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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第四章
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第三話

「七は携帯を持つべきだ。」


日曜日。京介さんと会った次の日、俺は七に言った。七は昨日帰って手当てされた手の絆創膏が邪魔だと剥ごうとしていたところで、それを聞いて、


「えー、やだ。」

「やだじゃない。」


昨日みたいなことが度々あっては七の身の前にこっちの寿命が縮んでしまう。せめて七が周りの大人にでも助けを求めてくれるならいいのだが、


「助けを求めた近くの大人だって、良い人とは限らないじゃん。」


と言い返された。


「そんなに世の中悪い人だらけじゃないから安心しなよ。」

「私は毎週殺人事件が起きる名探偵の漫画を読んで育ってるから、警戒心が強いの。」

「ここは米○町じゃないから大丈夫だ。」


あの頻度で人が死んでいたら、うちみたいな田舎はとっくに住人がいなくなっている。

本人がこの調子なのだから、もうこんな喧嘩っ早い凶暴動物みたいな奴はGPSで強制的にどこにいるか管理しとかないとダメだ。


「じゃあやっぱり携帯を持ちなさい。」

「オカンか。」


と七はひたすら嫌そうに言う。


「なんでそんな嫌なんだよ。誠さんたちにも持つように言われてるでしょ?」


七を警護する上で、緊急時に連絡をつけるために確実にあった方が良いものだ。元々持っていないのは仕方ないとして、神楽所に来てからも七が頑なに断り続けるから持たないままでいたのだが。もうそうも言ってられない。


「だって、難しそうだし。」

「そんなの使ってみればすぐ慣れるって。」

「わざわざ連絡とる友達いないし。」

「それは知ってる。別に雑談するために持てって言ってるんじゃなくて、自分の身を守るために持つんだよ。」

「どっかに忘れてきそうで怖いし。個人情報とか、漏れるんでしょ。」

「心配なら首からぶら下げておけ。」

「私は犬か。」


とにかく嫌、いらない。と突っぱねる七に、なす術がない。意固地すぎだろ、たかが携帯を持つくらいのことで。

その横で聞いていた尊がすっと七に近づいて、


「私が東京に行った時、携帯があったら連絡取りやすくなりますね。」

「…、」


尊の言葉に七がぴくりと反応した。


「明日から東京に行っても、七に毎日メールしたいなぁ。」

「……、」

「ピンチの時、七にどうやって連絡を取ったらいいんでしょう。」

「………買う。」


おお、さすが尊。七の扱いをわかっている。

尊と連絡が取れる様になれば喜ぶかと思ったが、けれど七はまだ悩んでいる様な素振りで、


「でも、その、名義とか…色々困るんじゃないの?」

「…あ、」


そうか、それで携帯を持ちたがらなかったのか。

夏祭りの後、七は神楽所の養子となることが正式に決まったが、しかし戸籍上はまだ葛七のままなのだ。養子縁組には手続きが色々あって、未成年で親からの同意が得られない状況の七の場合は特に時間がかかっていると聞いた。もちろん神楽所家からの特例の手続きのため、役場も総出で早急に仕事はしていると思うし、通常は一ヶ月から二ヶ月程度でできるらしいからそろそろ終わってもいいとは思うのだが。

学校みたいな通称で通せるところは既に神楽所で通すことができるとは言え、携帯を七の名義で持つには、未成年の七には保護者の同意が必要になるのはもちろんそうだろう。その場合、名字の違う誠さんや遥さんの同意だったり契約でいいとも限らないのか。

俺がスマホで調べようとしていると、「七、」と尊が言った。


「そんなのどうにでもなるに決まっているじゃない。」


…そうなの?結構重要そうなことだと思うんだけれど。

七もそう思っている様で、


「そ、そうなの?」

「そうですよ。だってうちは、神楽所家ですから。」


穏やかに尊は笑った。なんか怖かった。神楽所家はそんなことまでできるのか?…いや、できるだろうな。

一体どんな権限で入手したのかはわからないけれど、事実、夕方には誠さんが、契約者の不確かな箱に入った新品のスマートフォンを持ってきた。


「うわあ。」


色々言っていたが、やっぱり持ってみたい気持ちが少なからずあったのか、手渡された携帯に七は表情を明るくさせていた。


「これ、もう使っていいの?」

「もちろん。」


尊に教えられながら、色々アプリとか入れてもらって連絡先の交換をしている様だった。


「七、スマホ貸して。」


七のスマホに俺も勝手にアプリを入れようとタップする。


「何してんの?」

「これでどこにいるのかわかる様になるから。」

「そんなことわかるの?」


…機械音痴すぎないか。本当に現代人か心配になるレベルだった。

俺が入れようとしたのはスマホのGPSで位置情報がわかるアプリだ。


「あれ、」


もうインストールしてある…?

位置情報を共有するために目星をつけていたアプリが、何故か既にダウンロードされていた。


「尊、これダウンロードした?」


聞いても首を振られた。見てみると、トップ画面上にもこのアプリのアイコンが出ていない。

と言うことは、意図的に隠されているわけだ。

これは多分、誠さんが先に入れて渡したんだろうな…。七が知ったら嫌がるかもしれないと踏んで。

…。まあ俺も同じことをしようとしているわけだし、使い道としても織衛組に共有して護衛に使うためだろうし…。

だけど七が色んな人にどこにいるのか知られていると知ったら、スマホを気味悪がって持ち歩かない可能性もある。知らない方がいいだろう。黙っておこう。

俺はそれとは別の位置情報共有のアプリをタップした。

七は横から覗いているが何が起きているかわかっていない様で、


「これお互いに居場所がわかるの?」

「いや、俺がわかるだけ。」

「なんで?不公平じゃん!」

「不公平って…。」


七の身の安全のために入れただけであって、別にお互いがわかる必要性は何もない。そもそも七は俺がどこにいるのか見ても仕方ないだろうに。それでも、というかそれもよくわかっていないのか、


「いいの!私からも見れる様にして!」

「まあいいけど…。」

「なら、三人で共有しましょう。」


尊の提案で、三人でアプリを入れて共有することになった。

七はアプリを起動して、三人の位置情報が同じ場所にあるのを見ながら、


「これで、尊が東京にいる時にもどこにいるかわかる⁉︎」

「わかりますよ。」

「じゃあ何かあったら絶対呼んでね。絶対助けに行くから。」

「七もですよ。」


相変わらず仲が良い様で…。

二人を見ていると七は俺にも向かって、


「臨もだからね。」


と、いや…。


「それはこっちの台詞なんだけど…。」


本当に携帯を持つ意味わかっているんだろうか。

とりあえず初めて持つ携帯を気に入った様で、尊とスタンプをずっと送り合っていた。

明日から尊はオープンキャンパスのために一週間東京へ行く。七が暴走した場合は、尊に携帯で助けを求めようと、呑気にもこの時はそう思っていた。



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