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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第五章
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プロローグ

神楽所臨というのは、神楽所分家の息子であり、本家の娘である尊の従姉弟である。

神楽所本家に住んでいるが故に尊ほどではないにしろこの地域じゃ有名人で、成績優秀で品行方正、神楽所家としての意識高い完璧主義な性格に、尊に似た顔はその血を思わせる。


臨の両親のどちらかが尊の母である神楽所遥と兄弟で、尊と臨は従姉弟という血の繋がりがあり。

一方で尊の父の神楽所誠の母である神楽所薫と私の祖母である井上清が姉妹で、私と尊は再従姉妹という血の繋がりがあり。

だから、私と臨は尊という存在を挟んだ上での親戚関係なのだ。

何故だかは知らないけれど神楽所本家で暮らしていて、本当の家族がどこにいるのかは知らないけれど本家の一員として普通に交じっていて、だからなんとなく本家の人みたいな感覚で。幼少期に一度会ったことがあるからか、ずっと顔を合わせていなかった再従兄弟とか従兄弟とかみたいなそんな感覚がしてしまうけれど。

血の繋がりがあるような気がしてしまうけれど。


本当は違う。

他人。

家族でも親族でもなく他人。ギリギリ遠い親戚と言えるかもわからないくらいには他人。


幼少期に一度会っていたという点が同じでも、尊は私にとって家族枠に収められる。再従姉妹だから六等身以内というのもあるし、それに私は演舞の時に尊を見ている。尊の人生を、ここにくるまでの過程を。だからずっと一緒に暮らしてきた家族みたいな感覚が腑に落ちる。

それに尊はあんな完璧そうに見えて本心を出すのがド下手なのだ。私もそれに関して人のことを言えるような性格ではないけれど。私と尊は家庭環境が真逆でも、お互い育ってきた環境の影響を受けていて、それをお互いに知っている。だからこそ。お互い少しずつ歩み寄りながら、受け入れ合いながら、それが心地良い関係を築けている。


だけど臨は違う。


そもそも私が警戒する人間カテゴリーの同級生という存在だった男の子が、急に親戚みたいなカテゴリーに入ってきて。

なのにあの家に行って一番最初に私を家族だと言ったのが臨だった。初めて学校で言われたあの時の気持ちを言葉にするのは未だに難しい。

家族として受け入れたことが嬉しくないわけではないし、他人にそんなこと言われたの初めてで恥ずかしくもあったし、だけどやっぱり家族と言うにはあまりにも他人で。

困る、が一番近い。そう、困る。

赤の他人である私の境遇に同情して責任を感じてみたり、心配してみたり、怒ってみたり、よくわからない不良グループのアジトに乗り込んでみたり。本当の家族みたいにちゃんと内側まで踏み込んでくるのが困る。

私が臨の家族について聞かないのは、本家にいる理由について聞いたことがないのは、お互いのテリトリーを超えないように弁えているからだったのに、臨はその線引きを簡単に超える。

家族と思ったら家族と言えて、身内と思ったら何の遠慮もなくストレートに気持ちを言えるその物言いに。その衒いのない言葉が。

怖かった。

ずけずけと身内のカテゴリーに入ってきて、思ったことを思ったまま言う臨と言い合いになるのが怖い。その言葉に揺さぶられる自分が、臨の優しさを期待するようになった自分が、怖い。


私自身の境遇よりも、寝ている間に刃物を向けられていることよりも、そっちの方がよっぽど怖かった。


だから、神楽所臨というのは。

………、今のところ彼を形容する言葉は見つからない。


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