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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第四章
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おまけ⑧


四月末。

高校生になって晴れて働ける身になった私は、六月の春の誕生日のためにバイトを始めた。メイド喫茶という一抹の不安はあるが、高給であることは間違いないので(逆にそれが不安要素でもあるけれど)、気合を入れて初出勤したのだが。


「どうせお客さん来ないから、その辺座って好きにしてていいよ。」


着替えた早々店長の京介さんにそう言われ、仕事を覚えるわけでもなく、いきなり手持ち無沙汰になってしまった。

小さめの店内は喫茶店というよりバーとかスナックとかそんな感じの作りで、私以外にも同い年くらいの子がカウンターやテーブルに数人座っているが、全員同じく仕事はない様だった。雑談している子もいれば一人で座ってスマホを弄っている子もいて、する事と言えばたまに京介さんに話しかけられているくらいだった。


「……。」


なんだこの空間…。

本当にこれで給料が貰えるのか不安になっていた。

やっぱり普通のバイトにすれば良かったかな。だけど高校生雇ってくれるところ少ないし、学校の近くはバイト禁止だからバレると困るし…。


「なんか飲む?」


私も京介さんに話しかけられて、


「えっと…。」

「遠慮しなくていいよ。キッチンとか冷蔵庫にあるもの全部好きに飲んだり食べたりしてくれてていいからさ。あ、キッチンはあっちの奥ね。」

「…どうも。」


こんな感じでどうやって営業できているんだろうか…。シフトもなんか来たい日言ってくれればお店開けるからとか言われたし、大丈夫かなこのお店…。


「暇だったらその棚に漫画たくさんあるから、読んでていいからね。」


私が警戒心だだ漏れなのに気付いたのかそう言って会話を終了してくれた京介さんは、見た感じ悪い人では無さそうなのだけれど。

まあお金貯まるまではとりあえず続けるしかないよな…。


とりあえず本当にやる事がないので言われた通り漫画でも読むことにして本棚に向かうと、


「お、おお…。」


漫画好きを唸らせるラインナップが揃っていた。ちょっと古い名作から最近流行っている少年漫画の最新刊まで揃っていて、あ、これ読みたかったやつ!

漫画好きに悪い人はいないので京介さんはいい人な気がしてきた。

数巻持って椅子に戻って黙々と読み始めた。


「それ、面白いよねー。」


…………。

…あ。

え、今私話しかけられた⁉︎

横を向くと、いつの間にか隣の椅子に女の子が座っていた。


「ちかもそれ好きなんだー。」


ギャルだった。胸元の開いた仕様になっているメイド服を見事に着こなしている、スタイルの眩しいギャルだった。


「…、」


突然のギャルに固まった私に、


「あ、ちかだよー。よろしくー。」

「えっと…、七です。」

「七ちゃんねー。タメ語でいいよ、ここみんなそうだからー。」


と向けられた人懐こい笑顔に、少し緊張感が薄れた。そういえばさっき別の子とも雑談していた子で、多分誰にでも話しかけられるコミュ力の高い子のようだった。


「そのキャラめっちゃ格好よくない?」


とキラキラした長い爪で読んでいる漫画のキャラを指差す。黒髪の正統派系のキャラで、ギャルなのに意外とこういうタイプが好きなのか。


「あ、うん。あと意外と優しいし、」

「そうそう!ちか超推しなのー。」


ギャルと漫画の話してる…。

漫画の世界みたい…。


「そのお兄ちゃんが死んじゃう時が熱くてー、」

「えっ。」


まだそこまで読んでなかったから、思い切りネタバレを食らってしまった。

ちかちゃんはちょっと考えてから、「あ!」と口を手で押さえて、


「ごめんー!ちか今余計な事言った!」

「いや、大丈夫…。」


元々ネタバレはあまり気にしないタイプだから別にいいんだけれど、


「忘れてー!」


と何故か腕を組まれて、私の腕にめちゃくちゃに胸が当たっていて。

うわわわわわわわ。

オタクとギャルのラブコメとか始まっちゃいそうだった。


「ちか、今日もう上がりの時間だよ?」


奥から出てきた京介さんが、絡まっている私たちを見て、


「いやあ、若い女の子が仲睦まじいと元気出るよねぇ。」


と笑顔で頷いていた。

何言ってんだこの人…。


「そうだ、今日予定あるんだった!」


とちかちゃんは私の腕を解放してから、


「また話そうねー、七ちゃん。」


と手を振って更衣室に捌けて行った。

私はまた漫画を読むのに戻ったが、


「……。」


柔らかかった腕の感触しか頭に残らなかった。


メイド喫茶も行ったことないですが、夢空間だと思ってます。

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