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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第三章
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おまけ⑤


「お姉ちゃん、」


文化祭が終わり。土曜日に被っていた文化祭の分、月曜日が振替で休日になったので久しぶりにお婆ちゃんの家に帰っていた。

氏神様に夜は身体を貸すため泊まれはしないが、夏休みの時から昼間はちょくちょく帰っていたのだが。最近は文化祭の準備(主に筋トレ)で、時間が作れずあまり来れていなかった。


久しぶりに会った春は神妙な面持ちで私の前に座った。小学生なのに正座が上手な賢い妹である。


「どうした?」

「文化祭があったって本当?」


ぎくり。


「どうして春のこと呼んでくれなかったの。」


どきり。


「お姉ちゃんの意地悪。」


ぐさり。


ぷくりと頬を膨らませている春に、お姉ちゃんは返す言葉もなく白旗をあげる。責めたてる春の言葉に無条件降伏をするように倒れた。

いや、だって。呼べるわけがないじゃないか。

文化祭で私は全裸で演舞をかけた試合をしていたのだから、そんな試合をしているとバレればお婆ちゃんが卒倒しかねない。臨が校舎内のポスターを全部剥いでくれていたから、ぱっと見は気付かないだろうが、私は校内で全裸で演舞の人という不名誉なあだ名でひそひそされてしまっていたため、バレるのは必然だった。というか、改めて考えても不名誉なあだ名すぎる。

実際京介さんにバレて、いじめられていないか心配された…。


「ご、ごめんね春。」

「やだ。春、お姉ちゃんの高校行きたかった。」

「その、高校来てもそんな小学校と変わらないよ?」

「お姉ちゃんの文化祭に行きたかったの!」

「こ、この前の夏祭りの方がずっとお祭りらしくて楽しかったと思うよ?」

「違うの!春は、…。春は、お姉ちゃんが学校でお友達といるの見たかったの!お姉ちゃんが楽しそうにしているのが見たかったの!」

「…春。」


春は私を心配してくれていたのだ。家の事件以降も毎日学校に通う私を。知らない家で生活している私のことを。

だけど…。お友達と楽しそうにしているお姉ちゃんは、文化祭どころか、どこに行っても見ることはできない…。お姉ちゃんとして情けなさ過ぎる…。

姉としての名誉を挽回するため、


「じゃあ、今度代わりにお姉ちゃんと遊びに行こう?どこでも春の行きたいところ連れて行ってあげる!」

「…ど、どこでも?」

「うん、春の好きなところでいいんだよ。どこがいい?」


そう言うと、春は少しわざとらしげに考えて。考えるふりをして。


「うーん。じゃあ春ね、」





「夢の国って行ったことある?」


帰りに買った千葉の観光雑誌とにらめっこをしながら、いつもの居間で呟いた。

前にいた臨が振り返って、


「何、藪から棒に。」

「春がね、今度行ってみたいって言うんだけれど。私行ったことなくて…。なんか難しそうじゃん。」


何とかパスとか。アフター何とかとか。

うちはそもそも家族旅行を殆どしたことがないし、友達のいない私がそんな楽しそうな場所に行く機会もなく、一度も行ったことがないまま気付いたら高校生になっていた。別に取り立てて行きたいつもりもなかったから、私はそれで良かったんだが…。

春はきっと行ってみたかったんだろう。友達の多い春だから、きっとクラスメイトが行くのを聞いて羨ましかったことだってあるだろう。けれど言っても連れて行ってもらえないこともわかっていて、言い出す機会もなく、今日やっと言うことができたのだと思う。それを思えば是が非でも連れて行ってあげないわけにはいかない。

尊が観光雑誌を一緒に覗きながら、


「私は一度ありますよ。小学生の時の修学旅行で。」

「尊の学校も修学旅行東京だったんだ!」

「七も?」

「うん、やっぱこの辺の学校はそうだよねー。」


この辺りの地域では小学校は東京、中学は京都、高校は沖縄と相場が決まっているらしい。唯が通っている私立高校では修学旅行先が毎年海外と聞いたことがある。いいなぁ海外。


「友達いないのに、七は修学旅行楽しめたの?」

「失礼だな。小学校の時はいたもん友達。」

「威張られても…。」


臨と話していると、


「楽しそう…。」


と尊が呟いた。ちょうど卒業旅行らしき、若い女の子たちが制服姿でアトラクションに乗っているページを見ていた。


「そうだ!じゃあ尊の卒業旅行でみんなで行こうよ。」

「え、でも…。…い、いいの?」

「うん!みんなで行った方が春も喜ぶし。」


それに。最後の思い出と言うのは悲し過ぎるから言葉には出さないけれど。

尊が東京に行ってしまう前に、楽しい思い出を作っておきたかったんだ。あとはまあ。この写真の動物の耳型カチューシャを尊につけてほしい気持ちもちょっとだけある。そう、ちょっとだけだ。決してこれがメインなわけではない!


「じゃあ、早く受験終わらせないとですね。」


本気出しちゃいます。と笑って言っていたが、尊が本気を出したら本当に速攻で決まりそうな気がする。大学って何月頃に合否がわかるものなのだろうか?旅行の日程も考えないとだ。


「俺これ乗りたい。」


と臨が雑誌を指差した。臨もしっかり行く気だった。いや元からそのつもりなんだけれど、意外にノリ気みたいだ。

旅行が楽しみなのは私も尊も一緒でしばらく三人で雑誌を見ながら過ごしてから、受験勉強にやる気を出した尊は勉強してくると部屋に戻って行った。それを見送ってから、


「楽しみだなー。」


と呑気に雑誌を捲っていると。


「七もそんなにのんびりしてていいの?」

「何が?」

「来月すぐ中間試験だよ。」

「………。」


そういえばそうだった…。

一学期が遅刻や欠席してばかりで、入学して早々に出席数が危ういため、試験でちゃんと結果を出さないと尊の卒業とかの前に私の留年が危うい。

私は必殺の土下座をしながら、


「勉強、教えてください…。」


夢から現実に引き戻された。

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