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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第六章
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おまけ⑭

「失敗した?」

「…失敗した。」


灰の言葉に反復するしかできなかった。



公園での一件の翌日、灰にメッセージで昨日のお礼を送ると、ちょっと出てくるように言われた。世話になったので無碍にする理由もなく、言われるまま夕飯前に自転車を飛ばして向かったのは、近所のファミレスだった。


「おいなんだそのシケた面は。」


既にテーブル席についていた灰は到着した俺の顔を見るなりそう言った。


「折角上手くいったんだからもっと嬉しそうな顔しろよ。独り身の俺への当て付けか?」

「…失敗したんだよ。」


含み笑いを浮かべていた口から、飲んでいたメロンソーダらしきジュースを離すと灰が聞き直す。


「失敗した?」

「…失敗した。」

「嘘つくなって。」

「…嘘じゃない。」

「だってなんか抱き合ってなかったか?」

「……。」


後ろで護衛してくれていた灰には見られていて当然か…。

声までは聞こえなかったのか、それとも聞こえないように配慮してくれていたのかもしれないが、


「あれは…、ただ泣いてたから慰めてたというか…。」

「はあ?なんで泣いてんだよ。」

「…それは、」



ざっくり昨日の話をすると、


「はー?」


と頭を掻いていた。


「本当女ってのは意味わかんねぇな。」

「…。」


全世界の半分を敵に回すのは嫌なので同意こそしなかったが、沈黙で肯定したいところではあった。

急に泣き出すし、家族がいいとか言われるし、色々言いたいことがないわけではない。

そんな黒い感情が表に出ていたのか、俺の顔を見た灰が苦笑いを浮かべながら、


「ま、まあでもそんな泣くくらいなんだし…。ちょっとは七も思うところあんじゃん?今日変わった感じとかねぇの?」


そのフォローに、むしろそれが原因で俺は色々言いたいところがあるのだ。


「それが、変なんだ…。」

「変?」




今朝の話だ。

昨日の公園で既に寝落ちしかけていた七は、松戸さんの迎えにきた車の中で大人しく俺にもたれ掛かって眠っていて、家に帰るとその足で部屋に眠りに行ってしまった。

その晩、俺の方も氏神様に呼ばれて大して眠りにつくことできず朝を迎え、朝食ギリギリの時間で廊下を歩いていた。

七がああも感情的になった後で、一体どうなるか不安でしかなかったが。

一晩かけて考えた今のところ予想では、

パターン一:目も合わせない

パターン二:殴りかかってくる

パターン三:そもそも食堂に来ない

さてどれで来るだろうか…。

なるべくこっちは敵意がないことを示し、友好的な態度で行くつもりだ。

普通に、普通にしていれば大丈夫。大丈夫だ…。

言い聞かせながら食堂に向かう廊下を歩いていると、途中後ろから足音が聞こえてきて、…どうやらパターン三はないようだった。

近づく足音にこちらも臨戦態勢を整え、ゴクリと唾を飲み込む。

こちらから振り返るべきか迷っていると、その足音が後ろで急に走り出した。


と、突入してきただと⁉︎


これはこのまま後ろからローキックでも入れられるのかと覚悟を決めると、

どーんっ

と、ひらがなで表記したくなるような可愛らしい体当たりをされた。これが漫画であれば今の効果音が付けられているか、若しくは七が自分で言うところだろう。

背中に柔らかい部分がわかる程度にはしっかりと、だけど加減されたそのタックルが何を意味するのかわからず、


「おはよっ。」


と、横から覗いてきた顔はこんな朝一から見たことない笑顔だった。いつも眠そうに欠伸混じりに言う挨拶も、今日はなんだか楽しげですらある。


「……。」


…………?


「お、おはよう…?」


な、なんだこの七は…。

見たことないパターンに入っている…。

清々しいまでにキャラ崩壊している…。

七は食堂に向かい隣を歩き始めるが、…なんか近い。ほぼ真横を隙間なく歩いているため、歩くたびに身体の部位がどこかしら当たるのだが、嘗てこんなに近づいてくることがあっただろうか。


やっと食堂に入ると既にテーブルには朝食が並んでいて、


「今日パンだー。」


と。いつもの斜め向かいの席ではなく、いつもの席に置いてある朝食をわざわざ俺の隣に並べ直して、何故か俺の横に座った。


………??


俺はまだ夢の中にいるのだろうか…。

ステータス異常で幻覚でも見てたりするのか?

それとも一周回って七の感情がバグっちゃったのか?これで実はめちゃくちゃ怒ってたりするのか?

キャラ崩壊というよりは、もう毒状態に近い。七の方がステータス異常で万能薬を使って早急に回復してあげてほしいくらいだ。


「あのさ…。」

「ん?」


聞かない方が良いのかもしれない。

決して今の七が嫌なわけでも、むしろ聞いたことで藪蛇になるのは、この異常状態が終わってしまうのは正直惜しいが。

だが。

七の内心が、気になる。


「…どうしたの?」

「どうしたって、」


食パンを齧りながら、七は本当に何のことかわからないように、


「何が?」


と首を傾げた。


「……。なんでもない。」


その後も。

学校にいる間も帰った後おやつに用意されていたケーキを食べていた時もずっとこの調子なわけなのだが…。

正直、意味がわからなかった。




「なんかその、いつもと違うんだ…。」

「違うってどんな風に?」

「ステータス異常って感じで…。」

「はあ?」

「…はあ。」


どちらにしろ、昨日失敗したことに変わりはない。

七のあの態度の意味がわからなくてこっちがギクシャクしてしまうし、いつまで続くのかわからない異常状態に素直に喜ぶ気にもなれない。

せめてあの態度の理由がわかれば、もう少し気も楽になるだろうけれど…。

折角協力してもらってまで連れ出したというのに、こんな風にもやもやするならやっぱり昨日きちんと言っておくべきだったか。及び腰になった自分が情けない…。


「はあ…。」

「あんま落ち込むなって…。なんだその、ラーメンでも食べるか?」


…ラーメンを奢ってもらった。




帰り際まで灰に励まされ、重い足取りで。急に七の異常状態が直っていないことを祈りつつ、いや異常状態なら早めに直ってくれた方が後々のためなのか?、家に帰ると、


「おかえりなさい。」

「おかえりー。」


尊と七が相変わらず広い居間の中で隙間なく、くっついて座っていた。

向かいに座った俺に対して、


「ラーメン食べてきたんでしょ?いいなー。」


朝と変わらない笑顔を向けてきた七に、


「はあ…。」

「ん?なんでため息ついた?」

「…なんでもない。」


灰の言う通り。

女の子って、意味がわからない…。


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