表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第三章
36/249

第二話

二学期の始業式はものの十五分程度で終わり、各々教室に戻ると、一限の終業時間までの間にHRが始まった。担任の先生が教卓に出ると、一度咳払いをして、


「あー、柳沢が親御さんの仕事の都合で二学期からは別の高校に転校することになった。」


と言っていた。夏休みの話題で賑やかだったクラス中が何故か一瞬で静かになった。こういう時って、驚いたりするものじゃないのかな?私が知らないだけで、周知の事実だったんだろうか。っていうか、柳沢って誰だろう。クラスメイトの顔も名前も覚えていないから、男か女かもわからない。

どっちにしろ私には関係ないので窓の外を見ていた。クラスに居場所のないぼっちは窓側の一番後ろの席と相場が決まっているが、私は窓側の真ん中の席だ。

静まりかえった教室で、担任の先生はもう一度強めに咳払いをして。


「来月末には文化祭があるから、うちのクラスでも出し物を決める。」


二学期早々文化祭の準備なんて忙しないけれど、まあ九月末の文化祭まで後一ヶ月ちょっとだしそんなもんなのか。でもやっぱり私は関係ないので窓の外を見て飛んでいる鳥の数でも数えていると、


「じゃあ、神楽所…あー、いや、…学級委員長。あとは頼んだぞ。」

「はい。」


と、前に出てきたのは臨だった。

臨って学級委員長だったのか。知らなかった。

というか、今臨のことを神楽所って呼ばなかったのはまさか私も神楽所になったせいだろうか。臨の事を学級委員長と呼んで、なら私のことはなんて呼ぶつもりなんだろう。まさか神楽所って呼ぶのか?それはなんか、本末転倒な気がした。


「クラスの出し物で何か希望のある人はいますか?」


臨の問いかけに、再びクラスがザワザワしだすが、各々隣の席だったりで盛り上がっているだけで具体的な案は出てこない。私は誰とも盛り上がる事もないので、今後は窓の外に浮かぶ雲の形で連想ゲームをしていると、前から視線を感じた。

臨がこっちを向いていて、「お前も何か案出せよ。」みたいな顔していたが、こっちを見ないでほしい。とりあえず無視しといた。


少し時間が経ちはじめて、私が窓の外から見える山の木を数えているうちに、いくつか案が出たみたいだった。黒板に書かれていたのは、

・お化け屋敷

・迷路

・コスプレ喫茶

・射的屋

と文化祭と言えば、みたいなスタンダードなものだった。コスプレ喫茶はうちのクラスじゃなくて尊のクラスでやってほしい。

先生は黒板を見ながら、


「うーん、悪くないんだけどな…。毎年同じ内容のクラスが出ない様に被らないようにしているから、上級生と被ったらそっちに譲らないと行けないんだ。この内容じゃ三年に持ってかれるだろうな。」


と言っていた。そうなんだ。そしたら一年生ってよっぽど奇を衒った出し物にしないといけないんじゃ…。クラス中もそれを察した様で、またザワザワと色んな案を出して、お互いでそれは被るとかそんなの楽しくないとか収拾がつかなくなっていた。教卓に立っている臨に同情してしまう。学級委員長大変そうだな。

臨は少し考えてから、


「今日は時間がもうないので、各自来週のHRまでに考えてきてそこで決めるのでいいですか?」

「そうだな、そうしよう。」


と一旦保留になった様だった。来週からは文化祭に向けていくつか授業を潰して文化祭準備にあてるカリキュラムになっているらしい。今日は木曜日だから、三日間考える猶予が出来た様だ。まあどっちにしろ私には関係ないので窓の外を(以下略)。

とりあえず二限目からは授業が普通に始まり、なんとか夏休み最終日に終わらせた課題も提出できて、無事二学期がスタートした。



と、思ったが。

お昼休み。私の名字が例え神楽所になろうと、氏神様の器になろうとも、友達がいないのには一切変わりなく。誰かから話しかけられるわけでもなく、誘われるわけもない私は、一学期と同様に校舎裏に行ってご飯を食べようとしていた。

教室を出て廊下を歩いていると、


「七、」


と。後ろから声をかけてきたのは臨だった。


「何。」

「どこ行くの?」

「校舎裏。」


必要最低限の返しになってしまうのは、こうやって話している合間にも、遠巻きに知らない生徒たちから見られているからだ。ただでさえ目立ってしまうのだから、普通に話しかけてこないでほしい。


「一人で外出たら危ないって。教室で食べなよ。」

「危ないって?」

「分家とか、」

「ああ…。いや、学校だし大丈夫でしょ。」


それに、氏神様にだって毎晩身体を貸しているんだから、危険があれば先にどうにかしてくれているだろうし。


「学校だから安全かなんかわからないじゃん、教室で食べなって。」

「…ぼっちの私に教室で一人でご飯食べろって言うの?」

「…。じゃあ、俺たちと食べる?」

「馬鹿じゃないの。」


クラスの男子たちに混ざって一緒に食べるとかどんな拷問だ。もはや分家より危険な思想だった。


「七はなんかないの、文化祭でやりたいこと。」

「普通に雑談を始めるな。」

「文化祭を機に友達作った方がいいんじゃないかと思って。」

「余計な心配しなくていいわ!オカンか!」


臨は神妙な顔で、


「氏神様にお願いして占いの館とかやったら、人気者になれるんじゃない?」

「大丈夫、それ?お婆様に殺されない?」


あと人気者になる必要ないし。

臨は最近、割とフランクに氏神様について話してくる様になった。ちょっと前ー春が拐われた後は氏神様についても、春の拐われた件についても異様に落ち込んでいたけれど、私があまりに楽観的だからか気持ち悪い程の気遣いもなくなった。私もそうしてくれていた方がありがたい。私に妙に優しい臨とか、普通に気持ち悪い。

ちなみに、神楽所家に住むのにいつまでも薫さん扱いするなと直々に言われて、薫さんのことはお婆様と呼ばされる事になった。何だか、急に育ちが良くなったみたいでまだ言う度に気恥ずかしい。


「保健室で食べさせてもらうから、それでいいでしょ?」

「まあ、それなら…。」


なんで臨に許可を得ないといけないのか。だけど確かに、一人で外に出て拐われたなんて笑えないので仕方ない。方向転換をして、校舎裏から保健室に向かった。


けれど。二学期早々に保健室で昼食を取り出した私が不登校にならないか、保健室の先生に凄く心配されて、凄い優しくされてしまった…。二学期初日、酷いスタートの切り方だった…。





学校が終わり、夕方。生徒会の仕事を終えて薄暗い時間に尊が帰って来た。


「おかえり!」


尊を玄関で待っていたのは、朝のお礼が言いたかったからだ。


「今日の朝、その、ありがとう。」

「いいんです。何か困ったりしなかったですか?」

「大好き!間違えた、大丈夫!」


ついうっかり告白してしまった。うっかりうっかり。


「そういえば、尊のクラスは文化祭何やるか決まってるの?」

「うちはコスプレ喫茶だそうです…。」

「やったー!!!!」


小躍りする程の今年一番の喜びだった。


「尊は何着るの?」

「それが、衣装の準備が難しいから各々用意することになっていて。」

「じゃあ好きに決められるってこと⁉︎」


尊と話しながら、尊の部屋を経由して、着替えを待って、一緒に食堂に向かう。


「いえ、コンセプトがあるみたいで…。」

「そうなんだ…。」


残念だが、浴衣姿は見れないらしい。


「ちなみになんのコンセプトなの?」

「…メイド喫茶らしいです。」

「メイド喫茶…!」


思いもよらない素晴らしい響きを反芻しながら食堂に入ると、臨がもう座っていた。


「尊のクラスメイド喫茶なの?」

「はい…、私が生徒会の仕事をしている間に決まってしまっていて…。」

「まあ大方尊に着せたかっただけだろうね。」


何という卑劣なクラスメイトだ。文句を言いに絶対に文化祭当日は尊のクラスに行かないと。絶対に…!


「ああいう衣装って、どこで見繕えばいいんでしょうか?」


困った顔をする尊に、


「それなら、」


ドンキとか、と言おうとしたが。臨に遮られた。


「特注とかじゃないの?」


どこの世界で文化祭でオーダーメイドの服を作る生徒がいるのか。


「でも、なるべく費用は抑えるようにと言われていて。」

「家政婦さんにお願いして作って貰えば?佐藤さんとか裁縫得意だし。」


佐藤さんというのは家政婦さんの一人で、裁縫が得意で演舞の練習用巫女服も何度も破れたところを直してくれた。そりゃあ佐藤さんに頼んだら、かなり上等な衣装ができることだろう。だけど、


「文化祭ならドンキとか通販でいいんじゃない…?」


むしろ、そのチープさがいいとすら言える。尊が上等なメイド服を着たら、学校が宮殿と間違われてしまうことだろう。ドンキで用意した安い衣装だからこそ、文化祭らしさが、高校生らしさが引き立って、それが文化祭の魅力なのではないだろうか。と、文化祭で楽しんだこともない私が語るのもおかしな話だけれど。


「なるほど…?」


臨がわかったのかわかっていないのか、首を傾げながら頷いていた。


「そこで買うとどれくらいなんですか?」

「うーん。ピンキリだけれど、安いやつなら五千円もしないかな?」

「…それって普通の感覚だと安いのか?」

「さあ…。でもお小遣いの半分もしないので、安そうじゃないですか?」

「…。」


二人は金銭感覚がぶっ壊れているようだった。毎月数万円もお小遣いをもらっていれば当然か…。この間私も初めて遥さんから渡されて、高校卒業までの三年分かと思った。家ではお小遣いとかなかったから、自分でバイトして稼いでたし。

そうだ。そういえば、


「私、メイド服タダで用意できる当てあるよ。」



そうして尊と臨と週末向かったのは、私のバイト先だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ