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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第三章
46/249

最終話

「待ってください。」


観客の向こうに立っていたのは尊だった。メイド服だった。



スタンダードなメイド服にフリルのついた白エプロンを着けていて、安い既製品だからとか関係なかった。尊がメイド服を着て歩けばそこはもう宮殿だった。


「超似合う!!!」

「今言うことじゃないだろ!」


近くまで駆け寄っていた臨に頭を叩かれた。

だって、私は初めて見たんだからちょっとくらい感動したっていいじゃん!

尊の登場に、思わぬ人物の登場に観客のコールはやみ、私に集中していた視線が全て尊に注がれる。尊は真っ直ぐテニスコートに進んできて、観客がそれに応えるように引いていき、尊のための通り道ができた。その中を堂々たる歩みで、テニスコートまで入ってくる。


「…尊、久しぶりですわね。」


唯は尊の登場に動揺しているようだったが、それを隠すように敢えて尊の真正面に立った。けれど尊は唯を無視して、歩みを止めず、私の方に真っ直ぐ近づいてきた。

尊は私の前まで来て、私と視線を合わせる様に屈む。


「尊…。」


久しぶりに対面したが、尊は無表情だった。相も変わらず近くで見るとびっくりするくらい綺麗な顔で、その大きな黒曜石みたいな目が真っ直ぐ私を捕らえる。

あれだけ試合に勝つと大口を叩いておいて、このザマは情けない。尊もきっと呆れているんだろう。そういえば尊を叩いたことだって謝っていないし、怒っているのかもしれない。いや、尊は私なんかには怒ってすらくれなくて…。


「よくも、」


あれ、怒ってる…?

本当に尊が言ったのか疑ってしまうような低い声で、


「よくも私の七に怪我をさせましたね。」


と。そう言った。

え、そ、空耳?

聞き返そうとしたが、それより先に尊は立ち上がって、唯の方へ向いた。


「選手交代です。七の代わりに私が試合に出ます。」

「「「なっ!」」」


私と臨と唯が三人とも同じように驚いた。私も臨も驚いた衝撃が大きくてしばらく停止していたら、


「そ、そんなの、今更認めませんわ!」


唯が尊の提案を跳ね除けた。だけど尊は淡々と交渉を始める。


「得点はこのままで大丈夫です。」

「そ、そういう問題じゃありませんのよ!これはあの女と私のゲームでしてよ⁉︎部外者は引っ込んでいてくださいまし!」


あの女、と私を指差した唯に、


「なら私が負けたら、罰ゲームは私が代わりにやります。」

「なっ⁉︎」


その発言に驚いたのは唯だけじゃなかった。固唾を飲んで状況を見守っていた観客全員が、驚きを通り越して恐れ慄くような発言だった。あの鉄壁の神楽所尊が、こんなふざけた罰ゲームに身を賭けるというのだから。


「そ、そんなのダメに決まってるじゃん!」


そのあまりの衝撃に思わず叫ぶ。

尊にそんなリスクを背負わせるわけにはいかない。第一、試合はもう殆ど負けているところまで来ているのだから、今更誰に変わったってただ罰ゲームを待つだけのようなものなのだ。いくら尊が県大会で唯に勝って優勝していたとしても、それは小学生の時の話で、それ以来テニスをしていない尊に罰ゲームまで肩代わりしてもらうわけにはいかない。


「私ならいいから!尊にそんなことさせるなんて絶対ダメ!」

「…。」


私の声に尊は黙ったまま、また私に向き直った。

そして、そのメイド服から伸びる両手を。

パン、と私の頬に思い切り叩きつけた。


「っ!…え、痛…。」


両手で顔を挟まれるように叩かれたその手に、両頬がジンジンと熱を持っていて。何が起きたのか理解が追いつかなくて、尊を呆然と見上げる。

尊はその手を離さないまま、私に顔を近づけて、


「この間のお返しです。」


尊らしくない、悪戯げな顔で微笑んだ。

こ、恋に落ちた…。違った。小悪魔みたいな笑顔だった。

それから、


「臨、七をベンチまで連れていってください。」

「いや、でも…。」


臨だって尊に罰ゲームをさせるなんて絶対反対なのだから、そう言われても困っていた。当然だ。そんなの絶対臨が許すわけがない。けれど、尊はさっき私に向けた顔とは違う顔で。だけどやっぱりいつもの尊らしくない顔で、


「私が、負けると思いますか?」


尊のその表情に、その尊らしくない言葉に、


「…いや、思わない。」


臨がそう笑った。

臨は私をなんとか立ち上がらせて、引きずりながらテニスコートから捌けて行くが、私はもう何も言えなかった。そんな野暮なことはできまい。

あれだけ私に対して心配をしている臨が、尊を心配しないのは、違うんだ。そこに私が器だからとか、そんなことは一切関係ない。尊を最も信頼していて、絶対に大丈夫だと確信しているから。神楽所尊に心配など不要だと、一番わかっているのが臨なんだ。

そこには二人で築いてきた絶対的な信頼関係があって、私なんかが何か言うのは野暮だ。尊が信用している臨を、臨が信頼している尊を、私も信じたかった。



そして、尊が代わりにテニスコートに立つ。メイド服のままで。

ユニフォームの唯はともかく、メイド服の尊がいることで(しかも全員の視線を釘付けにするほどに可愛い)コート内はカオスと化していた。観客はいきなりの選手交代に、けれどそのスペシャルなゲストに歓声を上げ、その今日一番の盛り上がりに、


「…仕方ありませんわね。観客のために、選手交代を認めますわ。」


さっきの私と同じように、唯はその観客に外堀りを埋められる形で尊の交代を拒むことができなくなっていた。


「だけど、今更試合を交代したところで勝てると思いまして?小学生の時とは違うんですのよ?」

「思っているから、ここに立っているんです。」


尊が答える。


「私の家族に怪我をさせたこと、後悔させてあげます。」


か、家族っていうのは、私のことだろうか…?文脈的に私のことだろうけれど、現国で今の家族とは誰のこと指すかと問いがあれば間違いなく私と答えられるが。じ、自意識過剰かな。

そんな尊に、唯は「ふん、」と苛立ち気に、


「あなたをこんな形で負かせてもと思っていましたが…、いいですわ。お望み通り罰ゲームで恥をかかせてやりますわよ。」


そしてテニスコートのサービスラインに立った。

そうだ、状況は絶対絶命なことにかわりはない。試合は私が一試合、唯が二試合勝っていて、この試合を落とせばそれでもう負けなのだ。なのに既にさっきのでこの試合すら一点失点しているから、あと唯は三得点で勝利。対して尊は二試合勝たないといけない。


「行きますわよ。」


その言葉に、尊はさっきまで私が使っていたテニスラケットを構える。唯はテニスボールを上に放ると、それを遠慮なく、勢いよく尊に向かって打ち付けた。







「すっげぇ…。」


言ったのは、会場の誰かだ。その声が、たった一人発した声が響くほどに、会場は静寂だった。試合再開後の最初こそ会場は盛り上がっていたのだが、試合が進むにつれ、その歓声は次第に鎮まっていった。今はもう、テニスコートにいる唯と尊のラリーを追うことに全員が意識を集中していて、聞こえるのは感嘆の息を漏らすような音ばかりだ。

テニスコートで続くラリーは、それほどまでに目を引くものがあった。

唯の打ったボールを、尊がスライスで急カーブしたボールを返すと、唯は滑り込んでそれに対応する。体制を崩した唯に尊がすかさずスマッシュをいれ、けれどそれを唯が崩れた体制のまま飛び込む様にラケット内にボールを収める。ラケットから跳ね返ったボールに威力はなく、尊はそれを待っていた様に自分のテニスコートのネットギリギリまで引きつけて、ジャンピングスマッシュでもう一度唯のコートに叩きつけた。唯はコートの反対側に打たれたボールに対応できず、ボールは地面を何度もバウンドして転がっていった。


「尊、うま…。」


最初こそ尊は押されていたのだが、次第に久しぶりに握るラケットの感覚を取り戻してきたのか、それとも天性の才能なのか、この試合の間に唯と互角か、それ以上に成長していった。

目を引かれる理由はそれだけじゃない。

最初は点を取られない様に必死だからなんだと思っていた。試合なのだから当然なのだろうけれど、いつもの姿と比べるのもおかしな話なんだろうけれど、だけど。


「あんなに荒い尊初めてみた…。」


横で臨が呟いた。

そう、尊らしくない。荒々しくて、好戦的で、闘争心に溢れていて挑発的で。テニスコートに立っている尊はまるで尊じゃないみたいだ。

その恐ろしい程の気迫に、尊の美しさが凄みを増していた。強くて綺麗なものがこんなに怖いなんて、知らなかった。こんな尊に睨まれたら、神様だって裸足で逃げ出すかもしれない。コートの外から見ている私や観客ですらこうなのだから、相対する唯が、何も感じていないわけがない。

その証拠に今や唯の方が押されていた。いや気圧されていた。

尊は第四ゲームこそデュースにまで持ち込んでギリギリ勝利したが、第五ゲームが始まった瞬間から猛攻が始まっていて、今決まった点で点数は三対一にまで差が開いている。あと一点で試合は尊の勝ちだ。


「唯、立ってください。」


崩れた体制のまま転んでいた唯に尊が声をかける。尊は滴る汗を拭うこともせず、乱れた髪を整えることもせず、淡々と。唯にトドメを刺すつもりだ。その声すらも、尊のものとは思えない様な鋭い声で。


「それとも、負けを認めますか?」


唯が私に言ったのと同じ台詞だ。こんな風に挑発する尊も見たことがない。

この尊の前に立って、戦意を持ち続ける方が難しい筈だ。私だったら最初の一点でもう逃げ出している。


「くっ…。」


けれど唯は、落ちたラケットを持って立ち上がった。


「あんたなんかに、負けるわけにはいきませんわ。」


もう尊に勝てないこともわかっているのだろうけれど、それでも試合に、尊に挑む姿は、敵ながら感服するものがあった。

そんな唯に容赦なく、尊は唯がラケットを構えるのを待ってから、


「じゃあ、いきますよ。」


最後のテニスボールを放った。







文化祭は二日目の最後は閉会式をして、それから希望者が後夜祭に参加する。

薄暗くなった校庭がキャンプファイヤーで明かりを照らされ、その周りに参加者が集い各々盛り上がっていた。


「怪我は大丈夫ですか?」

「…うん。」


元々ちょっと擦りむいたくらいの、怪我と言える程のものでもない。

校庭の端っこの方で、私は尊と一緒に座っていた。後夜祭は出るつもりはなかったが、閉会式が終わって教室に戻った私を尊が迎えに来て、ここまで連れられてきた。


試合は尊が勝った。


観客は唯の罰ゲームを期待したが、


「試合を交代した私に免じて、今回の試合の罰ゲームは帳消しにしてください。」


と神楽所尊として満点の回答を見せ、それにもちろん誰も何も言えず。まあ、あの試合を見た後に誰も野暮なことを言う気にならなかったのもあると思う。

会場はそれでお開きになり、尊に大逆転負けした唯は泣きながら、


「次は絶対に勝って見せますわ!」


と逃げ帰っていった。ちょっと可哀想ですらあった。

あの尊相手に最後まで戦った唯に、同情込みで、そこまで悪い奴ではないような気がしてしまっていた。試合に勝っても(私が勝ったわけではないし)、罰ゲームをしろとも謝れとも言う気はもうない。今度会ったら、もう少し仲良くしてやってもいい。唯だって、血の繋がった親戚なのだから。

まあ、また尊の悪口を言うのであればビンタくらいはするかもしれないけれど。


「その…、試合、ありがとう。」

「いいんです。」


二人でキャンプファイヤーの火を見ながら、まだお互い少し気まずい空気を残しながらも。それでも、私は口を開いた。


「でも、ちょっと残念だな。」

「何がですか?」

「だって、唯にはあんな風に怒るんだもん。」


絶対に怒らないと思っていた尊が、唯相手にあそこまで獰猛な試合をする程怒ったのだから、なんだか唯に負けた気がする。試合に(私は)負けていたし、勝負にも負けて、私は結局ぼろ負けみたいなものだ。


「私にもちゃんと怒ってよ。この間のことも、家のことも…。」


私の言葉に尊は、地面の土を弄っていた私の手を取った。


「み、尊…?」

「それは怒りますよ。私の大事な家族をこんな風に傷つけるんですから。」


と、擦りむいた方の手を握った。…王子様かと思った。いや、どちらかと言うと見た目は姫なんだけれど。


「痛くないですか?」

「へ、は、はい…。」


このまま指輪でもはめてもらってプロポーズされちゃうのかと思うような、真剣な眼差しで私を見る。え、尊と結婚して最終回?


「七、」

「は、はい…。」

「ごめんなさい。」

「え、な、何が?」


なんで尊が謝るの?ひょっとして心の中の告白を振られた?

だとすれば文化祭の思い出が大失恋で塗りつぶされてるところだったが、そうではないらしく、


「私では、…権力もない私では、七の力になれなくて。」

「…?」


意図がわからず返答に困った。

尊は眉を下げながら、…その顔も尊らしくなかった。


「私は今まで、必要以上に保護された身で育ってきました。」

「う、うん…。」


それは偽りの神様の器として、尊が仕立て上げられてきたからだ。尊にとって、それがどれほど酷いことで、窮屈な生活だったか…。


「それ自体はどうでもいいんです。」

「え?」

「けれど、それはつまり本家の娘が、神様の依代がそれだけ危険な目に合うからということなのでしょう?」

「…まあ、そういうことになるのかな…?」

「七がそういう目に合っていないか、心配なんです。」

「うん、…え?」


話の行き先がわからず、尊の話に曖昧な相槌を打つだけになってしまう。


「…見てしまったんです。神社の手伝いをしている時に、神棚に飾ってある袋の中身を。」

「?、なんの話?」


尊の話がわからないのは、私の理解力のせいだろうか。それとも。尊は、完璧な神楽所尊は、もしや自分の気持ちを語るには、かなり口下手な方なのかもしれない。


「…中身は、短刀でした。」

「な、何だって?」

「氏神様を起こす儀式に使うものだと、一緒にあった古い書に書いてありました。」

「んん?」

「何か、危ない目にあっているんじゃないですか?」

「え、いや、…?」


なんだって?短刀?

そんなものを使っているの見たことないけれど…。演舞の時だって踊ってただけだし、さっきだってスタンガンで氏神様は起きてたし。…?


「私は神様の依代としても、神楽所の次期頭首すらも外れて、全部それを七に押し付けてしまいました。危険なその役目を…。」

「いや、そんな…。」

「今の私なんかでは何もできなくて…。七の傍にいても、何も役に立たないのはわかっています。けれど、七の傍にいて、できることはしたいんです。危ないことからは守ってあげたいんです。」

「…。」

「だから、東京に行けなんて言わないでください。」

「……………、」


ん?


「それが、家から離れたくない理由…?」


なんとか反射的に絞り出した言葉に、尊は本当に真剣な眼差しで、


「そうです。」


と力強く頷いた。


「…私が、尊の立場を奪っちゃったことに対しては?」

「奪ったなんて、そんな気を使った言い方しないでください。私が七を神楽所に呼んだせいで、神様の依代なんかにさせられて…。七を危険な目に合わせてしまっているんですから…。」


あれ?


「神楽所の大人たちが神様を望んでいるのは知っています。その影響力も、なんとなくはわかります。七は優しいから、それを自分が全部背負えばいいと思っているのかもしれないですが、私は嫌なんです。私は、七にそれを一人で背負わせたくない。」

「…………。」


そういえば、そうだった。神楽所尊は幼少期に初めて会った時から、なぜか私にやたらと好意を抱いていて、なぜか焦がれていて。私を過大評価する癖が…。

え、じゃあ、あの

『次期頭首は、私ではなく七に変わったということくらい。』

もそういう意味なの?

立場を奪った私に怒ってたんじゃなくて、押し付けてしまったって自分に怒ってたの…?


「えーっと…、」


完全に処理能力を越えた情報でフリーズした私に、尊は少し迷った顔をしてから。

「…違いますよね、」と意を決してから、


「お、お願いだから、傍で守らせて。」


と、顔を赤めた。その白い肌を赤く染めた。


「私も家族だと思ってるから、敬語も、頑張って無くします。あ、いえ、無くすから…。その、七?」

「………。」


だって。尊が泣いたのも、怒ったのも全部私のためで?そんなの聞いたら、一体どんな顔をしたらいいかわからない。なんて返せばいいのかわからない。

両手離しで大喜びたい気持ちと、結局明後日の方向ではあるけれど尊を一人で思い詰めさせていたことへの罪悪感と、後は…。


「だめ。」


そう、ダメだ。

私の唐突な拒否に、「え?」と尊が不安そうなに言った。

そんな可愛い顔をしたって、だめだ。


「だめだよ。私のためにやりたい事しないなんて。東京には、行って。」

「だけど、」


尊が私を思ってくれる気持ちがあるのと同じくらい。いや、私の気持ちはそれ以上のつもりだ。私のために尊の人生を変えてしまうのは、やっぱりだめだ。


「違うんだよ、尊。私は神楽所に来て良かったって思ってるよ。それは私の家のこととか、家族のためのとか、そういうの全部なしにしても、尊と臨に家族って言ってもらえるのが、嬉しいんだよ。」

「それは、私も同じです。だから傍にいて、」

「あとは、氏神様の依代になれたことも。」

「…。」

「危険があるのはわかってるよ。でもこの力があれば、氏子を守れるんだよ。そしたら、尊のことだって守れるじゃん。」

「…七、」

「臨のことも、春のことも、お婆ちゃんのことも、家族のこと、今度はちゃんと守れるから。」

「七にそれを押しつけて、守ってもらってばかりでは私は…。」

「違うんだって。全部押し付けられたんじゃなくて、今まで押し付けてきたのが私の方なの。」


私がここに至るまで、危険な目に遭わずに普通に生きて来れたのは尊がいたからだ。尊が器として危険な目に遭いながら生きてきてくれたから。

一方で私は神様の器としての損な役回りだけを尊に押し付けて、のうのうと、何も知らずに。自分が何で出来ているかを知らずに生きてきた。この無知の罪に対する罰が、巫女の役目なのだとしたら、尊からそれを押しつけられることにあるというのであれば、私は喜んで受ける。


「私はここに来るまで、ずっと尊に守ってきてもらったんだよ。それに、ここに来てからだっていっぱい守ってもらってるじゃん。だからさ、今度守りたいのは私の方なんだよ。」



氏神様というのはこの地域を守る神様らしい。

神楽所の娘を捧げられ、その何でも見える力が故に争いの火種になる神様で、そうだ、私はこの力を手に入れて思い上がっていた。

その何でもわかる神様と身体を共有する私は、家族のことすら、尊の気持ちすらわかっていなかったというのに。尊を一方的に守りたいなんて愚かで思い上がりで、私がずっと守られてきたことを忘れてはいけない。神様の人柱である私とその人柱をされていた尊は、不完全な神楽所の娘同士、私たちはお互いに守り合う存在でいればいいんだ。



「東京に行っても、尊がピンチの時は必ず呼んで。私が絶対助けに行くから。」

「…。」

「その代わり。」


尊が握るのと反対側の小指を、尊差し出す。


「私が危ない時は絶対尊を呼ぶから、その時は助けに来て。今日みたいに。」

「…、」


尊は一度迷ってから、それから。今日見せた色んな顔の中で、いや今まで見た中で一番、とびっきり綺麗な顔をして、


「…うん。」


と、小指を絡めた。


キャンプファイヤーの火は、燃やす木を無くし次第に弱まっている。後夜祭ももうおしまいだ。灯火をなくして肌寒くなった夜の風が、これからあっという間に冬を連れてくることを教えているようだ。

そうすれば、尊はいずれ東京に行ってしまう。

だけど、何でもわかる氏神様と身体を共有する私だから、そう思うかもしれない。きっとこの約束が、尊が東京に行っても。いや、そのもっとずっと後に、ずっとずっと後に私たちを守り合うような、そんな確信を。そんな予言を。



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