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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第六章
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プロローグ

藤堂京介というのは、俺たちが住む田舎から少し離れたところにある、繁華街周辺の土地を手広く所有している地主のご子息だ。藤堂家は昔から商売繁盛のご利益を受けるため、この神楽所神社へ頻回に参拝に来てくれており、その度に多額の初穂料を納めてくれているらしい。

と言っても、参拝に来ているのはいつも京介さんのお父さんの方で、京介さん自体は七のバイト先の店長として紹介され初めて顔を合わせた。肩を超える長い髪を束ねた、失礼を承知で言わせてもらえば、軽薄そうな見た目通りのチャラい男の人だ。

普段は家業を手伝っているらしいが、暇があれば趣味で女子高生を集めたメイド喫茶を開いていて、赤字経営にも関わらずそれが成り立っているのは、それだけ藤堂家がお金持ちだからなんだろう。


しかしだからと言って、京介さんが見た目通りのスケコマシ野郎かと言えば、決してそうではない。


京介さんは確かに女子高生にしか興味はないのだが、それはもう否定のしようがないのだが、だけどそこには不遇な家庭にいる子たちに手を差し伸べるという目的も担っている。

京介さんは自分のお店に七も含めてそういう子たちを置いていて、あまりにも過酷な環境下にいるちかのような子には自分の土地の住居を貸し出したり、顔を利かせて職を紹介したりもしているそうだ。

保護、と言ってもいいような対応を京介さんは彼女たちに見返りなく行っている。

あの警戒心の強い七が、そういえば文化祭の時に辞めたバイト先の店長を、関わりの薄い他人を頼るなんて珍しいことではあったのだが、多分そういう信頼のおける人の良さが滲み出ているからのように思える。女子高生好きだなんだと色々言っていたけれど、七の態度を見るに、信頼をおく数少ない大人に思える。

それをわかっていたから、俺も京介さんを頼った。

別に保護してもらいたかったわけではなく、相談という頼り方で。

尊が東京から帰ってきた日、ちかに誘われて七のバイト先の繁華街へ遊びに行った時、京介さんに会った。偶然会ったわけではなく、遊んだ後にちかにお願いして連れて行ってもらった。


俺はあの時、七との距離に迷走していた。


向き合い方、と言った方が近いかもしれない。あの街で起きていた事件が解決して、やっと七が開放されたというのに、氏神様を起こす方法をーこっちは目覚めが悪くなるようなその方法を知ってしまったせいで七と言い合いになり泣かせた結果、翌日になって七は、最初の頃みたいに俺に警戒しきった目を向けていた。

驕っていたのだと、思い知らされた。

助けたいと思っていて、それがせめて無理だとわかっていたから、七の弱音を吐き出す場所になりたかった。要は、頼ってほしかった。

それが思い上がっていたのだと、思い知らされた。

お婆様に言われた通り、俺は七の家族なんかではないのだと、俺を頼るわけもないのだと、七本人から思い知らされた。


それで放り出せるような問題であれば、諦めがつくのであれば、どれだけ良かったか。

結局自分だけで抱えられなくて、頼ったのが、京介さんだった。


突然現れた俺に京介さんは驚いてはいたけれど、事情を察してくれて、近くの公園で話しをした。

氏神様のことは勿論言わなかったが、七が俺が思っている以上に神楽所家で重要な立場になってしまったこと、それにより七が危険な目に遭うことが多いこと。

家族として助けたいけれど、大人には否定され、七にも拒否されて、俺の立場では何もできないことを、一方的に話し続けた。

それまで黙って聞いてくれていた京介さんは、


「七と君が家族じゃないのなんか、当然じゃん。」


と言った。


「会って数ヶ月の高校生が、血も繋がってないのに家族っていうのは流石に無理があるよ。」


あっさりと、至極当然のことのように言う京介さんに現実を突き付けられて、だけど俺には返事ができないくらいのダメージだった。痛恨の一撃だった。

家族じゃない俺が、七をどうにかしてあげたいなんてことがそもそも間違えているのだと。


「君はさ、七が家族じゃなかったら助けないの?」


京介さんは俺の分と一緒に買ってくれた缶珈琲を飲みながら、家族ってなんだろうね。と続けた。


「色んな子とか、色んな家庭見てるとさ、俺もわかんなくなるよ。血が繋がってたって、ずっと一緒に暮らしてきたって、殴ったり捨てたり、簡単にできるのも家族だからさ。家族なんてそもそもそんなもんだなんて、言うつもりまではないけどさ。」


だからさ、と。

家族だから助けたいわけじゃないんじゃないの?と。


「君がこだわりたいのは家族じゃなくて、七の方なんじゃないの?」


そこまで言われて、そこでやっと、自覚した。


「友達でも親友でも恋人でも、七の隣にいる関係なんて、いくらでもあるんだからさ。ちゃんと七にそう言えば、それを邪険にできるほどあの子は天邪鬼じゃないと思うよ。」


そう言われた俺は、七にその気持ちを伝えようとして。

家族ではなく、別の関係を選ぼうとして。



敢えなく失敗した。



前置きに選んだあの言葉にあんな風に泣かれるとは思っていなくて、家族がいいと泣いてせがむ七に、そう来るとは思わなくて、あまりの予想外に思考がフリーズした。

それと同時に、少し安心したのを隠すつもりはない。

七もそう思う程度には、そうやって泣き出すほどには、俺を思っていたのだと。


で、あるとするならば。


俺はもしかして、これ以上の関係を要求しない方が良いのかもしれないと、色々言いながら泣き続けている七を前に頭を働かせた。

そういえば七はその手の話が元々好きではなさそうだったし。

クラスの誰と誰が付き合ったという世間話をしてもいつもつまんなそうな顔をしていたのは、大して仲良くもないクラスメイトの色恋に興味がないのではなく、ひょっとするとそういった類の話が嫌いなのかもしれないと。

そういえば前にそんなことを言っていたような気もするし。

だとすれば。

俺が提案した関係に。家族だとは思ってるけれどそんなつもりはないと、今度は泣いて拒否されるんじゃないかとびびった俺に、既に一度泣いて拒否されたことにトラウマを抱えている俺に、一体誰が意気地なしだと言えることができるだろうか。

いやそもそも。

あの七が、家族がいいと腕の中で大人しく泣く姿が、神楽所家に来た当初の七を見て一体誰が想像できただろうか。俺は出来なかった。あの時だって殴られる覚悟を持って泣いている七に手を伸ばしたくらいなのだから。


それを思えば、今は家族でもいい。


本当は家族ではない、家族ごっこのような不確定な関係でも良い。確実に着実と、信頼を預けてくれてはいるのだから。京介さんの言う通り、関係はなんだっていい。

俺にとって大事なのは、そこではないのだからと今は思っている。



さて。

それでその意地張りで天邪鬼の七が、俺に泣いてせがんだ翌日に一体どうなったのか。

泣いて怒った翌日は俺が言葉を発しようとする度に凶暴な小動物のように警戒していた七が、泣いてせがんだ後には一体どうなってしまったのか、まずはそこから話したい。


6章始めます。よろしくお願いします!

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