おまけ⑫
「七、長すぎじゃないですか⁉︎」
「そんなに?ちょっと尊もやってみて。」
親族会前のとある日。
いつもの居間で尊と話していると、
「何盛り上がってんの?」
臨が入ってきた。
「今親族会でする挨拶の練習をしていたんですが、」
尊に考えてもらった口上を暗記して覚えていたところだった。
一言って言うから本当に一言だと思っていたが、こういう場で言う一言が本当に一言なわけはなく。思ったより長くて苦戦していたのだが、
「七って滑舌がいいので、気になって見せてもらってたんです。」
「見せてもらったって、何を?」
「凄く長いんです。」
「だから、何が?」
「舌です。」
「は?」
臨が怪訝そうな顔をする。対して尊は、さっきから練習も忘れて、世紀の大発見でもしたような顔でずっと私の舌の長さを褒めちぎっていた。
さっきからずっと伸ばさせられていたせいで、口が疲れていて、会話に参加する気になれず黙っていると、
「そんな、長いとかあるの?」
「びっくりするくらい長いんですよ!」
尊はずっと臨にプレゼンしていて、なんか、あんまりハードルをあげられても困るんだけれど…。
自分でそんなこと考えたこともなかったから、ていうか自分で見えないし。尊のテンションに私もついていかれていない。
キラキラした目で見られるのは可愛いんだけど、ちょっと…、見られている場所が場所なだけに、あんまり喜べない。臨もそう言われても、リアクションに困っていた。
尊にだけはとてつもなくヒットするなにかがあるようで、そんな大発見を臨に見せつけるように、
「やってあげてください!」
今からマジックショーでも始まらんとする勢いだった。
尊のお願いだし、もう一度促されるまま口を開けて「んべ。」と舌を下向きに伸ばす。
「ほら!」
尊が見せつけるように私の舌を手で差しているが、臨もそんなもの見せられて呆れているのか、気分でも害したのか、
「……。」
思いっきり眉を顰めていた。
そりゃあ、それが正しい反応だと思う。
チャームポイントが舌の長さって、設定としても酷過ぎる。
そろそろ口が痛くなってきたし、もう戻していいかな…。
舌を口の中に戻そうとして、
「んむ⁉︎」
臨に舌を掴まれた。
さながら蚊でも叩き落とすようなスピードで、そして、あろうことか素手である。
人に舌を素手で掴まれたことがある人間が、一体この世で何人いるのだろうか。
乾いた指で舌を摘まれるという嘗てない違和感に反射的に引っ込めると、こっちもさながら、あの緑色の恐竜が長い舌を戻すような勢いで、臨の指から簡単に逃げられた。
「んな、何すんの⁉︎」
そう叫びながら。
もう何もされてないのに両手で口を覆い隠すくらい、舌を人に掴まれる気持ち悪さと言ったらなかった。口の中って医学的には臓器なんだっけ、違うんだったっけ?違和感がずっと舌に残って、痒いみたいな感覚に近いかもしれない、ぞわぞわする。
「あ、ごめんつい。」
真顔で謝られても。
よくそのテンションで人の舌を掴もうと思ったな。
これだけの奇異をして真顔なのが怖い。真っ黒な目で見られているのがめちゃくちゃ怖い。
私の怯える視線に、せめて奇行に言い訳をするつもりはあったのか、
「なんか、凄い腹立つ顔してたから。」
「はあ⁉︎」
私は言われてやらされただけなのに、酷い言い草もあったものである。
「さすがに女の子の口の中を触るのはちょっと…。」
やらせた尊もドン引きの所業だった。
いや、一応言っておくがけしかけた尊にも、少なからず責任はあるように思えるけれど…。
臨はそれに抗議するわけでも、反論するわけでもなく、
「…手洗ってくる。」
「洗うくらいならやるなよ!」
いや是非洗ってはほしいけれど。
なんか失礼だろうが!勝手に触っておいて!
私の猛抗議を無視して臨は今来た廊下を戻って行った。
その日の夜。
挨拶もそれなりに覚えて、お風呂に入りながら脳内で反芻したりしていて。
髪を洗い終わった時だった。
目の前の大きな鏡にふと思いついて、徐に舌を出してみた。
「………。」
確かに。
自分でも思うくらいには、腹立つ顔をしていた。
…ちょっと傷ついた。
ちょっと、疲れてるのかもしれません。笑




