おまけ①
深夜一時過ぎ。
いつも通りに。平常運転で。日常茶飯事な。
そう、いつものことだ。
一階から聞こえてくる父の怒号と母の叫ぶ声なんて。
「うるっさい…。」
ベッドの中で布団を被るが、けれど一度耳についた雑音はもう離れてはくれない。
毎日毎日、よく飽きもせず罵り合う言葉が見つかるものだ。愛し合って将来を誓い合った二人の末路がこれだと言うのなら、私は一生結婚なんかしない。家族なんかいらない。
「さっさと別れればいいのに…。」
口に出したところで、仕方ない。世間体を気にしてどうせ別れないのだから。だからと言ってそれに巻き込まれる子供に気持ちにもなってほしい。
煩くて、煩わしい。
一度喧嘩しながら泣いている二人を見たことがある。どうして自分たちで喧嘩して、泣くのだろうか。被害者みたいな顔ができるのだろうか。
巻き込まれている私たちの方がよっぽど被害者なのに。
「お姉ちゃん…?」
下のベッドで寝ていた春が起きてしまった。急いでベッドの二段目から降りて、春のところに行く。
「どうした?」
「お母さんたち、また喧嘩してるの…?」
半分まだ寝ているのか、うつらうつらとしながら言う。
「大丈夫だよ、気にしないでいいから。寝な。」
「…でも、春止めに行かないと…。」
春は二人の喧嘩に仲裁に行って、結局いつも泣いて帰ってくる。まだそれが無駄だと言うことに気がつかないのだ。私はずっと前に気がついた。気がついて、諦めた。
「いいんだよ、春がそんなことしないで。明日も学校でしょ?起きれなくなっちゃうよ。」
「ん…、お父さん、今日は部屋来ない?」
「…。」
前に酔っぱらった父親が、子供部屋に入ってきて暴れて部屋をめちゃくちゃにした事がある。止めようとした私も、春も殴られて翌日アザができてしまった。
それ以来鍵のない子供部屋の扉の前には、通せんぼするみたいに中から重たい衣装ケースを置くのが毎日寝る前の日課になっている。
私が殴られるのはもう構わないが、こんな小さい春を殴るのは絶対に許さない。
「大丈夫だよ、絶対入って来れないから。」
「…お姉ちゃんは、大丈夫?」
「…大丈夫だよ、一緒に寝よ。」
「うん…。」
頭を撫でていると、そのまま春はまた夢の中に戻っていった。
「大丈夫だよ、春。」
眠った春に、私自身に、安心させるように。良い夢が、見れるように。
いつかきっとこんな家族ぶち壊して。
「いつか、お姉ちゃんがあんな親、殺してあげるからね。」




