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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第四章
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おまけ⑩


隣町にコーヒーショップが出来たらしい。

そう、注文の難解なあのコーヒーショップである。フローズン状の季節限定の飲み物で有名なあのコーヒーショップである。

うちの県では既に一店舗あったらしいが、近所では初出店となるそのお店に、テレビでしか見たことないそのお店に、田舎者は話を聞いただけでテンションが上がってしまう。東京の人は全員あれを持って街を闊歩していると聞くし。

尊が見学会で東京に行く前に先に一度行ってみたいと言うことで、学校終わりに松戸さんに送ってもらい尊と臨と来た。


「テレビで見たまんま!」


あの有名なロゴが書いてある看板と店内がよく見えるガラス張りの外装が東京とかにあるお店のまんまだった。


「すごいね!」

「中入ってみましょう!」


尊とテンション高めに店内に入ると、落ち着いた店内BGMが流れていて、店内はまばらに埋まっていた。談笑している奥様方だったり、パソコンで仕事をしている風の大人だったり本を読んでいる学生とか、どことなくその辺りにあるファミレスとかとはまた違った客層な気がした。

レジには何人か並んでいて、私たちもその後ろに並ぶ。

何にしようかと天井からぶら下がっているメニュー表を見ると、


「………。」


やばい、何書いてあるかわかんない。

飲み物も初めて見る名前ばかりだし、サイズのSはわかるけれどTってなに?GとかVはもっとなんだ⁈

…どうやら私はこのコーヒショップを舐めてかかってしまっていたらしい。ここまで難しいとは…。

隣にいる尊はいつも通り落ち着いていて、


「…何にするか決まってる?」

「前から飲みたかったのがあったのでそれにしようかと。七は決まりました?」


尊にこっそりと耳打ちで、


「メニューが全然わかんない。」


すると尊も同じく耳打ちし返した。


「一緒のにしましょうか?あ、でも私が飲むのちょっと苦いかも…。」

「私珈琲苦手…。」

「なら、アレとかどうですか?」


尊が指さしたのは季節限定の飲み物で、フローズン状の飲み物の上に生クリームと秋らしいトッピングが乗った甘そうな飲み物だった。

アレなら飲めそうだ。というか美味しそう。


「じゃあ一緒に頼んじゃいますね。」


ちょうど私たちの番が来て、尊が自分のドリンクと一緒に私のも頼んでくれた。店員のお姉さんにカスタマイズとか色々聞かれていたが、すらすらと答える尊に、


「なんでわかるの?」

「この前テレビで見たんです。」


テレビで一回見たものを覚えてあんな流暢に頼めるなんて、さすが尊だった。

…あれ、そういえば臨は?

隣を見ると、別のレジで臨が注文していた。こっちもすらすらと横長のメニューを頼んでいて、臨は私に見られているのに気付いて、


「ふっ」


ドヤ顔された。


「なんで臨も注文できるの?」

「こんなの常識の範囲内だろ。」


物凄く腹たつ顔でマウントを取られたのだが、尊に涼しい顔で、


「昨日の夜ネットで調べてましたもんね。」

「なんで言うんだよ⁉︎」


努力の結晶だったらしい。


「なんだ、じゃあ私と変わんないか。」

「注文もできない奴と一緒にされたくないな。」

「いいじゃん初めて来たんだから!」

「その台詞ラーメンの時にそっくりそのまま返してあげるよ。」


ラーメンというのは臨と尊が初めて行ったラーメン屋の時の話で、ドギマギしている二人が可愛かったのでつい揶揄ってしまったのだが。

ああ、あれ根に持たれてたのか…。


「まあまあ、」


尊に宥められながら、受け取りカウンターで注文した品を受け取った。車に戻るために歩きながら、


「二人ともすっかりきょうだいみたいですね。」


と、言われた。

………。

つい黙ってしまった私にすかさず臨が、


「やーい、照れてる。」

「うっさい!照れてない!」


小学生か!やーい、て!

仕返しのためなら自分のキャラすら捨てる覚悟らしかった。

このまま根に持たれていても怖いし。まあ、きょうだいと言うのであれば、


「仕方ない。お姉ちゃんとしてラーメンの件は謝ってあげるか。」


なんと言ってもお姉ちゃんだからな。お姉ちゃんというのは下の子ためならどんな犠牲も厭わない生き物なのである。

けれど臨が不満気に、ちょっと待ったと、


「何で七が上なわけ?俺が上でしょ。」

「だって私元々お姉ちゃんだもん。臨はずっと尊の弟みたいなもんでしょ?」

「それは春ちゃんのってだけで、俺とは関係ないだろ。」

「じゃあ誕生日いつよ。」


臨は口を開きかけてから、


「…待った。ズルするといけないからせーので言おう。」

「いいよ。せーのっ」


「臨は四月生まれなので七は負けちゃいますよ。」


と尊が耳打ちした。


「だから、何で言っちゃうんだよ!」


臨が怒っていたが、尊という姉の前だと臨が完全に形無し状態でちょっと面白い。

というか。私は尊に誕生日を言ったことはないのだけれど、なんで知っているんだろうか。どこの情報網で調べられたかを考えるのが怖い…。


尊は怒っている臨と怯えている私を見てから、「でも。」と、


「可愛い弟と可愛い妹が居て、私が一番幸せ者ですね。」


自信満々に、さっきの臨よりも得意気なその顔に。


「「……。」」


私は固まって、臨は口元を押さえて俯いていた。

…姉が強すぎる。

この姉がいる私たちの方が確実に幸せ者だった。


次から5章始めます!よろしくお願いします!

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