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イサイアスに捧ぐ  作者: 万事塞 翁
第二章
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おまけ②


「そういえば、カーディガンが無かったんだ。」


尊と臨とご飯を食べている時、ふと思いついたままを口に出していた。


「カーディガン?」


臨が焼き魚を箸で器用に解体しながら聞き返す。


「そう、カーディガン。」

「もしかして、二学期から着る用のですか?」


私たちの高校の学生服はブレザーなのだが、夏場は上着を脱いでブラウスのみになる。夏休みに入るまではそれで良かったんだが、標高の高い地域のため夏休み明けからはめっきり寒くなるので、10月の冬服への切り替えまでにカーディガンを着る子が多いのだとクラスの女子が話しているのを聞いた。(友達がいないから直接は聞いていない。)

ちなみに夏場でもカーディガンの着用は可能で、尊はいつも紺色のカーディガンを着ている。絶対にカーディガンを脱がずシャツのボタンも上までしっかり閉めて、不必要に肌を出さない尊の事を学内では鉄壁の神楽所尊と呼ぶらしい。(これも人が話しているのを聞いた。)


「そう!やっぱりみんな来てる?」

「そうですね。二学期から着始める子が多いですね。」

「そっか、じゃあやっぱり買いに行かないと。」


明日松戸さんに車を出してもらう算段をつけていると、


「良ければ、私のあげましょうか?去年二着買ってあんまり来ていない方があるんです。」

「そ、それはつまり…!」


尊のお下がり!

尊のお下がり…!

魅惑の響きすぎてつい二度反芻させてしまう。

最近尊好きが止まらなくて拗らせている私だった。


「あ、ごめんなさい、嫌ですよね。お下がりなんて。」

「嫌じゃない!」


今日一番の大きな声が出てしまった瞬間だった。

絶対いい匂いがしそう。あと学校でオークションを開いたらとんでもない金額が付きそう。


「やった。尊のお下がりだ。」


小躍りしている私に、臨はまだ魚を解体しながら、


「でも去年タンスの整理する時に古い服まとめて捨ててなかった?」

「あ…。」


うっかり、と言う尊の顔も可愛かったが、


「ごめんなさい、そういえばその時に捨ててしまったかもしれないです…。」


尊のお下がりという泡沫の夢が散ってしまった。


「あぁ…。」

「なら、明日一緒に見にいきましょう?」

「行くっ!」


今日一番の大きな声を更新した瞬間だった。

尊とデート!

尊とデート…!

魅惑の誘いについ二度反芻させてしまった。もはやこの胸の高鳴りは恋なのかもしれない。


「じゃあ、明日お昼を食べてから行きましょう。」

「うん!」

「俺本屋も行きたいな。」

「…。」


臨も付いてくる気らしかった。




翌日。昼過ぎに玄関前で待っていた尊は水色のストライプ柄をしたワンピースを着ていた。少しレトロなシャツワンピースが清楚な尊と似合っていて最高に可愛かった。一つにまとめた髪の隙間から見える白いうなじが眩しい。


「可愛いっ!」


と叫んでしまうほどに。いつもの家で過ごす時の落ち着いた感じの服も可愛いが、私のためにこのワンピースを着てくれたかと思うと尚の事輝いて見える。


「ちょっと、煩いよ。あと七のためには着てないって。」


後から玄関に出てきた臨が言うが、臨の私服は知らん、どうでもいい。


「わかってるよ。そう思うだけでも楽しいの!」

「そんな事ないですよ。七と買い物が楽しみだったので、昨日から選んだんです。」

「尊…!」


そのまま尊に抱きつこうとして、臨に止められた。



いつも通り松戸さんに車を出してもらい、この辺では大きいショッピングモールに来ていた。田舎のショッピングモールは地元民の行きつけなので、みんな迷う事なくカーディガンのある店に向かっていると、


「めっちゃ可愛いね。」

「大学生?いや、高校生?」


尊が速攻で囲まれていた。髪色が明るくて服装も派手なガラの悪い大学生くらいの二人組だった。

一緒にいた私と臨には目もくれず、


「田舎なのにレベル高すぎじゃね?」

「てか、君もしかして雑誌載ってるよね?巫女さんだよね?」


県の観光雑誌に神楽所神社が取り上げられていて、そこに演舞を踊る尊の写真があるらしい。それ自体はすごい事なのだが、今年はいきなり私が踊ったからあの雑誌を楽しみに来ていた人には申し訳なかった…。


「俺たち観光客なんだけどさぁ、ちょっと一緒に来て案内してよ。」


なるほど。この二人は余所者で、神楽所家を知らないから尊にこんな態度で出られるのか。地元民で神楽所の本家の娘と知っていれば、ナンパなんて家の土地ごとこの地域から抹消するような自殺行為だ。

けれどこの二人は尊を田舎の可愛い巫女さんとしか思っていないようで、尊の肩に馴れ馴れしくも触ろうとして。


「おい尊に触んな。」


私が合間に入った。


「なに?君の連れ?」

「じゃあ一緒に来てもいいよ。4人で観光しようよ。」


尊とのデートを邪魔するなと言い返そうとして、


「七、危ないから下がっていてください。」


尊に制された。


「み、尊こそ危ないから逃げた方が…、」

「大丈夫ですよ。」


尊はにっこりと笑って。

スッと、細い右腕を真っ直ぐ上にあげた。


「?」


男たちは意味がわからず首を傾げる。私も意味がわからずに首を傾げるが、まさか何でもできる尊なら、運動神経も抜群の尊なら、こいつらを一本背負いでもしてしまうのかと、神楽所一子相伝の技の構えなのかと期待して。

けれど、


「おい兄ちゃんたち、ちょっとこっち置いで。」

「旅行中とは言えオイタが過ぎるねぇ。」


と後ろからもの凄くガラの悪い男たちが来て、二人組が囲まれていた。ガタイの良い身体に堅気とは思えないオーラを放つ男たちに、ガラの悪いと思っていた二人組がもうチワワにしか見えなくなった。

そのままあれよあれよと二人組は連れ去られて、どこかに消えていった。


「ね、大丈夫でしょう?」


腕を下ろしながら私に微笑む尊に、


「ど、どちら様…?」

「織衛組の護衛の皆さんです。」


織衛組と聞いて、私は隼おじさんのトラウマが蘇る。この間怒られて超怖かった…!堅気じゃないおじさん本当に怖い…!


「…まさか、いつも傍に居らっしゃってたんですか…?」

「私たちが出かける時は大抵…、知らなかったですか?」

「…。」


いつも傍に寄り添う織衛組とか超怖すぎだった。けれど、


「何かあれば何でもお願いを聞いてくれるから安心ですよ。」


うふふ、と穏やかに笑う尊に。

よく考えればあの恐ろしい織衛組を合図一つで自由にできる尊の方がもっと怖過ぎるのでは…。神楽所本家の娘の恐ろしさを垣間見てしまい、それからしばらくは尊に敬語だった。


ちなみにカーディガンは同じことを考える生徒がたくさんいたので、夏休み最終日近い今頃はとっくに売り切れた後だった。

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