

「左大臣家がきな臭いから調べろということですか」

「2人には気をつけてほしい。なにやら色々と吹き込まれているようだ」

お父様とお母様が危険な目に遭うかもしれないということ?

春宮様から言われるということは、もし万が一の事があれば、島流し、いえ、お家が取り潰される可能性もあるということかもしれない。

私は背筋が凍った。

兄と顔を見合わせる。どちらともなく頷き合った。

「お心遣い大変感謝いたします」

兄がそう平伏した。私も習って平伏す。

「わたしはわたしの大切な人たちを守りたいだけだ」

にこにこと春宮様が微笑んだ。

「そういうわけなので、あかりどのは当分の間カグヤと共にこちらへ住まうように」

「はい?」

突然の提案に声が裏返ってしまった。

「それは賛成だ! 近くにいられるとなれば私も安心だ」

カグヤ様は嬉しそうに笑う。

「まさか、ご冗談を」

兄が戸惑った声で言った。春宮様は冗談は……、よく言うわね。

春宮様は、春宮という身でありながら、数多(あまた)の浮名を流すプレイボーイという設定だった!

もちろん攻略対象キャラである。

主人公に出会って、一途になるのよね。

『今までいろんな女の人を見てきたけれど、こんなに強いひとは初めてだ』みたいな感じで。

梨奈はあまり好きなキャラではなかったけれど、私は高貴な身であられるのに気さくなお方で、見聞もお持ちで素晴らしいお方だな、という印象だった。だからこそ春宮様とカグヤ様の仲を勘違いしていたという節もある。

あかりの耳には、その春宮様の過去の女性関係については入ってこなかっただけなのかもしれないけれど。

「まぁ冗談ではないのだが。あかりどのはカグヤの部屋で過ごしてもらうぞ」

「えっそれは、私、ダメです!」

いやだから私まだ未婚なんですけど!?

将来の約束はしたとしても、同じ部屋で寝るとかまだ早すぎます!

そういうのは結婚の時!

心の中で春宮様に反論する。

そんな焦る私に春宮様は肩を落とした。

「まさか、まだ致しておらぬのか? カグヤは真面目だなぁ。16になるまではとか言ってると、他の男に取られるぞ」

ほら、そういうことを言う!

春宮様はやっぱり女性関係が豊富でいらっしゃるんだわ!

「そういうものだろうか」なんてカグヤ様も腕を組んで悩み始めてしまった。

カグヤ様ったら真面目なんだから!

「カグヤどの、春宮様の言うことは聞き流すのが一番ですよ」

慌てて兄が言う。

妹のそういう話は聞きたくないわよね。

「私はあかりと永く共に過ごしたいから、そういったことは段々としていけたらいいなと思っているよ」

カグヤ様が私を優しく見つめてくださった。頬が少し赤みを帯びている。

私の心臓は今まで感じたことのないくらい跳ね上がり、息が止まるかと思った。

心臓を鷲掴みにされたようだ。

「ありがとうございます」

やっとのことで出たお礼は小さすぎる声だった。

けれどカグヤ様には届いたようで、にっこりと微笑んでくださった。

そんな私たちのやりとりを見て「うぶだな」なんて言う春宮様。


更新が遅くすみません。

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