第九話
「この辺で有名な私立通ってて結構金持ちの友達いるからさ、紹介させてよ。そんで、紹介したマージン俺にくれない?」
俺の嘘に、男たちは俺のところまで戻って来た。
顔に刺青を入れた男は俺の顔をじっと見てから、
「それって、何人くらい紹介できんの?」
「…二十人くらい。」
適当に言ってしまったが。交渉材料として多いのか少ないのか見当もつかない。
それよりも男の品定めするような視線に耐えるのに必死だった。
しかし話に興味は持ってくれたようで、
「お前、名前は?」
「臨だけど…。」
偽名の方が良かったか…。だけどちかに言ってしまっているし、さっき名乗っているのを聞かれている可能性もある。どうせ外部から来た奴らなのだから、神楽所家のことも知らないだろうし、大丈夫だとは思うが…。
「ちょっと上と相談するから待ってろ。」
丸刈りの男がそう言うと、メッセージで誰かと連絡を取っているようだった。少し離れているから見えないが、その連絡先がわかればかなりいい情報になりそうなのだが…。
「り、臨君…?」
そっちに集中し過ぎていて、飲み物を持ったちかが戻っていたのに気付かなかった。
「何してんの?」
聞かれていたのか、先ほどまでと違い強張った顔で俺を見ている。
「…ちょっと俺用事できたから、今日はもういいや。ありがとう。」
ここまで案内させて酷い言い草もあったもんだが、親切にここまで連れてきてもらった上にこれ以上巻き込むわけにはいかない。だけどちかは怒るより先に、
「いやいや、まずいって…。あの人たち絶対やばい人だよ…。」
俺の心配をしてくれているらしく、小声で俺に言う。
「京介さんが最近やばい薬売ってる奴らがいるって言ってたし、関わっちゃダメな人だって…。」
「…俺は大丈夫だから、ごめん、本当に早く帰った方が、」
と俺たちが揉めている間に、
「ボスがいいってさ。」
「取り敢えず話聞きたいから、付いて来てくれる?」
と声がかかった。
ひとまず良かった。根城にでも連れて行ってくれるのであれば、場所だけ見て後は灰辺りにでも連絡すればすぐに制圧してくれるだろう。
それよりも取り敢えずちかを帰さないとまずい。逃げるのにも女の子がいたんじゃ都合が悪いし、
「ちか、いいから帰って、」
ちかは俺を無視して二人の男たちに、
「お兄さーん、ちかも一緒に付いて行っていいー?」
「ちょっ…、」
「…ああ、いいよ。」
それはやばいだろ…。っていうか、あの人達も止めてくれないのかよ。女連れで行けるような緩いアジトなのか?
事情を知らないちかは俺にこっそりと、
「ちかがここまで連れてきちゃったし、一人で行かせられないから。」
とまた腕を組まれた。意地でも付いてくるつもりらしい。
…いい子なんだよなぁ。
あまりここで揉めているのも怪しまれるので、
「…なんかあったらすぐ逃げてくれよ。」
「それ、ちかの台詞なんだがー。」
と笑われた。
「おい、行くぞ。」
男たちに連れられるままに、頑張って入ったクラブは滞在時間わずか三十分程度で後にした。
治安の悪い街中を男たちの後ろを歩いて付いていく。さっきよりも時間が遅くなってきたからか、普通のサラリーマンや学生が減り、どことなく余計に街の雰囲気が悪くなってきた気がする。
歩いてしばらく経つが、この辺りの土地勘がないからどこに向かおうとしているかは見当がつかない。
「さっき言ってたボスって、どんな奴なの?」
前を歩く男たちに声をかけてみたが、
「さあな。」
とそれだけで会話を終えられてしまった。
なるべく情報を漏らさないようにしているのか、それとも下っ端の足切りされるような奴らではそもそも本当に知らないのかもしれない。メッセージだけで連絡を取り合っていれば顔がバレるようなこともないだろうし…。
だけどもし根城に行ったところで下っ端しかいないのであれば、それでは意味が…。
「ねえ、臨君…。」
横にいるちかが不安そうな声で俺に小さく声をかけてきた。
「何?」
「これ、どこ向かってるの?」
「なんか、話できるところって聞いたけれど、」
「…この道の先って廃工場くらいしかないんだけど、本当に大丈夫?」
「…多分。」
廃工場か…。
愚連隊のアジトなら人目につかないような場所にあってもおかしくはないし、だけど、確かに人通りがやけに少なくはなっている。明かりのついた店も減ってきて、そもそもこの辺りはシャッター街のようだ。
基本的には田舎だから栄えている場所が限局的で、一本道を外れただけですぐにゴーストタウンになることなんて普通なのだが、何かあった時に周りに人がいないんじゃ助けも呼べない。
…この先に廃工場しかないのであればアジトは十中八九そこなのだし、ここはそろそろ引いた方がいいのかもしれない。
怪しまれないように歩みを進めながら、ちかに小声で、
「先に逃げて。」
「でも…、」
「いいから。俺も後からすぐに、」
「なんの相談?」
目の前の男が足をそう言っていきなり止めた。
…まずい、聞かれたか…?
すぐに逃げられるようにちかと後退りを始めていたが、男たちは振り返って、俺を見て笑った。
「今更逃げられないぞ。」
「神楽所臨くーん。」
なんで、俺のことを知って…。
「臨君…!」
ちかに引かれ後ろを振り返ると、既に十人近い男たちが退路を塞いでいた。
「なんで…。」
は、嵌められた…。なんで俺のことがバレてるんだ…?
だってこいつらは他所から入ってきた奴らのはずで…。
「この辺で有名な名家のお坊ちゃんなんだってねー。」
「うちのボスがお前のこと知ってたぜ。」
「お前ん家が俺たちのこと嗅ぎ回っている暴力団と繋がってることもさぁ。」
なんで…、
「なんで、そんなことまで…。」
「うちのボスはなぁ、この街のことならなんでも知ってるからな。」
…それは、おかしいだろ。
だってこの愚連隊は氏神様の氏子じゃない他所の人間の筈で。氏神様に信仰心のない人間だから氏神様が見れなくて解決に時間がかかっていた筈で。
なのに、俺が神楽所の人間なのも知っていて…。神楽所家が織衛組と関係があるのなんか知ってるのは限られた人間だけなのに…。
他所の人間がそんな深い所まで探りを入れていれば、必ずどこかで氏神様の、氏子の目に止まるはずなのに。どうやって氏神様の目を掻い潜ってそんなことまで調べられたって言うんだよ。
こいつら、ただ他所から来たってだけの愚連隊じゃないのか…?
「おい、アンタらのボスって一体…。」




