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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第三章
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プロローグ

氏神様というのは、この神楽所神社を守る神様なのらしい。

元々は神楽所家を守っているー氏姓を守る神様だったらしいが、その絶大的な力によっていつしか私たちの住む地域そのものを守る神様になったらしい。

あとは女の神様で臨曰く若い男が好きらしい。


さっきかららしいらしいばかりで申し訳ないのだけれど、私は直接見たことがないのだから仕方ない。私はその氏神様を祀っている神楽所神社の家の血筋で、唯一の女系の家系で、その氏神様の器だという。私の身体を使い氏神様は起きる事ができるらしいが、その間の私の記憶は一切ない。意識がなく、記憶がない。なので不可思議な話だが(それを言ったら氏神様がそもそも不可思議な存在だが)、私たちは同じ身体を共有しているにも関わらず、それ故に絶対に関わり合いになることがない存在なのだ。

私も氏神様とやらを見てみたかったので、残念極まりない。神様に会えたらお願いしたいことがいくつもあるのに。例えば春の幸せとか、お婆ちゃんの健康とか、あるいは尊の事とか臨の事とか。あるいは…。


まあ氏神様は願い事を叶えてくれる神様ではないらしいので、そういった事をお願いしたところであまり意味を成さないのかもしれないけれど。

願いを叶えない神楽所の氏神様が、じゃあ何なら出来るのかと言うと、氏子の全てを見ることができるらしい。

氏子というのは氏神様の信仰者、信者のことを指すそうだ。この地域で神楽所神社にお参りに行ったことのない人間なんかいないから、多分、この地域の全ての人間が氏神様の氏子ということなのだろう。

夏祭り、初詣、七五三、厄除祈願、合格祈願に安産祈願、家内安全、交通安全、商売繁盛、恋愛成就。あるいは縁切りだったり呪いの類だったりを願うこともあるかもしれない。ともあれその願掛けにお参りに行くのがこの地域では必ず神楽所神社なのだ。

もし仮に神社に行った事がない人間が居たとしても。

みんな一度は神に祈った事があると思う。

テスト前とか間一髪事故に合う瞬間とか、お腹が痛い時とかそういう時に神に祈ることが、一度はあると思う。その瞬間、この地域の人間が真っ先に浮かぶのは神楽所神社の神様なのだ。そうやって親から、学校から、社会から、地域から、私たちは生まれた時から教わって生きてきた。多分、ずっとずっと前の代から。

そうやって祈りを捧げることで、氏神様の氏子になるらしい。そしてその氏子の目からこの地域の全てが見えて、全てがわかる。それだけに止まらず、その氏子同様のスキルまで習得できるというのだからもはやチートみたいなものだ。見えていて、理解していて、習得している。なら信仰者がもっと広い規模になれば。例えば世界で一番頭の良い人だったり、世界で一番強い人だったり、世界で一番偉い人だったり。そういう人たちを氏神様の信者にした時、氏神様はどうなってしまうだろうか。


私が、氏神様と身体しか共有していない私が、心を通わせるどころか一度も会話すらした事もない私が、もしそれを聞かれることがあればこう答えると思う。それは禁忌じゃないのかと。必要以上に力を求めれば、在る物に満足できない人間は、きっと神様から罰を受けるのではないのかと。それが十六年近く自分の家族にない物ねだりをして来た私が、今の私になって言えることだ。


けれど世の中には色んな立場の人がいて、だからこの氏神様の力を必要とする人間は沢山いる。それももちろん当然の事だろう。だからこそこの氏神様の力は、神様の器は、私の身体は常に誰かに狙われながら、脅かされながら。それでも氏神様を頼りたい人間たちに求められながら、私は器としてこれからも神様と身体を共有していくのだろう。


私はそれに大して悲観はしていない。器になるまでの経緯の事を『騙されていた』という言葉を選んだ臨に、強がったわけでもなく。

そもそも私はこうして神楽所家の世話になって、私だけじゃなくてお婆ちゃんや春の経済支援を、両親のいざこざをどうにかしてもらえる為だったら、多分最初からそれを知っていたとしても、同じ事をしていたと思う。春やお婆ちゃんを巻き込まれるのだけは許せないが、それも氏神様がいればどうにかしてくれるという話だし、恐ろしくも頼もしい神楽所本家の後ろ盾や、恐ろしくも恐ろしい織衛組も護衛についてくれているというのだから、例え分家に狙われていると言っても、むしろ分家の身の方が心配な程に。私は割と自分については楽観的に考えてしまっている。

それよりも。

氏神様は全てを守りたいーつまり和解を望むのに、その氏神様が引き金で本家と分家は織衛組や萬場組だったりと他者を巻き込んで争いをしているというのは、平和を望む氏神様の存在そのものが争いの火種になるというのは、酷いマッチポンプみたいな話だと思う。

神様に捧げるような美しい話では到底なくて。薄汚くて、人間臭くて、愚かで思い上がりな、そういう話。

だけど、今回するのはそういう話だ。

私と尊が、氏神様を巡って争う話。神様の人柱である私の人柱をさせられていた尊と、清算して、蹴りをつける話だ。


時は九月下旬文化祭当日。県ベスト八の強豪選手を前に、私はテニスコートに立っていた。

負ければ神楽所神社の威信に関わるような(あと私の貞操に関わる)大変な試合が今始まろうとしていた。

3章始めます。よろしくお願いします!

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