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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第三章
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第七話

翌日クラス中が盛り上がっていた。現金なもので、教室に入った瞬間クラスメイトになんか握手とか求められて応援された。今まで誰一人話しかけてこなかったどころか、目も合わせないようなクラスメイトだったので、高校入って初のーいや生きていてこんなにクラスメイトに歓迎されたのは初めての経験だった。

どう対応していいかわからなくて顔が引きつった。

みんなから聞いたが文化祭当日はテニスコートを貸し切り、うちのクラスの出し物としてテニス勝負をしながらその観客に簡易屋台で食べ物や飲み物を出すつもりらしかった。クラス展は展示や出店系だけでなく演劇のような出し物でも可能になっているらしく、テニス勝負という文化祭らしからぬ?出し物でも他クラスと被ってさえいなければ良いらしい。

若干一名を除いたクラスメイト全員の賛同のもと、その日から着々と文化祭準備が進められた。



数日の間でポスターができて、他クラスと一緒に学校内の色んな箇所に貼られている。ちゃんとポスターに、負けたら全裸演舞!全裸土下座!と書いてあった。神楽所内で言えば多分本家の婿養子とかの方が特典としたら重要だろうけれど、一高校生からしたら神楽所の本家とか分家とかよりそっちの方がエンターテインメントとして盛り上がるのだろう。完全に見せ物になっているようだった。

まあ、いいんだけれど。


「良くない。」


臨が隣でそのポスターを回収していた。


「勝手に掲示物剥がしちゃダメなんじゃない?」

「こんな事文化祭で許されるわけないだろ!」

「いいじゃん。文化祭ってカップルコンテストとか皆んなの前でノリでちゅーとかするでしょ?それと一緒だって。」

「一緒なわけあるか!」


臨は唯と対決を決めた日からずっとこの調子だ。朝昼夜問わず顔を合わす度にずっと怒っている。最初こそ私もちょっとは反省していたけれど、もう慣れた。


「負けたらどうするつもりでいるわけ?」

「そりゃあ、負けたら踊るでしょ。」


書いてあるじゃん。と丸められたポスターを指差すと、


「馬鹿か!そんな事許すわけないだろ!」

「何で臨に許されないといけないの?」


まあ神楽所本家の今後をかけているのだから怒って当然だし許されなくて当然だろうけれど。ちなみにお婆様や誠さんたちにはバレていないようで、今のところ呼び出しは喰らっていない。


「そもそもテニスなんかしたことあるのか⁉︎」

「あるわけないじゃん。運動嫌いなのに。」


せめて走るとかなら出来なくはないけれど、球技はどうしても相容れない存在だ。どの球体とも友達になれる気配すら感じない。

あっけらかんな私に臨は言葉を失っていた。


「大丈夫だって、勝てばいいんだから。勝てば。」


そう言って臨を置いて去ろうとした私の肩を掴んで、


「おい、あの力は使わせないからな。」


バレたか。周りに人がいないのを確認してから、それでも小声で、


「あの力は人に見せていいものじゃないってわかるだろ⁉︎大体髪の毛どうするつもりだよ⁉︎」

「染めればいいんじゃない?」

「そういう問題じゃない。」

「いいじゃん、いつも身体貸してあげてるんだから。私だってこういう所で元を取っていかないと。」

「七、いい加減に怒るよ?」


いやもうずっと怒ってるじゃん。

それでも尚食い下がる臨に、


「…私こそ、臨にも怒ってるから。」


と。何を自分が怒られているのかわからない顔の臨に続ける。


「尊の悪口言われて、家族の悪口言われてなんで黙ってんの?言われ慣れてるとか、いつものこととか、そんなの理由にならないよ。尊が傷ついてないわけないじゃん!」


つい口調が強くなってしまった。半分は八つ当たりも入っていた。臨だってお婆様だって誠さんだって、尊をあんな風に傷つけたことに対して。氏神様の器というだけで私を重宝することに対しての八つ当たりも。


「それは…、」


思うところがあったのか。臨は一度表情を曇らせてから、それでも私に怒った顔をし直した。


「でも、だからって七がこんなことする理由にはならないだろ。」

「だから、尊のことを思ったら怒って当然でしょって言ってんの!家族なんだから!」

「七だって俺の家族だろ。」


…。それを、ここで言うのは…。なんというか、反則でしょ…。


「こんなこと賭けた試合して、心配するのは当然だろ。」

「…。」


…わかっている。臨が私を器として見ているだけではないことくらい。家族として受け入れてくれているという事くらいは。私だってそれがわからない程捻くれていない、つもりだ。だけど…。


「尊だって、こんなこと喜ばないよ。」

「…わかってるよ。」


それだって、ちゃんとわかっている。学校でこれだけ騒ぎになっているのだから、尊の耳に入らないわけがないのに。それでもあれ以来顔を合わせないままの尊が、こんなことをして喜んでいるわけがないことくらい。だけど…、


「私が、嫌だったから。…でも、勝手なことしてごめん。」


心配させて、迷惑をかけている自覚はある。怒りに任せてしまった自覚も、このゲームに課せられた重い罰への自覚も。流石にあの日の夜は自分の考えなしさに震えたくらいだ。


「俺もごめん。俺がちゃんと怒らなかったから、七にこんなことさせて。」


そう謝った臨に、うん。と頷いた。これで臨とは仲直りだ。


「やっぱり身内同士で争うのは良くないよね。」


と言った私に、臨はほっとしながら、


「じゃあ、この試合はやめよう」


か、と言いかけたところを。


「え、やめないよ?」

「…。」

「唯のことを許さないのは別の話だから!絶対土下座させてみせるから見てて!」

「…俺の話聞いてた?」


臨に何を言われようと、尊が喜ばなくとも、そもそも尊をこの試合の免罪符にすることが間違っている。最初から、私は私が怒ったから唯との試合を望んだんだ。他の人は関係ない。


「臨も心配するなら案出して。」


とりあえず、試合で氏神様を起こさないといけない。臨曰く、意識を無くすことが必要らしいがただ寝ているだけでは駄目らしく、具体的な条件がわからない。最初から他人(神様だから他神?)頼りにするのは自分でもどうかと思うが、氏神様を起こす以外に勝ち筋はない。けれど逆に言えば、氏神様さえ起こせれば必勝なのだからこれ以上の選択はない。


「氏神様とは臨の方が仲良いんだから、何か教えてもらえないの?」

「やめろその言い方…。」


だって私では会話すらできないのだから、必然的に臨の方が仲良いでしょうに。なのに何故か臨はげっそりとした顔をしていた。


「だけど、そこについては俺も絶対に教えてもらえないんだよね。」

「ふうん。お婆様とかに聞くわけにもいかないし、どうしたものか…。」


直接話せればどうにか説得できると思うんだけれど。


「そうだ!身体は毎晩貸しているんだし、とりあえず今日の夜氏神様に書き置き残してみる!」





その日の寝る前。布団の横に、


「氏神様へ

こんばんは。今度テニスの試合を代わってほしいので、どうやって交代したらいいか教えてください。」


という書き置きを残しておくと。

翌朝起きたらぐしゃぐしゃにされてゴミ箱に捨てられていた。信者の願いを聞き入れないなんて酷い神様だった。


「だろうね。」


朝、臨に即答された。わかっていたなら止めてほしい。流石にゴミ箱に捨てられているのを見た時は傷ついたんのだから。

ともかく。

氏神様が教えてくれないのであれば、仕方がない。

こうなれば、奥の手を使うしかないようだ。


「奥の手?」

「必勝にしてある意味必殺。この間と同じことをすればいいんだよ!」

「同じ事ってまさか…。」


臨は予測できたのだろう、嫌な顔をしていたが。

一度できたのであれば二度目もできるに決まっている。強硬手段というか、一歩間違えれば電流で必殺()()()手段ではあるが、背に腹は代えられない。

その日の放課後。臨にお願いして呼んでもらったのは、


「お前、よく俺を呼びつけられたな。」


灰だった。

何故か超不機嫌だった。

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