第十五話
私が尊に呼ばれ、初めて神楽殿に入ったあの時。
尊に演舞を踊る様に言われたあの時。
「私は、その父親が母親を刺すような家で育っているんですよ…?」
「知っています。」
あの時。私は、ある決意をした。
「わかりました。ただし、条件があります。」
「条件?」
そして。
「あなたのお願いを聞く代わりに、私のお願いを一つ聞いてください。」
ある約束を、取り付けさせた。
「言ってください。」
神楽所尊の目が私の目を見た。
この真っ直ぐな目を、それだけで私を責め立てるような綺麗で真っ直ぐな目を、私は見返す。
彼女に比べて、私がどれほど汚いだろうか。
「私の父親を殺してください。」
そう言うと、尊も臨も、目を見開いた。さっきまで驚かされてばかりだったが、立場が逆転したみたいだった。
「神楽所なら、出来ますよね。神楽所に睨まれれば、この地域では生きていけないって言うくらいなんだし。」
「それは、そういう意味じゃ…。」
臨が狼狽る声を出す。
「神楽所は、表にも裏にも、顔が利くんでしょう?だったら、傷害事件の犯人を一人消すくらい簡単じゃないですか。天下の神楽所でしょう?」
「いや…。」
最低な事を、最低なお願いをする私に、二の句が告げない臨と、尊は黙ったまま私を見ている。
私は、淡々と。
「父親はせいぜい数年後には出所してきますよ。この狭い地域で傷害沙汰を起こした人間を受け入れてくれるわけもない。だからってここから出ていく程の根性はあの父親にはない。また、この地域で同じようなことを起こします。」
淡々と、告げる。説得できるだけの材料を。父親を、殺すための説得を。
「そうしたら、迷惑がかかるのは私の養子に入れた神楽所になりますよ。」
それを聞いて。尊は一度目を閉じてから、
「なるほど、だから先に危険要素を摘んで欲しいと言うことですか。」
「はい。」
正直に言おう、
「私はもう、あいつに人生を狂わされたく無いんです。」
この時の私には、春のこともお婆ちゃんのことも、頭になかった。
ただ、私のために。私のためだけに。
「わかりました。」
神楽所尊はその頭を縦に振った。
「あなたが演舞を踊る代わりに、どんな手段を使ってでも、約束します。」
約束を、交わした。




